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サイクル ロードレース コラム 2018年9月1日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 第7ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ラスト2kmで抜け出したトニー・ガロパンが区間勝利

ラスト2kmで抜け出したトニー・ガロパンが区間勝利

スペインでフランス人たちが大活躍を続けている。しかも所属チームは違えども、クラシカ・サンセバスティアン後に2週間のアンドラ高地合宿へと一緒に出かけた2人……リュディ・モラールとトニー・ガロパンが、この日の表彰台を分け合った。前者は3日連続で総合リーダーの証マイヨ・ロホを受け取り、後者はラスト2kmの鋭いアタックを成功させ、第7ステージを勝ち取った!

「ジャージ初日に『これから3日間は静かなステージだぞ』って言われたけど……いやいや、とんでもなかった。とにかく、これまでのところは、静かなステージなんてまるで存在しないよね」(モラール)

もしかしたらステージ序盤だけは、比較的、静かに過ごせたかもしれない。スタート直後に小さな一団が逃げ出すと、総合リーダーチームのグルパマ・FDJはすかさずプロトンに蓋を閉めた。後を追いかけようと、数人が抵抗を見せたが、回収は素早く行われた。結局はファーストアタックに飛び乗った7人だけが、しばらく先を行く権利を手に入れた。

グルパマ隊列はただ淡々とタイム差「制御」を行った。逃げ集団には最大4分ほどのリードを与えた。なにしろ7人の中に、モラールのマイヨ・ロホを脅かす選手は、1人として存在しない。たしかに昨ブエルタで総合7位と大躍進したマイケル・ウッズが滑り込んではいたが、すでに総合では8分25秒もの遅れを喫していた。

真剣な「追走」を企てたのは、むしろ他のチームだった。調子さえ良ければペーター・サガンにも勝てるかもしれない……と評判の最終坂に集団でたどり着くため、ボーラ・ハンスグローエは最前列に常に追走用員を1人配置した。ミカル・クヴィアトコウスキーにはぴったりの地形だ、との呼び声も高く、残り50kmを切るとチームスカイは隊列を組んだ。つまるところはアレハンドロ・バルベルデ向きのフィニッシュであるからして、モヴィスターも前を引き始めた。

7人の逃げには最大4分の差しか与えられなかった

7人の逃げには最大4分の差しか与えられなかった

コース上には3級峠が2つだけ。その2つ目の上りが近づくにつれて、タイム差は急速に縮んでいった。いよいよ道が上り始めると、最後の可能性にかけて、ウッズが独走へと打って出た。登坂口でいきなり集団落車が発生し、追走速度はほんの一瞬ながら鈍った。しかも道幅は極めて狭く、舗装状態は最悪で、小砂利があちこちに散らばっている。もしも山頂まで逃げ切れたら……その後の下りを利用して、再び後方を突き放せるかもしれない。

しかし大多数のスプリンターたちを振り払いつつ、スカイやモヴィスター、さらにはロットNL・ユンボがハイテンポを刻んだ。残り13km、山頂のほんの手前で、ウッズは後方へと引きずり降ろされた。

まんまと先頭を取り戻したメイン集団だが、決して落ち着きを取り戻さなかった。下りに入ると同時に、ルイス・ギリェルモ・マスが先行を試みた。残り9kmでは、極めてテクニカルなカーブをこなしている最中に……もちろん舗装状態や小砂利はそのままに……メイン集団の先頭を走る3人が地面に滑り落ちた!しかも、その1人がクヴィアトコウスキーだったものだから、ライバルたちは途端に色めき立った。

30人程度に小さくなった先頭集団には、もはや秩序など存在しなかった。ジャンルーカ・ブランビッラがアタックを打ち、さらにジョージ・ベネットが飛び出し、残り5.5kmではヘスス・エラダが猛烈な加速で単独先頭を奪い取った。

その直後、道は、突如として広い直線道路に入った。エラダの背後では、総合優勝候補のナイロ・キンタナやミゲル・アンヘル・ロペスを筆頭に6人が塊となって、なにやら仁義なき抗争を繰り広げた。

「最終盤はとにかく難解だった。まるで戦争だった。細道に、テクニカルな下りに、落車に、総合本命たちのアタックに……。でも最後の直線を走りながら、考えたんだ。『自分も何かトライしなきゃならない』って。たしかに僕だってスプリントはそれほど苦手じゃないけど、だからって6位とか8位とかで満足してしまっていいのか、って」(ガロパン)

