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ラスト2.5kmの壁が、本物の強者をあぶり出した。前方では無名の23歳オスカル・ロドリゲスが、世界中にセンセーションを巻き起こした。後方ではナイロ・キンタナとサイモン・イェーツが、自らこそが2018年ブエルタのマイヨ・ロホ候補であることを、改めて強烈に印象づけた。
32人の巨大な逃げは、スタートからほんの15kmほどで出来上がった。ブエルタ参加の全22チーム中、実に17チームが、前方へと選手を送り込んだ。うち9チームが複数人をエスケープに投入した。中でもラファル・マイカやバウケ・モレマといったビッグネームのために、それぞれ2人のチームメートが、惜しみなく先頭交代に加わった。なんとロット・ソウダルに至っては、「当初の指示は3人だったんだけど」(byビョルグ・ランブレヒト)……大胆にも5人で逃げた!
人数が多い上に、牽引要員を大量に要する前方集団は、至極簡単にプロトンとの差を開いていった。差はあっさり最大9分半にまで広がった。
新たにマイヨ・ロホを身にまとったヘスス・エラダは、「ジャージを守る」と高らかに宣言した通り、チーム総出でコントロールを試みた。なにしろ前方には、区間2勝にして、総合で7分04秒遅れのベンジャミン・キングが潜んでいた。
「最初は僕も逃げに飛び乗ったんだ。でもすぐに後ろに下がった。もしかしたら、できるだけ長く、前に留まるべきだったのかもしれない。そうすればチームメートの作業も少しは減っただろうから。とにかく32人も前にいたから、制御はひどく大変だった。ありがたいことに、他のチームが牽引に加わってくれた。彼らの協力がなければ、到底ジャージ保守は不可能だっただろう」(エラダ)
元所属チームのモヴィスターが、牽引作業を積極的に分担してくれた。ステージ半ばの1級峠に差し掛かると、アスタナも前方を引き始めた。24時間前に「自発的に」ジャージを手放し、制御作業の責務から解放されたはずのミッチェルトン・スコットさえも、残り30kmを切るとスピードアップに加わった。おかげで全長8.3kmの最終峠の入り口で、差は3分45秒にまで縮まった。
アストゥリアスの山々を舞台に争われたのは、ステージ優勝やマイヨ・ロホだけではない。たとえば青玉ジャージを巡る競り合いも繰り広げられた。第2ステージ終了以降、山岳賞を堅守してきたルイス・マテマルドネスはもちろんのこと、これまでの逃げでかなりの得点を収集してきたトーマス・デヘントにモレマ、さらにはキングが、まとめてエスケープに乗り込んでいたからだ。
1つ目の3級峠ではマテ「以外」の3人がポイントを稼ぎ、2つ目の1級峠では、熾烈な山頂スプリントをデヘントが勝ち取った。マテも3位通過で4ptを追加。総計を64ptへと伸ばし、1日の終わりには12回目の山岳賞表彰式を楽しんだ。ただ2位キングには、27pt差から24pt差へと、わずかに距離を詰められた。3位モレマは30pt差、4位デヘントは31pt差で追いかける。
ちなみにフィニッシュ手前70km、山頂スプリントの勢いを利用して、デヘントとキングがそのまま下りアタックに打って出たことも。ただしボーラが決して抜け駆けを許そうとはしなかった。さらにフィニッシュまでの距離が40kmを切ると、ボーラのマークス・ブルグハートとジェイ・マッカーシーが、32人の先頭を引っ張る時間が長くなった。
ついに8.3kmの最終峠に入ると、複数を送り込んだチームの「アシスト」たちが、総出で引き始めた。ボーラはマイカのために、トレックはモレマのために、ロットはランブレヒトのために、カチューシャはイルヌール・ザカリンのために……。そして、残り3.3kmで、ザカリンが真っ先に勝負を試みた。
しかし、平均勾配7.5%というまやかしの数字を持つラ・カンペローナが、真の姿をあらわにするのは、ラスト2.5kmなのだ。突如として勾配が15%超に跳ね上がるこの地点で、マイカが満を持して飛び出した。
どんなに歯を食いしばって、どんなにペダルを回しても、まるで一寸ずつしか先に進まないような激坂で、メルハウィ・クドゥスは必死にしがみついた。しかし、すぐに力尽きた。2日連続で逃げたディラン・トゥーンスは、じわじわと追い上げた。ついには残り1.6kmでマイカに並んだ。しかし、そこから、勾配は20%を超える。2人の苦しみも最大限へと達した。
