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区間トップ10にピュアスプリンターからピュアクライマーまでが並ぶ、稀に見る奇妙なフィニッシュだった。中でも上れるスプリンターのペーター・サガンと、スプリントからヒルクライムまで全てをこなすアレハンドロ・バルベルデが、手に汗握る一騎打ちを繰り広げた。3連覇中のアルカンシェルを、常磐のみどりが鮮やかに打ち破った。
「この2日間に比べれば、ほんの少し簡単なステージだった。でもフィニッシュはかなり難解だったね」(リュディ・モラール)
たしかに、マイヨ・ロホにとっては、それほど苦労させられた1日ではなかったはずだ。スタート直後にティアゴ・マシャド、ホルヘ・クベロ、エクトル・サエスが飛び出すと、それ以上の反乱は起こらなかった。道はたいして起伏に満ちているわけでも、強風が吹き荒れているわけでもなく。ただ日陰でも摂氏40度を超える気温だけはひどく堪えたが……すでに南スペインで1週間走り続けてきたプロトンにとって、暑さはもはや敵ではなかった。
なによりグルパマ・FDJにとって幸いだったのは、スプリンターチームが積極的に追走作業を請け負ってくれたこと。タイム差が最大12分ほどにまで開くと、ボーラ・ハンスグローエ、クイックステップフロアーズ、コフィディスソリュシオンクレディ、トレック・セガフレード等々の俊足エースを擁するチームが、プロトン最前線に人員を送り込んだ。おかげでエスケープとの距離は苦もなく縮まっていった。残り100kmで11分近くもあったタイム差は、残り50kmで5分、20kmで2分、10kmで35秒……。ついには残り6kmできっちり全員を回収した。
全長195kmのコースの、序盤185kmは、つまり特別なにも起こらなかった。ところがステージも残り10kmを切ると、そこから先は息つく暇もないほど、ハイスピードなフィナーレがやってくる。
総合系チームもこぞって集団前方へと競り上がり、突如としてポジション争奪戦へと殴り込みをかけた。モヴィスター、アスタナ、チームスカイは前方位置で加速を仕掛け、集団を長く細く引き伸ばした。ラスト5kmからは、スプリンターも総合系も擁するボーラやロットNL・ユンボ、ミッチェルトン・スコットが、恐ろしいほどに強烈なスピードアップを繰り返した。
残り800mに待ち構える小さなロータリーに、すでに半分程度にまで小さくなっていた先頭集団は、超高速で雪崩込んだ。そして素早くUターンをこなすと、フィニッシュラインへと続く坂道へと全速力で突っ込んでいった。
全長600mの最終坂は、平均勾配5%を超えた。ツール山岳賞2度の名クライマーであるラファル・マイカが、総合3位エマヌエル・ブッフマンと区間勝利候補サガンの2人を背負って、真っ先に猛烈な前進を行った。カーブを抜けて最終ストレートに入ると、22歳のイバン・ガルシアが気の早いスプリントも試みた。
「ファイナルが僕向けの地形だとは、あらかじめ聞かされていたんだ。ただし第一目標は、総合のタイムを失わぬこと。あとはその場の状況次第で動こうと考えていた。でもチームが僕を完璧なポジションへと導いてくれたし、なによりラスト500mは上り坂で、まさしく僕に向いていた……」(バルベルデ)
ラスト100mで最前列に駆け上がったのは、虹色のサガンだった。パワフルに加速を切り、ガルシアの後輪から抜け出した。前日第7ステージで2位争いのスプリント勝負を制し、ツールでの負傷から復調しつつあることをアピールした現役世界チャンピオンは、まさしく得意の勝ちパターンに持ち込んだかに見えた。
……しかし、いまだ、完全体ではなかったようだ。いや、むしろ、バルベルデが強すぎた。大柄のスプリンターたちがペダルを力任せに踏みつける間を、しなやかなダンシングスタイルで、極めて滑らかに、38歳大ベテランはすり抜けていった。残り50mで勝者のポジションへ流れるように進み出ると、緑ジャージのバルベルデは優雅に先頭でラインを駆け抜けた。
「自分でも驚いているよ。だって昨日のステージはたしかに僕向きだと思ったけど、今日はむしろサガンの得意な地形だと思っていたからね。それに決して簡単ではなかったんだ。サガンは区間勝利目指して、1日中チームと共に働いてきて、しかも好タイミングで加速を仕掛けて……。だからこんな風にサガンを倒せたことは、すごく自信になるね」(バルベルデ)
第2ステージの上り坂フィニッシュ勝利に続き、バルベルデは今大会早くも2勝目を仕留めた。17年を超えるキャリアにおいては、ブエルタ通算11勝目。つまり10勝のジョン・デゲンコルプを抜いて、現役ではブエルタ最多勝利を誇る。
もちろん区間勝者のボーナスタイム10秒を手に入れたことも忘れてはならない。2日前には53秒、24時間前には47秒残っていた総合首位リュディ・モラールとのタイム差は、つまり37秒へと縮まった。
「サガンをスプリントで破ってしまうほどバルベルデは絶好調だから……明日はバルベルデに抵抗するのは難しいだろう。もちろんマイヨ・ロホを守るために、できる限りのことは尽くすつもりだけど、きっと明日の夜はバルベルデが赤いジャージを着ているんじゃないかな」(モラール)
ただバルベルデが絶好調なのだとしたら、サガンや区間3位ダニー・ファンポッペル、5位ジャコモ・ニッツォーロといった「スプリンター」に混じって大健闘した区間4位ヨン・イザギーレや7位サイモン・イェーツ、10位ステフェン・クライスヴァイクだってとてつもなく好調だ。
しかも総合では2位バルベルデのわずか11秒後(総合48秒遅れ)にブッフマンが、14秒後にイェーツがぴたりとつけている。ここまでほぼノーミスできているナイロ・キンタナ、クライスヴァイク、ジョージ・ベネット、ミゲル・アンヘル・ロペス、ファビオ・アル、リゴベルト・ウランは、いずれもバルベルデの1分以内にひしめいている。ないよりブエルタ前半戦の「クイーンステージ」は、全長200km超、累計標高4000m超と厳しく、締めくくりは超級フィニッシュだ。
「明日の最終峠には、いくつも思い出がある。残念ながらポジティヴな思い出は少ないよ。いつだって苦しめられてきた。でも僕の心は落ち着いている。だってすでに2区間を勝ち取ったし、キンタナも非常に好調だから。僕が明日マイヨ・ロホを取れるかどうかは分からない。ただ確実なことは、今ブエルタのマイヨ・ロホの大部分は、明日決まるだろうということさ」(バルベルデ)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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