リュディ・モラールはリーダージャージキープ

リュディ・モラールはリーダージャージキープ

そして残り2km。ガロパンが力強くアタックを打った。すぐにエラダを捕らえると、そのままためらわず抜き去った。

「そう言えばあの時も、僕はサガンとかクヴィアトコウスキー相手に飛び出したんだよね」(ガロパン)

あの時……つまり2014年ツール第14ステージのガロパンは、残り13.5kmでアタック打った。慌ててサガンとクヴィアトコウスキー(とマイケル・ロジャース)が飛び乗った。しかし残り2.8kmの下りを利用して、ガロパンは再び加速。必死でもがく3人をまんまと突き離したどころか、後ろから猛スピードで追い上げてきた30人強の集団さえも、0秒差で振り払ったのだ!

だからこそボーラ・ハンスグローエは必死の追走を行った。落車で少々体を痛めた総合3位エマヌエル・ブッフマンを気遣いつつも、ラファル・マイカが集団の先頭に立ち、サガンのために全力で牽引を行った。しかし、ぎりぎりまで加速のタイミングを伺い、「ここからならフィニッシュまで逃げ切れる」という強い確信と共に飛び出したガロパンを、もはや捕らえることなど不可能だった。

残り100mで後ろを振り返り、よりいっそう力強くペダルを踏みつけたガロパンは、坂の上で両腕を大きく広げた。つまり4年ぶりのグランツール区間勝利を、得意のやり方で手に入れた。総合では59秒遅れの総合5位につけている。

「すべての自転車選手にとって、グランツールで区間を勝つというのは夢なんだ。特に今シーズンは不運続きだっただけに……喜びは大きいよ。ツールを途中棄権したあと、ブエルタに目標を定めた。区間をこうして1つ勝てたから、つまり計画通り。この先はできる限り総合上位に留まれるよう努力していく。総合トップ10に僕の居場所がないことくらい分かってるさ。でも山岳トレーニングを行って、体重を絞り込んだから、試してみる価値はある。たとえ失敗したところで、僕には失うものなんてたいしてないしね」(ガロパン)

ガロパンから遅れること5秒後、集団スプリントはサガン制した

ガロパンから遅れること5秒後、集団スプリントはサガンが制した

ガロパンからわずか5秒後に、約30人の集団がラインに雪崩込んだ。集団内のスプリントは、サガンが制した(区間2位)。ツールでの落車でひどい怪我を負って以来初めて、サガンがサガンらしい走りを見せた瞬間だった。ちなみにガロパンが無謀にも総合争い……というなら、世界選手権3連覇中のサガンは、近年屈指の難しさを誇るインスブルックの世界選手権で4連覇を狙っている!

そして3位にはバルベルデ。ライバルたちからあまりにも厳しくマークされ、キンタナ護衛にも力を尽くし、「すべてをコントロールすることなんて出来なかったよ」と無念がる。それでも中間ポイント2位通過でボーナスタイム2秒を稼ぎ、フィニッシュラインでは4秒を収集した。この7日間に集めたボーナスタイムはトータル16秒に上り、全176人のプロトンの中では最多を誇る。「総合を狙う?まだまだ様子を見ていかなきゃ」なんて38歳の大ベテランは慎重な姿勢を崩さないが、総合順位は5位から2位へと一気にジャンプアップした。

代わりにクヴィアトコウスキーが、総合2位から6位へと陥落した。落車後すぐに再スタートを切り、必死の追走を続けたが、ガロパンから30秒、大部分の総合ライバルたちから25秒を失った。幸いにもチームスカイのダビ・デラクルスはメイン集団に留まった。

またアルデンヌ派パンチャーのモラールも、無事にメイン集団で1日を終えた。前日はチームエースのティボー・ピノの脱落に複雑な表情を見せたが、この日は手放しで表彰台を楽しんだ。

「昨日はがっかりしたけど、今日は本当に満足してる。素晴らしい結果だよ。まずはティボーと僕が前集団でフィニッシュできた。なによりこれが最も重要なこと。それにトニーの勝利がすごく嬉しいんだ。僕ら一緒にアンドラでトレーニングを積んでき。ブエルタでいい走りをすることが、2人の共通の目標だった。そして今、僕はマイヨ・ロホを着ていて、彼はステージを勝った。すごいや!」(モラール)

そんなモラールは「明日第8ステージはスプリンターたちが活躍したいんじゃないかな?」なんて予想する。ただし最終600mには、またしても急な坂道が待っている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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