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サイクル ロードレース コラム 2018年8月29日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 第4ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ベンジャミン・キングが山頂フィニッシュを制す

ベンジャミン・キングが山頂フィニッシュを制す

計画通り飛び乗った逃げは、生まれて初めてのグランツール区間勝利に続いていた。ひどい暑さに負けず、急勾配にも負けず、ベンジャミン・キングが2018年ブエルタ初の本格山頂フィニッシュを勝ち取った。正真正銘キャリア初めてのUCIワールドツアー勝利であり、なにより今季不振が続く所属チームのディメンションデータにとって、待望の……ワールドツアー1勝目となった!

「夢が叶った。いまだに信じられなくて、衝撃が止まらない」(キング)

スタート直後に9人が逃げ出した。アンダルシアの燃えるような太陽の下で、プロトンはあっさりエスケープを見送った。マイヨ・ロホのミカル・クヴィアトコウスキーのため、チームスカイがプロトン先頭で隊列を組んだが、刻んだテンポはあくまでもゆっくり。

「制御に務め、逃げとのタイム差を十分に開けた。満足だ。だって逃げに総合を脅かす危険人物はいなかったし、ひどく暑かったし、最終峠でとてつもない激戦が勃発するだろうと予測していたから」(クヴィアトコウスキー)

おかげで前線に飛び出した9人は、最大10分近いリードを許された。ちなみに逃げ集団の中で総合成績が最も上位につけていたのが、4分33秒差のキング。ステージ前半に登場した1級カブラ峠の山道で、暫定マイヨ・ロホの座にさえ立った。

この1級峠では、3日連続で逃げに乗ったルイス・マテマルドネスが、青玉ジャージ保守に全力を注いだ。同じく3日連続で前方へ飛び出し、山岳ポイントをこつこつ収集していたピエール・ローランを退けるため、早めに仕掛けてきっちり先頭通過を果たす。

ところでマテは、スタートした時点では、「逃げるのは1級カブラ峠まで」と決めていたという。

「カブラ峠でポイントを取ったら、本当はプロトンに戻ろうと考えていた。だって逃げも3日目に入り、疲労を感じ始めていたから。今日だって逃げに乗るためにものすごいエネルギーを使った。だけど、まさか、プロトンがあんなにタイム差をくれるなんて……。最終峠に入った途端に、もはや体力は限界に達した」(マテ)

ピエール・ローラン

ピエール・ローラン

たしかに3日連続で逃げではいたけれど、前日の第3ステージは途中で自発的に後退したおかげで、余分に体力を残していたはずのローランは、つまりマテの行動を少し誤解してしまったようだ。

「僕はあくまで区間狙いで走ってた。でも最終峠の入り口でマテの動きを警戒してしまった。だって彼は山岳ポイントだけじゃなく、全てを取ろうと欲張って、まるで前を引かなくなったからね」(ローラン)

キングに対する読みも、ローランはほんの少し読み違えてしまう。最終峠の登坂口の5.5km地点に設置された中間ポイントに向けて、キングが飛び出していった時、「あれは単なる総合首位獲りを考えての動き」と見逃してしまったのだ。たしかに「最終峠の序盤まで総合首位のことが頭の隅にあった」と本人も告白するように、キングは中間ポイントでボーナスタイム3秒を獲りに行った。しかしキングの動きに、イェーレ ・ワライスとニキータ・スタルノフが反応し、他の6人との間にちょっとした距離が開くと……3人はそのまま全力で行くことに決めてしまった!

「タイムトライアルのつもりで走った。他の選手たちと比べて、自分がどれだけ上れるのかまるで見当がつかなかったから、だったらできる限り長く先頭で走ろうと考えた」(キング)

最終峠アルファカルに先頭で挑みかかる頃には、キングを含む3選手は、ライバルたちに早くも30秒差をつけた。山道に入るとすぐにワライスは脱落した。キングとスタルノフは風の強い山頂へ向かって、黙々と一定ペースを保ち続けた。差が40秒にまで拡大したところで、残り10km、ついにローランは単独で追走に乗り出した。山頂まで4kmに迫った地点で、差は15秒にまで縮まった。

「ローランは元チームメートだし、良い友達だし、素晴らしい選手だ。でも僕らに追いつくために、彼が必死の努力をしていることも分かっていた。対する僕はきっちり体力を温存していた。だから自信があった。たとえ追いつかれても大丈夫、スプリントで倒せるはずだ、ってね」(キング)

最終峠を登るキングとスタルノフ

最終峠を登るキングとスタルノフ

キングの強気な態度は、同伴者のスタルノフに対しても変わらなかった。実はカザフ選手から、もしも区間勝利を自分に譲ってくれるなら、君の総合首位のために山道を引いてやってもいい、という提案を持ちかけられたそうだ。しかし「総合首位のことを考えたのは山の前半まで。後半はただひたすら区間勝利だけを追い求めた」というキングの答えは「ノー」。

