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サイクル ロードレース コラム 2018年9月6日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 第11ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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アレッサンドロ・デマルキがラスト4.5kmを独走フィニッシュ!

アレッサンドロ・デマルキがラスト4.5kmを独走フィニッシュ!

大会で一番静かだったステージの翌日に、めまぐるしいアタック合戦が繰り広げられた。残り4.5kmで大きな一発をぶっぱなしたアレッサンドロ・デマルキが、ありえないほどのドンパチを独走で制した。サイモン・イェーツは1秒差のマイヨ・ロホを守り切ったが、ミッチェルトン・スコットとモヴィスターチームとの間では、フィニッシュ後に仁義なき口撃が飛び交った。

「弾は一発しか残っていなかった。脚は空っぽだった」(デマルキ)

全長200kmを超える今大会最長ステージを、プロトンは猛スピードで走り始めた。細かい起伏の続く難解な道で、無数の選手が、勇んで飛び出しをかけた。逃げスペシャリストのトーマス・デヘントはもちろん、すでに区間2勝を手にしているベンジャミン・キングや、今ジロ総合4位のリカルド・カラパスもチャンスを狙った。3大ツール全制覇のヴィンチェンツォ・ニバリや、今大会マイヨ・ロホを3日間着用したミカル・クヴィアトコウスキーさえも大胆に逃げを試みた!

しかも延々とバトルは続いた。数人が前方に走り出すと、プロトンが吸収に動く。集団がひとつになると、すぐに誰かがカウンターアタックを仕掛ける……。時速48km超というとてつもない高速の中で、ただひたすら、分裂と吸収とが繰り返された。

おかげで、単純なメカトラブルで足止めを食らったミゲル・アンヘル・ロペスは、集団復帰にひどく苦労させられた。27秒差で総合7位につけるコロンビア人クライマーは……なんと一気に1分半も離されてしまったのだ!チームメートたちが必死に引き上げてくれたおかげで、約50kmもの追走の果てに、ようやくプロトンへの合流を成功させた。

なにしろ気が遠くなるほどのアタック合戦は、実に2時間以上も続いたのだ。集団前線で必死に対応を続けてきたサイモン・イェーツ親衛隊も、ついに限界が迫っているのを感じた。

「ステージの折り返し地点まで延々仕事を続けたけど、もうこれ以上はとても無理だった。チームメートたちは完全に疲れ切ってしまった。だから逃げ集団に選手を送り込むことで、マイヨ・ロホを守る作戦へと切り替えた」(サイモン・イェーツ)

こうしてスタートから105km、ようやくエスケープが許された。19人の大きな集団が出来上がり、ミッチェルトン・スコットは総合で4分29秒遅れにつけるジャック・ヘイグをまんまと送り込んだ。

時速48km超というとてつもない高速でレースは展開された

時速48km超というとてつもない高速でレースは展開された

前方に姿を認めたのは、なにもマイヨ・ロホのアシストだけではない。総合上位8選手+チームスカイが、きっちりチームメートを1人ずつ前方へと潜り込ませていた。おそらく、なんのしがらみもなく区間勝利だけを追い求めたのは、バウケ・モレマとティシュ・ベノート、さらにはBMCの3選手くらいのものだった。

そして、あらゆる選手にとっての邪魔者は、ティボー・ピノだった。なにしろ総合ではわずか2分33秒遅れでしかなく、しかも、側には若きチームメートを1人従えていた。疲れ果てたミッチェルトンは、集団制御を放棄し、あっさりと4分半ほどのタイム差を与えたが、総合2位・3位を擁するモヴィスターが黙ってはいなかった。プロトン最前列で隊列を組むと、タイム差コントロールへと乗り出した。

「ピノにリードを与えて、総合戦線へと復帰させてしまうのは、僕らにとっては極めて都合が悪いからね」(アレハンドロ・バルベルデ)

当然ながらエスケープ内では、誰1人として、ピノと進んで協力体制を取ろうとはしなかったが、本人はまるで構わなかった。本気で表彰台乗りを目指した(そして目標達成直前に病に倒れた)ジロとは違い、特に総合争いをしているつもりはなかったからだ。だから22歳初グランツールのレオ・ヴァンサンに、精力的に前を引かせた。

「今日はちょっとしたポーカーゲームに挑んでみたんだ。うん、これは戦術ゲームだったから、他の選手が引かなくたって当然さ。一方の僕は、脚の調子が良かったから、あらん限りの力を振り絞った。だって走る喜びと、アタックの感覚を取り戻すために、僕はブエルタにやってきたんだから。翌日や総合のことを考えつつ、計算しながら走るつもりなんてない」(ピノ)

その言葉通りに、19人の中で、ピノが真っ先にアタックを仕掛けた。フィニッシュまでいまだ67kmも残っているというのに、果敢に先方へと飛び出した。BMCのディラン・トゥーンスと2人で逃避行を続けたが、ヘイグを筆頭とする総合系アシストたちの見事な働きで、10kmほど先で捕らえられた。

勝ちへの意欲なら、モレマも負けてはいなかった。すでに5日目と9日目に大逃げを企むも、2度共に2位に泣いた。特に2度目は、ライバルに早めの先行を許してしまったがための、悔しい負けだった。だからこそこの日は、残り48kmの中間ポイントを利用して、ひどく気の早い独走に持ち込んだ。ライバルたちには30秒ほどの差をつけた。

