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5日前に1級山頂フィニッシュ勝ち取ったベンジャミン・キングが、この日は超級山頂フィニッシュの王となった。大会前半戦のクイーンステージの終わりに、総合争いの構図はクリアになるどころか、よりいっそう混沌さを増した。マイヨ・ロホはわずか1秒差でサイモン・イェーツの手に渡り、総合トップ10は、わずか48秒差でひしめきあっている。
待ちに待った休息日を翌日に控えて、全力を尽くすと決めた選手も多かったに違いない。これまでの8日間で、すでに4回も逃げてきたルイス・マテマルドネスもその1人だった。スタートフラッグが振り下ろされた瞬間に、全速力で前方へと駆け出すと、10人の仲間と共に長いエスケープへと乗り出した。
「今日は僕にとって実に好都合だった。だって前半に1級を含む3つの峠が待ち構えていたからね。だから目的はとにかく、その3つを先頭で通過することだったんだ」(マテ)
それほど楽々と目標達成できたわけではなかった。なにしろ第4ステージの大逃げ勝利時にかなりのポイントをかき集めていたキングに、やはり翌第5ステージに逃げたバウケ・モレマ、さらには2日目に一緒に前方を走ったトーマス・デヘントという実力者3人も、青玉ジャージ用ポイントに意欲を示したからだ。
幸いにもマテは、チームメートのケネス・ヴァンビルセンが一緒に逃げに付いてきたくれたおかげでーー本来はナセル・ブアニのスプリント発射台要員なのだがーー、最大限に力を温存することができた。まんまと序盤3峠のすべてで狙い通り首位通過を果たすと、青玉の着用権利を数日間さらに延長した。少なくともマテは、第13ステージの夕方までは、青玉で過ごすことができる。
後方のメイン集団では、この日もまた、グルパマ・FDJが最前列で牽引を続けていた。第5ステージの大逃げの果てに、リュディ・モラールがマイヨ・ロホを手に入れてから4日目。休息日をなんとか赤ジャージで過ごしたいと願うフランスチームは、苦しい作業を強いられた。前方を逃げる6分34秒遅れのキングを警戒せねばならない。かといって吸収してしまえば、総合ライバルにボーナスタイムを取られる危険性がある。しかもモラールが「スタート直後に今日はバッドデーだと感じた」というから、周りに悟られぬよう努めねばならなかった。
ついでに言うと、いつまでたっても、グルパマに協力しようというチームは1つも現れなかった。赤ジャージに最も近い男アレハンドロ・バルベルデ擁するモビスターは、隊列は組んではいたものの、決して最前列へ出ようとはしなかった。ただカナダチャンピオンのアントワーヌ・デュシェーヌだけが、孤独に、必死に、前を引き続けた。ようやく総合チームが最前列を奪い取ったのは、200kmを超えるステージも、残り35kmを切ってから。逃げ集団とのタイム差は10分にまで広がっていた。
前方の11人は、早い段階で逃げ切りを確信したはずだ。ラスト30kmでデヘントが加速を試みると、区間勝利を巡る戦いの火蓋は切られた。そこまで協調性の取れていたグループは、一気に分割し、攻撃と追走が目まぐるしく繰り広げられた。
フィニッシュ手前19km、カンデラリオの旧市街に差し掛かる直前だった。すでに第7ステージで果敢な飛び出しを披露したルイス・ギリェルモ・マスが、アタックを打った。これにすかさず反応したのがキングだ。
「マスのことはかなり前から知っていて、当然、すごく強い選手だということも分かっていた。だから彼がアタックした時に、他の選手は顔を見合わせているだけだったから、『よし、彼についていこう』と決めた」(キング)
第4ステージでは、最終峠の5.5km手前にある中間ポイントを利用して他を出し抜いたように、この日は、登坂口の9km手前で飛び出した。しかも2人で最後まで逃げた5日前と違って、この直後に、キングは独走さえ始めた。街中の細道の、全長800mの急な坂道で……しかも石畳の上で、マスを完全に振り切った!
