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サイクル ロードレース コラム 2018年8月30日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 第5ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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試合巧者のサイモン・クラークが6年ぶりのグランツール勝利

試合巧者のサイモン・クラークが6年ぶりのグランツール勝利

前日ワールドツアーシーズン0勝を抜け出したディメンションデータに続いて、この日はサイモン・クラークの見事な大逃げ勝利で、EFエデュケーションファーストがついに今季WT1勝目を手に入れた。4日目のベンジャミン・キングはマイヨ・ロホにあと一歩足りなかったが……、大会5日目の終わりには、リュディ・モラールが生まれて初めてのグランツール総合首位に駆け上がった!

幾多の選手が栄光を追い求めた。スタート直後から激しい飛び出しが続き、序盤1時間の走行スピードは47.8km/hにも達した。逃げ切りに好都合な地形……特に得意のダウンヒルフィニッシュに向かって、すでに総合で10分以上遅れているヴィンチェンツォ・ニバリさえアタック合戦に加わったほど。

せめぎあいを延々60km以上も繰り広げた果てに、ようやく大きな一団が先へ行くことを許された。その数25人。参加全22チーム中、実に20チームがエスケープに人員を送り込んだ。つまりは翌第6ステージからの平地3連戦に懸けるクイックステップと、3日前からマイヨ・ロホを守ってきたチームスカイ以外全部!

たしかにスカイは集団前線で隊列を組んだ。ただ第4ステージ終了時点で総合3分46秒差のモラールや、すでに9分11秒も遅れていた「元総合表彰台候補」バウケ・モレマの存在に、神経質になりはしなかった。差を6分程度にまで開かせておき、その後はひたすら、最終盤まで静かに等間隔を保ち続けた。

「今日はできるだけ体力を使わぬよう努めた。ジャージのことは気にしなかった。数秒差でマイヨ・ロホを守ろうが、モラールに取られようが、そんなことは重要じゃなかった。大切なのはみんなで常に固まって走り、安全にフィニッシュまでたどり着くこと」(ミカル・クヴィアトコウスキー)

白壁の街並みを走るプロトン

白壁の街並みを走るプロトン

リードが順調に広がっていくにつれて、逃げ切りの確信を強めた前集団は、フィニッシュまで90kmも残して早くも駆け引きを始めた。真っ先に飛び出したのはステファヌ・ロセットとアレッサンドロ・デマルキの2人だ。

しかしコフィディス所属のフランス人は、長くは先頭を維持できなかった。ツイッターで「4日連続で飛び出すべきか、やめるべきか」を問いかけ、ファンの意見に従ってプロトン内で静かに過ごす方を選んだ山岳賞ルイス・マテマルドネスのために、1つ目の山岳でポイント潰しに走ったせいかもしれない。他の逃げメンバーにようやく1分半近い差をつけたというのに、残り65km、無印の厳しい上り坂でずるずると脱落してしまう。デマルキは予定外の独走態勢に入ってしまった。

後か不幸か、突如として、援軍がやってきた。下りを利用して矢のように飛び出したクラークとモレマが、残り52km、デマルキに追いついたのだ。グランツールで大逃げ勝利を手にした経験のある実力派ばかりが、こうして前線に揃った。その先はフィニッシュ間際まで上手く協調体制を取りながら、平均年齢31.7歳の3人は逃げを続けることになる。

後方に取り残された逃げの友たちは、代わる代わる追走を企てた。本来はティボー・ピノのアシスト役としてブエルタ入りしながら、この日は自由に走る許可を得ていたモラールも、積極的に加速を切ったひとりだった。

「目標はひたすらステージ優勝だった。マイヨ・ロホのことなど、最終盤まで本気では考えていなかった。ただ次々とアタックが起こったし、25人もいると、うっかりしてるとすぐに後方に沈んでしまう。それに僕自身が総合のことなど考えていなくとも、周りからはかなり警戒された」(モラール)

終盤の2級峠の上りで、ようやく周りを振り払うと、モラールは抜け出すことに成功する。ダヴィデ・ヴィッレッラとフローリス・デティエと共に、前を行く3人を追いかけ始めた。登り始めには1分40秒近く離されていたが、フィニッシュ手前26.7kmの2級山頂では、差を44秒にまで詰めた。

区間優勝を狙う3人の壮絶な駆け引き

区間優勝を狙う3人の壮絶な駆け引き

しかし急なダウンヒルを終えて、最終8kmの平地に入る頃には、タイム差は再び1分20秒ほどにまで広がった。グランツール未勝、平均年齢27歳の3人は、結局のところ、フィニッシュラインを越えてもグランツール未勝のままだった。「2人がもう少し協調してくれたら……」とモラールが悔いたのも無理はない。なにしろ残り6.5kmから、前の3人が壮絶なる駆け引きを始めたせいで、両集団のタイム差は急激に縮まっていったからだ。