そんな中、ロドリゲスが、背後から着々と距離を縮めてきた。監督から「お前はディーゼルタイプだから、無理にアタックに反応するな。ただ自分のペースを保て」と無線で指示されたバスク人クライマーは、ひたすら一定速度でペダルを回し続けた。4月にティボー・ピノが総合を制したツアー・オブ・アルプスで、山岳賞を持ち帰った若者は、 残り1.2kmで2人をとらえた。
「僕はリズム変化に苦しむタイプなんだ。だからマイカが飛び出した時には、もう負けだ……と考えた。それでも自分のリズムで上り続けているうちに、2人に追いついた。並んだ時に彼ら2人を見たら、ひどく苦しそうな表情をしていた。だから、ほんの少しだけ力を込めて、そして僕は前へ出た。あれはアタックとは呼べないよ。あくまでも自分のリズムを少し上げただけだから」(ロドリゲス)
ラスト1kmのアーチの手前で抜け出してからは、何度となく後ろを振り返った。イヤホンを落とし、無線がまったく聞こえなくなったせいだった。
「でも、どっちみち、もはや無線は聞いてなかった。あとはなにも考えなかった。ただ呼吸し続けて、死んでしまわぬよう気をつけただけ」(ロドリゲス)
マイカも最後の力を振り絞り、残り500mで再加速を切ったが、もはや追いつくことなど不可能だった。今季からプロコンチネンタルチーム登録に切り替えたエウスカディバスクカントリー・ムリアス所属の、すなわち今季から正式なプロ選手となったロドリゲスが、生まれて初めて出場したグランツールで、プロ1勝目をもぎ取った。
もちろん今年初めてブエルタから招待状を受け取ったチームにとってもーー2013年末に消滅したエウスカルテル・エウスカディ以来となる、バスクに基盤を置くチームだーー、初めてのグランツール勝利となった。
「今日もたくさんのバスクファンを見かけた。僕にとっては、新たなエウスカルテル・エウスカディの誕生だよ」(ロドリゲス)
後方メイン集団も、最終峠への突入と共に騒がしくなった。熾烈な先頭争いとスピードアップが繰り返された。好位置を奪ったのはミッチェルトン・スコットで、有能な山岳護衛ジャック・ヘイグの刻む恐るべきテンポに乗って、そのまま激坂ゾーンへと飛び込んでいった。
あっという間にメイン集団は1ダースほどに小さくなった。エラダもすぐに脱落し、「マイペース」に切り替えた。一番にアタックを打ったのはウィルコ・ケルデルマンだった。キンタナとイェーツはすぐさま後輪に飛び乗り、有力勢もきっちり反応した。ところがミゲル・アンヘル・ロペスは、メカトラブルが原因で、ほんの一瞬立ち止まらざるを得なかった。幸いにも素早く自分自身で解決し、後を追いかけ始めるが……。
「ライバル集団に戻るのに、多くの労力を要した。だからキンタナとイェーツがアタックを仕掛けた時、もはや僕には追いかけるだけの体力が残っていなかったんだ」(ロペス)
締めくくりはイェーツとキンタナの一騎打ちに持ち込まれた。いや、残り1kmの直前で飛び出した2人にとっては、どうやら「共闘」でもあったようだ。キンタナが「僕ら向きの地形だからイェーツに協力を促したんだ」と語り、サイモン・イェーツも「勾配が緩むゾーンまで、ちょっとしたドラッグレースさながら、ふたり並んでひたすらスプリントした」と付け加えたように、2人で後方との距離をまんまと開いた。最後はキンタナが加速し、イェーツに6秒差をつけてラインを越えた。
その3秒後にエンリク・マスが、さらに8秒後にアレハンドロ・バルベルデとピノがフィニッシュ。ロペスはキンタナから20秒を落とし、被害を最小限に食いとどめた。真っ先に仕掛けたケルデルマンは、他の3選手と共に25秒遅れだった。
そしてエラダは区間勝者から4分18秒、キンタナからは1分46秒遅れで1日を終えた。つまり総合でのリードは3分22秒から1分42秒に小さくはなったけれど、望み通りに赤ジャージを守りきった。総合トップ10のメンバーの顔ぶれにも変化はなかったが、ただし順位の入れ替えは行われた。総合2位サイモン・イェーツの次点には、キンタナが8秒差につける。バルベルデは4位へとひとつ順位を下げ、悔しいロペスは8位から5位へと浮上した。
一方で総合2位から11位まで47秒以内にひしめきあう状態は、激坂の果てで打ち止めとなった。そうは言っても、まだまだひどい接戦であることに変わりはない。総合2位から4位まではわずか14秒差しかなく、総合2位から8位までが1分以内に鎮座している。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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