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サイクル ロードレース コラム 2018年8月31日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 第6ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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4年ぶりにグランツール区間勝利したナセル・ブアニ

4年ぶりにグランツール区間勝利したナセル・ブアニ

平坦なスプリンター向きステージの終わりに、罠が待ち受けていた。集団落車と横風の合わせ技で、大きな分断が発生し、2人の総合表彰台候補がタイムを落とした。前日から嵐のまっただ中にいたナセル・ブアニは、荒れ模様だったステージの終わりに、4年ぶりのグランツール区間勝利を手に入れた。

始まりは穏やかに凪いでいた。3選手がスタート直後に飛び出すと、プロトンから特に異論反論は起こらなかった。マイヨ・ロホ取り立てほやほやのグルパマ・エフデジがすぐに制御に乗り出し、スプリンター擁するクイックステップフロアーズとトレック・セガフレードも1人ずつ牽引要員を提供した。逃げには最大3分半程度のリードを与え、乾いた大地で、淡々と時は過ぎていった。

幸いにも、前を走る3人は、逃げメンバーとしては興味深かった。たとえばブルゴスBHは2日目から毎日必ず1人ずつ、それも毎日違うメンバーをエスケープに送り込んできた。この日はチーム最年少のホルヘ・クベロが前に飛び出した。一方ここまでのラインステージ5日間で、実に4回目の逃げに乗ったのがルイス・マテマルドネスだ。前日こそ「ファンの多数決」に従いメイン集団で静かに過ごしたが、この日は再び前線へ躍り出た。いつもの「逃げ仲間」ピエール・ローランが不在だったせいか、コース途中に待ちかまえた2つの3級峠では楽々と先頭通過。おかげで2日目の終わりからまとっている山岳ジャージを、少なくともあと2日は着られることになった。

なによりリッチー・ポートが逃げた!たしかに7月のツールの鎖骨骨折から、完全に復調したわけではなかった。「総合は狙わない」と宣言してブエルタに乗り込んだ。それでも、わずか5日間で41分14秒ものタイムを損失するとは、さすがに予想していなかったはずだ。しかし33歳オージーの心は、決して折れてはいなかった。

「今日は楽しんだ。ようやく自分自身に立ち返りつつあるし、普通の状態に戻りつつある。だからいつもと違うことをやってみるのは楽しかった。随分と長い間エスケープなんて乗らなかったからね」(ポート)

2010年ジロで巨大な大逃げに乗り、生まれて初めての(そして唯一の)グランツールリーダージャージをまとった経験のあるポートにとって、良き再出発のきっかけとなったようだ。残り約30km地点で、メイン集団に飲み込まれるまで、ポートは最前線で溌剌とした姿を見せた。

リーダージャージをキープしたリュディ・モラール

リーダージャージをキープしたリュディ・モラール

逃げの吸収と同時に、ステージの表情はがらりと変わる。なにしろ突如としてチームスカイがプロトン最前線へ競り上がると、とてつもない加速を切ったのだ!

それまで東を目指して走ってきた集団が、北へと進路を変えるタイミングだった。集団内は軽いパニックに陥った。極めて運の悪いことに、小さな曲がり角を抜けた先で、集団落車も発生した。そのせいで、すでに後方は、ばらばらと集団の結び目は解けかけていた。……その直後だ。幅広の大通りへと進み出ると、右斜め前から強烈な海風が吹いてきた。あっという間にプロトンはいくつにも分断した。

先頭集団に踏みとどまれたのは60人程度。大多数のスプリンターと総合強者が好位置を守り、マイヨ・ロホのリュディ・モラールも必死に前へとしがみついた一方で、チームメイトにして総合エースのティボー・ピノは後方へと吹き飛ばされた。

「どうしてこうなってしまったのかよく分からない。チームのみんなは僕の後ろに着いてきていると思っていた。でも、しばらくして、無線で、ティボーが遅れていると聞かされた」(モラール)

ウィルコ・ケルデルマンは分断の喧騒の中で、パンクの犠牲となった。すぐに自転車交換して走り出すも、時すでに遅し。チームメートが次々と援護に駆けつけ、ピノとも協力して前を追いかけたが、ただひたすら遅れは広がっていくばかりだった。