残り6.5km、真っ先に仕掛けたのはモレマだった。そこから加速と減速、睨み合いと蛇行とが、果てしもなく繰り返された。残り4kmで差は1分を切り、残り1.5kmで30秒を切り、ラスト1kmのアーチをくぐる頃には、もはや15秒しか余裕は残っていなかった。

「自分自身に言い聞かせた。もしも勝ちたいなら、全てを失う覚悟で臨め、って。無線でタイム差は常に知らされていた。でも、そんなものに、注意は払わなかった。ただ目の前のモレマとデマルキの動きだけに集中した。こういった状況では、氷のように冷静な精神を保ち続ける必要があるんだ」(クラーク)

ぎりぎりの均衡を、クラークは上手く保ち続けた。15歳からトラック転戦を始め、ジュニア時代に団体追抜で世界チャンピオンに輝いたのはもちろん、スプリント力と持久力とを要するマディソンに強いオージーは、こんな展開を決して恐れはしなかった。

「最後は僕の前に1人、後ろに1人が来るように、上手くポジションが取れた。おかげでライン直前まで2人の動きから目を離すことなく、状況を完璧にコントロールできた」(クラーク)

最後はパワフルなスプリント一発で、ライバルたちを突き放すと、ライン上で両手を挙げた。後続の3人は8秒差で振り切った。チームの今季を救う大きな1勝を挙げたのはもちろん、クラーク自身にとっては、山岳賞を手にした2012年大会第4ステージ以来となる、6年ぶりの嬉しいステージ優勝だった。

「初めて出場したグランツールで、ステージを勝ってしまったものだから、なんだかすごく簡単なことのように思い込んでしまった。……でも実際はひどく難しいことだった。あれから6年間、勝利を再現しようと繰り返してきたし、厳しい練習も積んできた。ずいぶんと長いことかかってしまったよ!」(クラーク)

マイヨ・ロホに袖を通したリュディ・モラール

マイヨ・ロホに袖を通したリュディ・モラール

8秒後にフィニッシュしたモラールは、すぐに手放しでは喜べなかった。最終盤は後方からじわじわと詰められていることを感じ取り、「ジャージを取れるなんて、ラインを越えてしばらくしても、いまだに信じていなかった」からだ。クヴィアトコフスキーを含むメイン集団が、4分55秒遅れで1日を終えてようやく、しみじみと感激に身を委ねることができた。

「リーダージャージが着られるなんて、僕にとっては、キャリアでたった1度きりのことかもしれない。一生袖を通せずにキャリアを終える大選手だって多い。だからこそこのジャージに敬意を表して、できる限り長く守りに行くつもり。出来れば日曜日まで守りたい」(モラール)

フランス人がグランツールのリーダージャージを着用するのは、2014年ツールのトニー・ガロパン以来4年ぶり。ブエルタのリーダージャージは、さらに2011年大会のシルヴァン・シャヴァネルまで遡る。そして所属チームのグルパマ・FDJにとっては……なんと2005年ブエルタでブラッドレー・マッギーがマイヨ・オロ(当時)を4日間着用して以来、13年ぶりのグランツール総合首位である!!

2014年ツールで一時は総合2位に達した経験のある(そして総合3位で終えた)ピノは、遠征中のルームメートの快挙を、まるで自分のことのように喜んだ。

「残り1.5km地点で、モラールのマイヨ確定を知らされたんだ。なんて幸せだろう!すごい経験だよ!できるだけ長くジャージを守れるといいよね。タイム差をかなり稼いだし、モラールは上りに強い。だから1週間くらいは守りたい。嫉妬?そんなものあるわけない!」(ピノ)

ただ残念ながら、「許可されたゾーン以外での補給」があったとして、モラールには20秒のペナルティが課された。総合2位に陥落し、翌ステージは緑のポイント賞ジャージで走るクヴィアトコウスキーとのタイム差は、実際には41秒に過ぎない。

「マイヨ・ロホを着て走ることができるなんて、誇らしさでいっぱいだ。ただ僕の使命は変わらない。ピノを守ること。僕はあくまでもアシストであり、今回の成功は、ちょっとしたおまけに過ぎない。この先はピノができる限り総合上位に食い込めるよう、そして山岳ステージで勝てるよう、助けていく」(モラール)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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