「おまえは気でもおかしいのか!って言ってやった」(キング)

残り3.5kmで暫定マイヨ・ロホの座から陥落したキングは、ラスト1kmのアーチをくぐって以降は、冷静に、スタルノフの後輪にとどまり続けた。残り300mで、ローランがほんの数メートル後ろまで迫っても、背後ばかり気にするスタルノフに対して、キングは1度たりとも振り向かなかった。そしてフィニッシュ手前100m、毅然としてスプリントを切ると、鮮やかに山頂フィニッシュをさらい取った。

「キャリアで最も美しい勝利だ。ファンタスティックだよ。だってシーズン序盤に定めた目標を、こうして達成できたのだから。でもいまだに信じられない。もちろん、そのために練習を続けてきたし、諦めずに信じ続けてきたんだけどね。でも逃げが上手く行って、こんな状況に初めて置かれたものだから……なんだかちょっと混乱もした。それでも頭をしっかり持ち続けて、そして僕はやり遂げた」(キング)

キングが歓喜のガッツポーズを天に突き上げ、ディメンションデータに今季初めてのワールドツアー勝利をプレゼントしたのだとしたら、13秒後に区間を終えたローランは、チームEFエデュケーションファーストにやはり今季初のワールドツアー勝利をもたらせなかった。一方でへとへとながらもマテは最後まで気力を振り絞り、区間4位できっちり山岳ポイント2ptを追加。今後2日間は、たとえ逃げずとも、山岳賞首位の座を楽しむことができる。

はるか後方で静かに走り続けてきたメイン集団は、最終峠の接近と共に、突如として動き始めた。スカイから真っ先に制御権を奪い取ったのはモヴィスターだった。さらにはチーム ロットNL・ユンボが、7人で隊列を組み上げるとーーつまり逃げに乗ったラース・ボーム以外全員ーー、猛烈なスピードアップを敢行。そのボームも集団に追いつかれると、残された力を惜しみなく牽引作業に費やした。

ロットNL の刻む高速テンポに耐えきれず、集団後方から、どんどん落伍者が千切れていく。2日前の落車ですでにタイムを失っていたイルヌール・ザカリンが苦しみ、ツールの落車負傷からいまだ癒えぬヴィンチェンツォ・ニバリやリッチー・ポートがまたしても脱落し、前日まで総合35秒差につけていたバウケ・モレマも、力なく後退していった。フィニッシュまで約4km、メイン集団は15人ほどにまで小さくなった。

サイモン・イェーツ

サイモン・イェーツ

ここで真っ先に前方へと飛び出したのは、しかし、ロットNLではなかった。サイモン・イェーツだった。5月のジロで区間3勝をもぎ取った策士は、ロットNL がついに3人に減り、わずかにテンポが緩んだ瞬間を見逃さなかった。

「計画なんかしてなかった。でも、絶妙なタイミングを感じ取って、今だ、と思って加速した。そこから自分がどうするつもりなのかも、まるで考えていなかった。反応する選手がいるかな……と思ったりはしたけど」(サイモン・イェーツ)

いや、誰ひとりとして、すぐには反応しなかった。そのままサイモンは独走で山頂へと突き進んだ。ワンテンポ遅れてアレハンドロ・バルベルデが動いたが、今度はライバルたちがまとめて付いてきて、加速は中和された。総合でわずか14秒差につける大ベテランの追走が許されなかった代わりに、エマヌエル・ブッフマンとミゲル・アンヘル・ロペスは監視を掻い潜り、それぞれ1人ずつ集団を抜け出した。

キングから2分48秒遅れで、サイモンはフィニッシュラインを越えた。その2秒後にブッフマンが、さらに17秒後にロペスが山頂へと駆け込んだ。残り数百メートルでついに飛び出したバルベルデは、わずか2秒ながらも、メイン集団に先んじてゴール。そしてクヴィアトコウスキーを含む大多数の総合勢は、区間覇者から3分15秒遅れで、つまりサイモンから27秒遅れで1日を終えた。

「僕にとってはパーフェクトなシナリオだった。逃げを吸収するつもりはなく、ただ総合で好位置にとどまり続けることだけを考えた。そのために体力をできる限り温存した。数々のアタックが見られたけど、僕はひたすら自分のリズムで上り続けた。そして最後には、少なくともあと1日は、マイヨ・ロホで過ごす権利を手に入れた。満足だね」(クヴィアトコフスキー、フィニッシュ地インタビューより)

ブッフマンに総合7秒差、イェーツには10秒差に迫られたが、 クヴィアトコフスキーは3日目のマイヨ・ロホ表彰式を堪能した。大会初の山頂フィニッシュを終え、総合1分以内には、もはや17人しかいなくなった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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