なにしろ前方では総合ライバルたちが交互にスピードアップを繰り返したのだ。スカイはもちろん、前方に7人も留まったEFエデュケーションファーストも、珍しくリーダーが罠にはまらなかったモヴィスターも、邪魔者を1人でも多く突き放そうと前を引いた。ポートの健闘に刺激されたか、やはりツールでの落車負傷が響き、すでに総合は断念したはずのヴィンチェンツォ・ニバリさえ、力強い牽引を見せた。

総合勢たちが必死に働いてくれたせいで、しばらく風の当たらぬ場所に潜んでいたスプリンターたちも、ラスト2kmからは熾烈なポジション争いを繰り広げた。当然のようにクイックステップが好位置を勝ち取り、最終ストレートに入ると発射台が最前列を突っ走った。

ところが、肝心のスプリントエース、エリア・ヴィヴィアーニのイタリアチャンピオンジャージは、はるか後方にチラチラと姿が見えるだけ。むしろ発射台の後輪から飛び出したのは欧州チャンピオンのマッテオ・トレンティンだ。しかし昨大会区間4勝の強者さえも、少々伸びが足りなかった。

シャンパンファイトで勝利を祝うナセル・ブアニ

シャンパンファイトで勝利を祝うナセル・ブアニ

その隙間から、ブアニが、するりと抜け出した。ダニー・ファンポッペルの進路を上手く塞ぎ、トレンティンに軽く接触を仕掛けつつ、さらにはヴィヴィアーニの追い上げも振り切ると……2014年にジロ区間3勝、ブエルタ区間2勝と大暴れして以来となる、実に4年ぶりのグランツール勝利をもぎ取った。

「最終盤のプロトンはひどくナーバスで、しかもスピードは極めて速かった。でもアシスト2人が、常に僕を好位置で守ってくれた。追い風だと分かっていたから、最終直線にはできる限り前で入らなきゃならなかったんだ。おかげでトレンティンの後輪に上手く入れた。それから残り200mで加速した。あとは追い風に押されて、最後までスピードを保てた」(ブアニ)

リベンジであり、解放でもあった。去年のヨークシャー一周でひどい落車を経験し、しばらく視力低下に悩まされた。今季はチームとの軋轢や、自らにまつわる悪評に苦しんできた。絶対的エースの座を奪われ、ツールへの出場を果たせず、すでに来季に向けて他チームとの交渉に入ったことさえ隠そうとはしなかった。

「チーム全体から支えてもらっている感覚を持てないと、スプリンターというのは、難しいものなんだ。だから今季はきつかった。時には侮辱された気持ちになった。でも今大会前にチームオーナーから電話をもらって、チームが全力で僕をサポートすると断言してくれた。だからチームのためにも、今日は勝つことが出来て本当に嬉しい」(ブアニ)

つまりは2015年に鳴り物入りで移籍したコフィディスに、なにより2014年ブエルタ以来グランツール勝利から遠ざかっていたコフィディスに、待望の歓喜をもたらした。

それにしても、この24時間だけでも、あまりにたくさんのことが起こりすぎた。第5ステージは熱中症に苦しみ、集団から滑り落ちると、ラスト75kmをたったひとりで走った。25分以上遅れてようやくフィニッシュにたどり着いたが、審判から30秒のペナルティを課された。理由は「他からの(反発を利用した)押し上げ」と「自転車選手として相応しくない行為」だった。

つまりはボトルの受渡し時間が長すぎた……というよくあるルール違反なのだが、なぜか一部のスペインメディアから「ブアニが監督と口論を起こし、チームカーを叩いた」と曲解報道をされた。「どうして僕を悪い奴に仕立てようとするんだろう???」というブアニ本人のツイートを皮切りに、監督陣やチームオーナーが次々と反論の声を上げ、コフィディスもチームとして公式な抗議文書を発表した。

「昨日あんなことがあった後だけに、今日は絶対に勝ちたかった。偽の情報を流されて、本当に腹が立ったんだ」(ブアニ)

ブアニ怒りの勝利が炸裂した1分44秒後、ケルデルマンとピノを含む集団がフィニッシュラインに雪崩込んだ。前者は総合6位・1分06秒差から17位・2分50秒差へと一気に陥落。ピノも1分24秒差から3分08秒差へと遅れを大幅に拡大し、マイヨ・ロホを守った「アシスト」モラールは複雑な表情を浮かべるしかなかった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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