追いかけたのはピノだった。ちょっとした上りを利用して加速すると、まんまとモレマを捕まえた。ただ、やはり、ピノの後輪にはヘイグがきっちり張り付いていた。他のアシストたちもぞろぞろと付いてきた。モレマは残り38kmで捕らえられ、またしても逃げ集団はひとつにまとまった。

ポーカーゲームに挑んだというティボー・ピノ

ポーカーゲームに挑んだというティボー・ピノ

ピノはその後も、まるで力を出し惜しみしなかった。かつては大の苦手だったダウンヒルを利用して、加速したこともあった。峡谷のうねった道で、数選手と連れ立って、勇敢にも先行を試みた。しかし、いつの間にか、またしてもグループの中に引きずり込まれるだけだった。

残り26km、3級山岳の上りで、不意にヨナタン・レストレポが攻撃に転じた。19人の逃げ集団の中でもほぼノーマークで過ごしてきたカチューシャのコロンビア人が抜け出すと、BMCのデマルキがすぐさま後を追った。チームも本人も総合争いにまったくの関係ない2人の背後では、相変わらずピノを取り巻く睨み合いが続いていた。

「レストレポを捕らえた後、すぐに僕は独走を始めた。でも、まだまだ、フィニッシュまで遠すぎた。だから彼が追いついてくるのを待ったんだ」(デマルキ)

懸命な判断だった。上りではピノがまたしても加速を打ったし、モレマも下りアタックを試みた。残り15kmを切ると、そこまでは「総合エースのアシスト役」を務めていた選手たちの中からも、いよいよ自身の成績を追い求めて本気の追走を始める者が現れた。つまりレストレポとの協力体制を選んだおかげで、デマルキは、後続との差を安全に保つことが出来たのだ。

「ラスト4kmに再度アタックを試みようと決めていた。最後にもうひとつ上りがあると分かっていたし、もしも加速して引き離せなかったら……おそらく自分はスプリントで2位に終わることは明らかだったから。脚は空っぽだったけど、頭で勝負した」(デマルキ)

折しも大粒の通り雨が襲いかかった。残り4km、決意通りに、デマルキは賭けに出た。空っぽの脚で、重いギアを踏み込んだ。これで勝負は決した。

「スペシャルな勝利だよ。ずいぶんと長い間、勝利を追い求めてきた。だからフィニッシュラインでは、とてつもない安堵感を抱いた。時々、勝利ってどんなものなのかを忘れてしまったような、そんな気持ちになったこともあった。でも今は、自分のベストを取り戻せたような気分だ」(デマルキ)

チームタイムトライアルで何度か表彰台には上がってきたけれど……デマルキが個人として勝利を手にするのは、2015年ブエルタの第14ステージ以来、実に3年ぶり。前年2014年の1勝も加えて、ブエルタでは3度目の大逃げ独走勝利だった。

サイモン・イェーツはマイヨ・ロホをキープ

サイモン・イェーツはマイヨ・ロホをキープ

ステージ後半を延々コントロールしてきたモヴィスターのおかげで、残り15kmほどで、ピノの暫定マイヨ・ロホは消えた。さらに総合勢が本格的な戦闘モードに入ったのは、フィニッシュまでようやく5kmに迫ってから。EFエデュケーションファーストが隊列を組み上げると、突如としてスピードアップを図ったのだ。

隙きを突かれた数人が一瞬出遅れるも、大部分はすぐに体制を立て直した。ラスト1kmを切るとナイロ・キンタナが、さらにはロペスが猛加速を試みたが、誰1人として前に抜け出すことは出来なかった。デマルキが歓喜の区間優勝を果たしてから1分50秒後、ピノがフィニッシュラインを越え(中間ポイントでボーナスタイム1秒獲得)、そのわずか12秒後に、総合上位勢が揃って1日を終えた。

例外はメカトラで8秒落としたエマヌエル・ブッフマン。総合では4位から6位へと、ほんの少しだけ順位を落とした。またダビ・デラクルスも7秒遅れたが、総合順位は逆に13位から12位へとひとつ上げた。前日まで1分08秒差で総合11位につけていたファビオ・アルが、総合トップ15で唯一の、41秒という大きなタイムを落としたせいだった。

総合トップ10が47秒差でひしめき合う構図は変わらず、もちろんサイモン・イェーツは、マイヨ・ロホをしっかりと守り切った。ただ1秒差で赤ジャージに届かないバルベルデからは「あれがミッチェルトンの哲学なんだろうけど、彼らはたいしてジャージを守りに行かなかったよね」と批判され、ナイロ・キンタナは「(タイム差制御は)ミッチェルトンの仕事だったはずなのに、彼らは他のチームの仕事を利用しただけ」と辛辣なコメントを出した。

それに対してマイヨ・ロホはきっぱり。

「僕らが受け身だって?僕らは序盤100kmに渡ってコントロールしたじゃないか。それに対して彼らは80km程度しかコントロールしてない。だから、つまり、僕らは十分に仕事をしたんだよ」(サイモン)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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