「僕の2勝は、戦術によるところが大きいんだ。1勝目はピエール・ローランが、今日はピュアクライマーのモレマが相手だった。僕は自分の能力を正確に把握していた。今日のような最終峠でどれだけ自分が走れるのか分かっていたし、そして、もしも勝ちたいなら、山の麓で十分なタイム差をつけておかねばならぬことも理解していた」(キング)
キングはライバルたちに約1分半の差をつけて、全長9.8kmの最終峠へと登り始めた。最も危険視されていたモレマも、山に入ると、いよいよ単独での追走に乗り出した。7年前に区間2位に入り、現時点では人生たった1度のグランツール総合リーダージャージを手にした縁起の良いラ・コバティーリャの山頂へ向かって、ぐんぐんと距離を縮めていく。フィニッシュまで残り2.5km、ついに差は18秒にまで縮まった。
「勾配があまりにもキツいから、きっとモレマに追いつかれるに違いないと考えた。だから体力を温存するために、自分のペースで上ったんだ。まるで練習のような感じでね」(キング)
ただしキングにとっては幸いなことに、そしてモレマにとっては実に不幸ではあったが……そこまで11%近くあった勾配が、ラスト2kmで、途端に「ほぼ平坦」に変わる。苦しみ喘いでいたキングは息を吹き返し、改めてレースモードに切り替えた。再びタイム差はぐんぐんと広がっていった。
勝負が一騎打ちスプリントにもつれ込んだ第4ステージは、最後まで息が抜けなかった。きっとこの日は、ラスト500mは、たっぷりと勝利の喜びを堪能することとができたに違いない。最終的には48秒リードで、キングは区間2勝目を手に入れた。補給禁止距離でチームカーから補給を受け取ったとして、フィニッシュ後に総合タイムに20秒のペナルティが課されたけれど、もちろんこの日の勝利に一切影響なんてなかった。
「1勝目も嬉しかったけれど、2勝目はさらにスペシャルだ。だって僕の1勝目が、決して偶然による産物ではなかったことを証明できたのだから。この先も逃げのチャンスを追い求めていくつもりだよ」(キング)
モレマはまたしても2位に終わった。第5ステージに続く区間2位であり……7年前と同じ2位だった。
残り35kmでついに動き始めたメイン集団は、最終峠へ向けて規模をどんどん小さくしていった。今シーズンのグランツールで幾度となく見られたように、チームスカイが制御を試みた。アスタナやバーレーン・メリダ、サンウェブも積極的に前線へと位置取りした。
山に入ってからはボーラ・ハンスグローエが先頭に立った。ツール山岳賞2回のラファル・マイカの刻む高速テンポに、残り約8km、ついにマイヨ・ロホのモラールが集団から脱落した。ラスト4kmのアーチを抜けると、今度はロットNL・ユンボが強烈な加速を切る番だった。すると大会2日目から3日間レッドジャージを着ていたミカル・クヴィアトコウスキーが、ついていけなくなった。標高はすでに1900mに迫っていた。
そしてミゲル・アンヘル・ロペスが、ラスト1.5km、突如として攻撃に転じた。ナイロ・キンタナがすかさず後輪に飛び乗った。
「彼らコロンビア選手は、きっと標高に慣れていた違いない。標高2000mのフィニッシュで、それが違いを生んだんだと思う」(サイモン・イェーツ)
正確には標高1965mの山頂へ向かって、しかし海抜3mのオランダ・アメスフォールトで生まれ育ったウィルコ・ケルデルマンも鋭いカウンターアタックをお見舞いした。逃げ集団で最後まで粘ったディラン・トゥーンスに、わずかタッチの差で区間3位=ボーナスタイム4秒はさらい取られてしまうけれど、ロペスとキンタナ、ケルデルマンの3人は、全ての総合ライバルに先んじてフィニッシュラインを越えた。
その3秒後にやはり故郷コロンビアの高地で鍛えられたリゴベルト・ウランが、6秒後にはヴィンチェンツォ・ニバリの代わりに総合エースの重責を任されるヨン・イザギーレが滑り込んだ。
コロンビア勢の動きに一瞬出遅れたサイモン・イェーツも、単独で追走を仕掛け、トリオから9秒遅れでフィニッシュ。一方で「最後は体力がギリギリだった」と告白したバルベルデは、イェーツから15秒遅れで山頂へとたどり着いた。つまりは前日の段階で総合2位バルベルデより14秒遅れの総合4位につけていたサイモンが……、38歳の大ベテランを1秒差で上回ってしまった!
「まさかマイヨ・ロホが取れるなんて考えてもいなかった。予想さえもしていなかったことだよ。正直に言って驚いている。でも嬉しいサプライズだよね。ジャージを着ることが出来て満足しているよ」(サイモン・イェーツ)
ブエルタでは初めての赤シャツだが、この5月のジロではマリア・ローザを13日間着用している。イタリアでは6日目にジャージを獲得すると、そのままとてつもない絶好調さをキープし、区間3勝さえもぎ取った。ところが第18ステージで疲れの影が見え、続く第19ステージでは、ご存知の通り、わずか1日で30分以上もタイムを落としてしまうのだ……。
「たしかに今日ジャージを取れるとは思ってもいなかったけれど、決して『ミス』ではない。予想外ではあったけど、早すぎるとも思っていない。まあ、たしかに、僕のもとにジャージがやってくるとは考えてなかったから、明日の休息日に、この先の総合争いに向けて、チームのみんなと計画を練る必要はあるだろうね」(サイモン・イェーツ)
1回目の休息日、マイヨ・ロホを争う選手たちは、どうやら頭を空っぽにしてのんびりするわけにはいかなくなったようだ。なにしろサイモンのリードは2位バルベルデに対してわずか1秒、3位キンタナに対してもたったの14秒のみ。総合トップ5は17秒差に居並び、トップ10人さえも48秒以内にぎゅうぎゅう詰めの状態だ。山頂で好調さをアピールしたケルデルマンは、首位イェーツから1分50秒遅れ。第6ステージ分断時のメカトラが悔やまれるが、波乱含みの2018年ブエルタは、まだ12日間も残っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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