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サイクル ロードレース コラム 2018年9月17日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 第21ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マイヨ・ロホカラーにおめかししたチームジャージと自転車のミッチェルトン・スコット

マイヨ・ロホカラーにおめかししたチームジャージと自転車のミッチェルトン・スコット

3週間の旅を無事に乗り越えた158人が、日曜日の午後遅く、最後の100kmへと走り出した。24時間前に、アンドラの山の上で、マイヨ・ロホを巡る争いはすべて終了した。4賞ジャージのうち、たしかに緑のポイント賞ジャージだけは、数字の上ではいまだ持ち主が変わる可能性はあったけれど……総合覇者サイモン・イェーツを最前列に抱くプロトンは、スペインの首都へ向かってのんびりペダルを回し始めた。

いつもの黄色と黒のジャージから、赤と黒のジャージに着替えて、ミッチェルトン・スコットは2012年チーム創立以来初めての栄光を満喫した。そう、2017年ツール・ド・フランスから数えて、実に5大会連続で英国人がグランツールを勝ち取ってきたけれど、サイモン・イェーツこそが史上初めて「スカイ所属ではない」英国人チャンピオンだった。ブエルタ開幕直前にサイモン&アダムのツインズは、2020年までオーストラリア籍チームとの契約を更新したばかり。8月に26歳になったばかりの若者とミッチェルトンの冒険は、まだまだこれからも続くのだ。

たっぷり1時間ほどサイクリングを楽しんだ後、マドリードを南北に貫く全長5.9kmの市街地周回コースへ、ブエルタ一行は静かに滑り込んだ。グランツール最終日の古き良き伝統に則って、この日限りで現役を退くイゴール・アントンが、ほんの少しだけ前方で走ることを許された。2010年大会に区間2勝と絶好調ながらも、落車骨折で、マイヨ・ロホを着たままリタイアを余儀なくされたクライマーは、沿道に詰めかけたファンたちから暖かい拍手を贈られた。そしてたっぷり1周かけて35歳のアントンが別れの儀式を終えると、いよいよ今大会最後の戦いが始まった。

2度目のフィニッシュライン通過と同時に、ティアゴ・マシャドが飛び出した。5人がすかさず後に続いた。しかし厳しい山々を必死で乗り越えてきたスプリンターたちが、厳しい集団制御に乗り出した。6人には最大でも10秒ほどしかリードを与えず、4周回目であっさり飲み込んだ。入れ替わるように、すぐさま新たな4人が逃げを作り上げると、今度はしばらく余裕が与えられた。タイム差は決して20秒を超えることはなかったが、約37kmに渡りエスケープを続けた。

引退するイゴール・アントンが沿道のファンにご挨拶

引退するイゴール・アントンが沿道のファンにご挨拶

それでも、3日前にぎりぎりでスプリント勝負を逃した後悔を繰り返すまいと、スプリンターチームは一切の妥協を許さなかった。残り7kmですべての逃げを回収し、鐘の音と共に、ますますハイスピードで最終周回へと駆け込んだ。

色とりどりの隊列が何本も組み上げられた。中でも最前列で強烈な存在感を放ったのは、やはりクイックステップの青いジャージだった。すでに第3ステージと第10ステージでスプリント勝利をもぎとった世界最強の列車は、残り2km、この日も最前列へと進み出た。

ところが、アシスト3人が前方へと突進を続ける一方で……肝心のイタリアチャンピオンジャージが見当たらなかった。アシストたちが何度後ろを振り返っても、後輪にエースの姿はなかった。エリア・ヴィヴィアーニは、なんと前方から20番目ほどに沈んでいた!

「残り2kmのロータリーで、リードアウトの後輪からはぐれてしまったんだ。だから最終コーナーでは、僕があるべき場所にいないこと、減速する必要があることを、アシストたちに伝える必要があった」(ヴィヴィアーニ)

ただ幸いにも、こんな状況にありながらも、ヴィヴィアーニには自信があった。常に「僕らは世界最強のスプリント列車を持っている。僕らがベストを尽くせば必ず勝てる!」と固く信じていた。モチベーションも高かった。前夜のエンリク・マスの勝利に大いに刺激された。「絶対に2日連続でチームに勝ちをもたらしたい」と意気込んでいた。

なにより時空を超えたリベンジを果たしたかった。5月のジロでは、区間4勝+ポイント賞ジャージを持ち帰りながらも、最終日ローマの集団スプリントを2位で落とした。だからこそ、マドリードでは、絶対に負けたくなかった。最終盤のカオスに紛れて、ヴィヴィアーニは巧みに前方へと競り上がった。さらにはラスト100m、ライバルたちが横一線でスプリントを切る横から、一気に前方へと飛び出した。残り25mでついに最前列を奪うと、そのままフィニッシュラインを先頭で駆け抜けた。

