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No.01 2005年ダウンアンダー第5ステージ 死の淵からの生還
プロ初のラインレース勝利は、人生の復活劇でもあった。前年のアストゥリアス一周中に意識を失い落車し、脳に海綿状血管腫が発見された。頭部には70針の縫い跡。人工昏睡3週間、立ち上がるまでに1ヶ月半、自転車に乗れるようになるまで6ヶ月の時間を要した。しかし事故からわずか8ヶ月後、チームメートにして総合リーダーのLLサンチェスと共に、ウィランガ・ヒルで勝利に向かって飛び出した。栄光の歴史が、幕を開けた瞬間だった。
プラトー・ド・ベイユのてっぺんで、初々しい一発を放った。山頂まで8km、自らの加速で集団を切り裂くと、最後はラスムッセンとの一騎打ちを制した。純白の新人賞ジャージを身にまとい、24歳で、初めてのツール区間勝利を手に入れた。ちなみに現在確認できる最古のバキューンは、同年春のパリ~ニース最終ステージ。とてつもない大逃げで区間と総合の両方を制すると、あらん限りのガッツポーズで喜びを炸裂させた後に、指ピストルを出した。
No.03 2007年ツール 初めてのマイヨ・ジョーヌ、初めてのツール制覇
チームメートから「キッド」と呼ばれ可愛がられていた若者が、「キング」になった。第17ステージ終了後に、初めて黄色の衣に袖を通した。以来、公式記録によると、コンタドールは通算60日間に渡ってグランツールのリーダージャージを着用することになる。しかも生涯を通して、グランツールの表彰台は、最上段しか知らない。ツール総合2勝、ジロ総合2勝、ブエルタ総合3勝のグランツール通算7勝は、自転車競技史上4位タイの大記録である。
恐るべき底力の証明だった。開幕1週間前に、急遽、電話で呼び出された。恋人(現在の奥様)とのビーチバカンスを慌てて切り上げた。当然ながら調整不足だった。じゃあ他選手のアシストに徹して、1週間でリタイアしようかな..とぼんやり考えながら走り出した。ところがあれよあれよという間に総合順位は上がった。花粉症を乗り越え、ライバルたちの対コンタ包囲網もくぐり抜けて、ついにはドロミテでピンクのジャージを手に入れた。
No.05 2008年ブエルタ 3つのグランツールすべてを勝ち取って
自転車競技の歴史にその名を永遠に刻んだ。ジロ、ツール、ブエルタの3大ツール全制覇を成し遂げた史上5人目の選手となった。同一年に2つのグランツールを手にしたのは、1998年以来10年ぶりの偉業だった。しかも2007年ツールから、立て続けにぽん、ぽん、ぽん、っと出場した3つのグランツールを連続で勝ち取った。祖国スペインで快挙を成し遂げたものだから、ブエルタ開催委員会から3つの大きな輪をかたどった記念トロフィーを贈られた。
誰がリーダーなのか、実力で示した。隠居生活から帰ってきたアームストロングとの同居は、決して簡単ではなかった。チーム内に味方は数えるほどしかおらず、3日目には横風分断に嵌められた。監督からは強烈に批判された。この日、チームカーはすべてボスのために出払っていて、マイヨ・ジョーヌは兄の車で会場入りするしかなかった。無線さえ故障していた。ひたすら自らの内なる声を聞いてペダルを回し、トップタイムを叩き出した。
No.07 2012年ブエルタ第17ステージ 伝説的ロングアタック、逆転マイヨ・ロホ
フエンテ・デ。このなんの変哲もない2級山岳で、伝説が作られた。総合2位で迎えたこの日、コンタドールは大胆な賭けを打った。フィニッシュまで50kmも残して、果敢に飛び出した。道中ではアシストと、元アシストが、献身を尽くしてくれた。最後はひとりで突き進んだ。1秒たりとも無駄にすまいと、補給も取らず必死に走ったせいで、山頂ではピストルを出す余裕さえなかった。ただ細い両腕を天に投げ出して、区間と総合をいっぺんに手に入れた。
まるで不死鳥のように、コンタドールは幾度だって蘇った。7月14日、落車による右脛骨折でツール途中棄権。7月23日、ブエルタ欠場発表。7月24日、再手術。7月29日、自転車での練習再開。8月5日、再度ブエルタ欠場を発表。8月13日、突如痛みが消失。8月17日、ブエルタ行き発表。8月23日、ブエルタ開幕。9月2日、マイヨ・ロホ着用。9月8日、山頂勝利。9月13日、2つ目の山頂勝利。9月14日、総合優勝。いまだ右脚にはテーピングが貼られていた。
No.09 2015年ジロ第16ステージ 鉄拳制裁、モルティローロで怒涛のごぼう抜き
王者を怒らせた罪は重かった。総合2位のアルが、リーダージャージの不運に乗じてはならぬ..という不文律を破った。コンタドールのパンクの隙に、猛烈な加速を切った。マリア・ローザはただ冷静に、怒りを、力に変えた。ジロ屈指の難峠モルティローロの山道で、ただ1人、追走を開始した。恐ろしき「マイ」ペースで約30人を抜き去ると、わずか5.5kmで50秒もの遅れを取り戻した。それどころか若造を非情にも振り払い、格の違いをまざまざと見せつけた。
自らの哲学を最後まで貫いた。大会前に現役引退を発表したコンタドールは、決して守りに入りはしなかった。3日目の不調でタイムを落とすと、連日のように勇敢なアタックを繰り返した。最終日前日も、超難関峠アングリルへと向かって、猛然と飛び出した。2008年に人生初めてブエルタ区間勝利を手にし、初めてのリーダージャージを身にまとった思い出の頂で、最後のチャンスを見事に射止めた。美しきフィナーレに、王者の瞳には嬉し涙が光った。
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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