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「今日は勝てるかどうか分からなかったし、そもそも集団スプリントで終わるかどうかさえ定かじゃなかった。でもコースを下見していたおかげで、それが可能だとは分かっていた」(エリア・ヴィヴィアーニ、優勝インタビューより)
信じる気持ちこそが、クイックステップフロアーズのチームメートたちを熱心な牽引作業へと駆り立てた。決してスプリンター向きとは言えない地形でも、エリア・ヴィヴィアーニは辛抱強く耐え続けた。
「ステージ前半はとにかくしがみついていかなきゃならなかった。そうすれば、その後は、自ずとステージ勝利が見えてくるはずだから」(ヴィヴィアーニ)
固い決意と、堅固なチームワークとで、ヴィヴィアーニはついにはステージ勝利を自らの手元へと引き寄せた。5月のジロ区間4勝に続く、2018年グランツール区間5勝目。「ウルフパック」にとっては今季のジロ5勝、ツール4勝に続く、幸先良いブエルタ1勝目となった。
どうなるのかまるで先が見えない……そんな大会3日目の運命を、ルイス・マテマルドネスも自らの力で切り開いた。前日の逃げが実り、山岳賞で首位に立つ地元っ子は、「明日(第3ステージ)は1級山岳があるから、絶対に再び前に行く」との宣言通りに飛び出した。スタート直後に出来上がった6人の逃げに滑り込むと、ステージ前半に待ち構えた2つの山岳できっちり先頭通過。青玉ジャージを少なくとも、あともう1日着用する権利を手に入れた。
ちなみに2日目のエスケープ仲間のピエール・ローランとエクトル・サエスとも、マテは前方集団で再会を果たす。6人の逃げ集団は、メイン集団から最大4分半ほどのリードを許された。
そのメイン集団では、クイックステップが、絶妙なさじ加減でコントロールを行った。2つの山岳では……特に登坂距離20kmを超える1級マドロニョ峠では、ヴィヴィアーニが脱落してしまわぬよう、適度なスローペースを刻んだ。2つの山を越えてからは、逃げの6人の逃げ切りを許してしまわぬよう、距離をじりじりと1分半程度にまで縮めた。その後も細かい起伏は執拗に繰り返されたが、青い隊列は、自陣のスプリントエースを完璧な形で保護し続けた。
表向きは静かな時間が流れた。残り60kmを切るとボーラ・ハンスグローエもようやく追走に協力を始めた。それをきっかけにローランが前方から早めの退却を決意するも、いまだ時速30km台でゆっくりとレースは進行していた。
残り45km、突如として戦いは動き始めた。ロット・ソウダルのヴィクター・カンペナールツとイェーレ ・ワライスが、タンデムアタックを仕掛けたのだ。すかさずルーカス・ペストルベルガーが後輪に飛び乗り、アレクシ―・グジャールも後を追った。いずれ劣らぬ驚異的な独走力を誇る4人は、あっという間に前を行く5人に合流を果たした。9人に膨らんだ前方集団では、ロットの2人とAg2rの2人が、惜しみなく加速に力を注いだ。
中でも欧州個人タイムトライアルチャンピオンのカンペナールツは、厳しい上りを全力でもがき、下りはトップスピードで果敢に攻めた。第1ステージを7秒差の3位で落とし、大会前に掲げていた目標「区間勝利と総合リーダージャージの同時獲得」は逃したが、第2ステージ終了時点ではいまだミカル・クヴィアトコウスキーから総合でわずか44秒遅れでしかなく……おかげで一時は暫定マイヨ・ロホの座にさえ立った!
「あまりにも興奮しすぎちゃたみたいなんだ」(カンペナールツ、フィニッシュ後インタビューより)
後方プロトンに残るチームエース、ペーター・サガンのために、それまで一切協力の姿勢を見せなかったペストルベルガーが、いよいよ先頭交代に加わり始めた直後だった。残り23.5km。鮮やかな加速と共に、下りへと勢い良く飛び込んだカンペナールツが、右カーブでアスファルトへと滑り落ちた。
「残念だ。だってペストルベルガーのことはよく知ってたから、もしも彼と2人で前に行けたら、プロトンの追い上げを交わせたかもしれないのに」(カンペナールツ)
かすり傷程度で済んだのは幸いだった。ただしカンペナールツの逃避行には終止符が打たれた。一方のペストルベルガーは、その後も激しくスピードアップを繰り返し、ラスト20kmでついに独走へと持ち込んだ。
なにしろほんの少し前に、メイン集団後方で、数選手が千切れている。欧州ロードチャンピオンのマッテオ・トレンティンもその1人だった。残り45kmのアタックで急激に走行スピードが上がって以降、ピュアスプリンターたちは確実に喘ぎ苦しんでいた。つまり後方にいるサガンのために引かない……のではなく、後方にいるサガンの有利に持ち込むためにも、もっともっと加速する作戦へと切り替えた。もちろん2017年ジロ初日に、本人は列車牽引しているつもりで走っていたら、まさかの逃げ切り勝利を手にしてしまった強脚ペストルベルガーだけに、同時に独走勝利の可能性も追い求めることができる。
ボラの目論見通り、クイックステップ隊列は散り散りに解体された。もはや前線を引ける人員は2人しか残っていなかった。むしろモビスターが集団先頭で隊列を組んだ。フィニッシュまで10kmを切り、あらゆる起伏を抜け出し、道が平坦になっても、総合エースのナイロ・キンタナを安全にフィニッシュまで連れて行くために最前列を死守し続けた。ラスト6.5kmでペストルベルガーの独走に終止符を打ち、ラスト4kmで最後のカーブを抜けるまで、スペインのアシスト勢は決して気を抜かなかった。
安全圏内の最終3kmに入ると、ようやくスプリンターチームに主導権が戻された。ただし長い列車を組めるようなチームなどもはや存在せず、ラスト2kmでは総合エース級のステフェン・クライスヴァイクが、ダニー・ファンポッペルのために猛烈な牽引を見せる場面さえあった。「スプリントの直前、僕の側にはもはやミケル・モルコフしか残っていなかった」と、後の勝者となるヴィヴィアーニも、専属発射台ファビオ・サバティーニ抜きで最終ストレートへと飛び込んだ。
「でも僕ら2人はしっかり前方ポジションに留まった。そしてモルコフが残り300mで脇にそれると、後は僕がスプリントを切るだけで良かった」(ヴィヴィアーニ)
ジャコモ・ニッツォーロやサガンの追い上げをかわし、緑白赤のイタリアチャンピオンジャージが拳を天に突き上げた。2012年大会以来2度目のブエルタ挑戦で、初めての区間勝利をもぎ取った。また2018年だけでスプリント15勝目(+総合1勝)を叩き出し、所属チームのクイックステップにはシーズン58勝目を献上した。
「どうしても勝ちたかった。大会の早い段階で1つ勝っておくのは、すごく重要なことだから。非常に制御の難しいステージだったし、誰も僕らに協力してくれなかったけれど、でも僕らどうしても勝ちが欲しかったんだ。こうして最高のシーズンをさらに続行できて、本当に満足だ」(ヴィヴィアーニ)
クヴィアトコウスキーは特に問題なく先頭集団で1日を終えた。総合首位の赤いジャージはもちろん、ポイント賞の緑のジャージも複合賞の白いジャージも難なく守った。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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