「3週間で最後のスプリントだから、大会前半のスプリントに比べると、随分とパワーが落ちていたね。でも代わりに、僕には、上手く状況を切り抜けられる能力があったのさ。思い通りの結果を手に入れることが出来た。みんなでつかんだ結果だ。とても誇らしく思ってる。僕にとっても、チームにとっても、本当に素晴らしいブエルタになったね」(ヴィヴィアーニ)

マドリードでのスプリント勝負を制したのはエリア・ヴィヴィアーニ

マドリードでのスプリント勝負を制したのはエリア・ヴィヴィアーニ

ヴィヴィアーニ本人にとっては今ブエルタ区間3勝目。今ジロの4勝を加えると、2018年グランツールだけで通算7勝を手に入れたことになる。もちろん所属チームのクイックステップはジロ4勝+ツール4勝+ブエルタ4勝=12勝目の大量勝利を叩き出し、年間通算勝利数は67に達した。1ヶ月平均8勝で、2018シーズンが残り1ヶ月だから……75勝まで伸ばせるだろうか?ちなみに過去10年の年間最多勝利数は、2009年コロンビアHTCの85勝である。

3年目の世界チャンピオンジャージで走る最後の日に、ペーター・サガンは2位に滑り込んだ。今大会トップ3フィニッシュは6度目。また3位のジャコモ・ニッツォーロは……人生16回目のグランツール区間トップ3入りに泣いた。

スプリンターたちの激闘ににまぎれて、真紅の衣に身を包んだ王者が、同タイム32番目でフィニッシュラインを越えた。この瞬間、サイモン・イェーツの、2018年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝が決定した。

ジロの失敗を教訓に、「自分の動くべき時を冷静に選択」し、力配分を制御した賜物のマイヨ・ロホだった。第9ステージでは早くも予想外の総合首位に立ったが、一旦あえてレッドジャージを手放す老獪ささえ披露した。一方で第14ステージでの見事な区間勝利と共にマイヨ・ロホを取りしてからは、逆に「攻撃は最大の防御なり」と、常に持ち前の積極性を発揮し続けた続けた。

「もしかしたらブエルタを勝てるかも、と本気で考え始めたのは第19ステージの終わり。ライバルたちに首尾よくタイム差をつけられたからね。それでもなお、安心はしていなかった。第20ステージを走り終えるまでは、決して集中力を切らさなかったんだ」(サイモン・イェーツ)

総合表彰台のサイモン・イェーツ、エンリク・マス、ミゲル・アンヘル・ロペス

総合表彰台のサイモン・イェーツ、エンリク・マス、ミゲル・アンヘル・ロペス

そして1分46秒差の2位エンリク・マス、2分04秒差の3位ミゲル・アンヘル・ロペスを両脇に従えて、サイモン・イェーツはとうとう表彰台のてっぺんに立った。宵闇の訪れたシベレス広場にゴッド・セイヴ・ザ・クイーンが流れ、本人はいつもとまるで変わらないさばさばした様子で、大勢の観客の前でマイクを握った。

「僕は演説があまり得意ではないのですが……。ただチームに感謝の意を伝えたいと思います。彼らがずっと以前から僕の才能を信じ続けてくれたことを、本当に嬉しく感じています。家族や友達、恋人にも大いなる感謝の意を表したいですし、そしてなによりチームオーナーのゲーリー・ライアンにも。だって、もちろん、彼のおかげでチームはこうして存在するのですから。彼がいなければ、僕らは今日、この場にはいなかったでしょうからね。うん。以上です。ファンのみなさんありがとう!」(サイモン・イェーツ)

38歳のアレハンドロ・バルベルデは人生4度目のポイント賞表彰式を楽しみ、トーマス・デヘントは生まれ初めて山岳王の称号を手に入れた。本来は総合争いのためにスペインに乗り込みながら、4日目で早くも大幅にタイムを失ったバウケ・モレマは、数え切れないほどの逃げで大会を盛り立てた。区間2位3回、山岳賞2位、デイリー敢闘賞3回と大きな成果を持ち帰ることは出来なかったけれど……マドリードでは総合敢闘賞のご褒美が待っていた。

2018年のグランツールの戦いは、こうしてすべて幕を閉じた。「せっかくだから今夜は赤ワインを飲んでお祝いしたいな」と笑うサイモンにとって、しかし、いまだシーズンは終わってはいない。スペインの山々で赤ジャージを奪い合ったライバルたちと、おそらくまた2週間後に、チロルの山々で死闘を繰り広げることになるのだろう。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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