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現役最強クラシックハンターの一騎打ちだった。アルデンヌ3戦の中でも、より起伏の厳しい後半2戦で通算9勝を誇るアレハンドロ・バルベルデが、38歳にしてなお衰えぬ登坂スプリント力を見せつけた。平坦から起伏系クラシックまで幅広い守備範囲を有するミカル・クヴィアトコウスキーは、区間では2位に甘んじたが、総合では望み通りに首位へと躍り出た。
2018年ブエルタ初のラインステージで、いきなり大会最初の上りフィニッシュへと挑みかかる前に、初の逃げ集団が形成された。スタート直後から始まる2級峠への上り坂で、176人で構成されたプロトンから、7選手が前へと飛び出したのだ。
先頭集団にはお共通の第一目標があった。それはコース上に散らばる4つの山でポイントを収集し、大会最初の山岳ジャージを手に入れること。中でもひときわ高いモチベーションを抱いていたのが、ルイス・マテマルドネスだ。愛称「アンダルシアのオオヤマネコ」は、この日のスタート地マルベリャで暮らし、この日のコースで毎日練習を重ねてきた。
「このブエルタのコースが発表になった瞬間に、狙いが定まった。第2ステージで山岳賞を獲ろうと決めた」(マテ、フィニッシュ後インタビューより)
もちろん簡単ではなかった。トーマス・デヘントやピエール・ローランという、いわゆるグランツールのエスケープ常連にして、逃げを勝ちへと昇華させられる実力者たちが、前集団に滑り込んでいたからだ。
それでもマテは、強い意志と、土地鑑と、そして地元ファンたちからの温かい声援とを武器に、両者を巧みに攻略した。序盤3峠で見事に先頭通過を果たすと、念願叶い、1日の終わりに青玉ジャージを手に入れた。
「夢が現実になった。祖国のグランツールの、地元のステージで、家族に見守られながら表彰台に上れたことは……きっと一生忘れられないだろうな。キャリアで最高の日になった」(マテ)
後方メイン集団では、マイヨ・ロホのローハン・デニス擁するBMCレーシングが、手堅いコントロールを続けていた。逃げには最大4分ほどのリードしか許さなかった。しかも2つ目の山を終えると、果たして世界選へ向けヒルクライマー化計画を推し進めるペーター・サガンのためだろうか、ボーラ・ハンスグローエも牽引作業に加わった。タイム差はじわじわと減っていく。
すると数日限りの山岳賞よりも、むしろステージ優勝が欲しいデヘントは、3つ目の山に入る前にあっさり逃げからイチ抜けした。逆にローランは、3つ目の山の先で、逃げ切りの最後の可能性に打って出た。まずは同じフランス人のアレクシ―・グジャールと協力し、最後には単独で、なんとかして追っ手を振り切ろうと力を尽くした。
しかし、無情にも、スカイ列車に止めを刺された。近年のグランツールで恐るべき統制力を発揮し続けてきた英国精鋭軍が、この日は、開幕タイムトライアルを6秒差の区間2位で終えたクヴィアトコウスキーのために高速テンポを刻んだ。フィニッシュまで19kmを残して、ローランは前方から引きずり降ろされた。
スカイに息の根を止められたのは、なにも逃げの7人だけではない。急激な加速に耐え切れず、サガンが力尽き、デニスは赤い衣のまま後退した。さらに「スタート直後から今日は素晴らしい1日にはならないだろうことを悟っていた」というリッチー・ポートもまた、脱落していった。最終的にこの3人は、区間勝者から13分31秒遅れでフィニッシュラインを越えた。わずか2日目にして、ポートの総合優勝の可能性は、完全に消え去った。
「がっかりしているかどうかと問われたら、答えはノーだ。このレースに総合を狙いに来たなんて、僕は決して言ってない。ただ1日1日を戦っていくだけ」(ポート、チーム公式リリースより)
残り10kmを切ると、ヴィンチェンツォ・ニバリも前線から姿を消した。ポートと同じく、ツールで落車リタイアし、胸椎を痛めた大チャンピオンは、8月上旬にトレーニングを再開したばかり。「史上6人目の3大ツール全覇者」の本来のポテンシャルを、いまだ取り戻せてはいなかった。4分04秒遅れで走り終え、チームのバーレーン・メリダ側からは、早くも総合争い終了宣言が出された。この先は山岳ステージ勝利を積極的に狙いに行くつもりだ。
ちなみにステージ前半で落車したイルヌール・ザカリンも、1日の終わりに1分近い遅れを喫した。ステージ後に精密検査を受けた結果、幸いにも骨折等は見つからなかったが、左手首と膝に痛みを抱えている。
全長約7kmの最終峠に突入する頃には、メイン集団は40人ほどにまで小さく削られた。スカイ隊列に加え、モビスターも先頭で猛烈な牽引を繰り返した。ある意味、誰もが予想していた2大巨頭の一騎打ちへと、展開は突き進んでいった。
そこに、ほんのちょっとしたサスペンスを与えてくれたのが、ローレンス・デプルスだ。残り1.3kmで、捨て身の先行アタックを試みたのだ。いまだに2人残っていたスカイのアシスト陣は、おかげで必死の追走を余儀なくされ、消耗し、そして後退していった。自ずと予定よりもおそらく早く、クヴィアトコウスキーは、メイン集団の最前列に取り残された。
一方でラスト800mころまでは「総合エース」のナイロ・キンタナをきっちり引っ張り上げつつ、バルベルデは上手く2列目を守り続けた。そして残り600mを切ると、自ら力強い加速を切った。
「デプルスが遠くから仕掛けたから、僕も早めに加速を切る以外の方法はなかった。でも最後の直線で出力を全開に振り切れるよう、力を残しておくことも忘れなかった。そこに計算ミスはなかった」(バルベルデ、優勝インタビューより)
もちろん、すかさず、クヴィアトも反応した。ほかにも数人が追いすがろうともがいたが、バルベルデの破壊的スピードについて行けたのは、そもそもクヴィアトだけだった。ただし瞬時に後輪に飛び乗れたわけでもなかった。そこを大ベテランは見逃さなかった。
「僕の1mくらい後ろにいたし、離されないよう必死の努力をしている様子が見て取れた。だからあえて、最後の右カーブで、彼を僕の前に行かせたんだ。だってその後に、もう1つ、最終直線手前に勾配の厳しいゾーンがあることは分かってたから。あそこは、むしろ、クライマー向きなんだ」(バルベルデ)
「戦術と言うよりは、純粋に、脚力の問題だった。バルベルデは単純にパワーをきっちり残していたし、しかもラスト500mからラインまでそのパワーを維持した。僕だって最後のカーブで彼を追い越しにかかったんだ。でも最後の75mは勾配がすごくきつくて、限界に達してしまった」(クヴィアトコウスキー、ミックスゾーンインタビューより)
まさしくバルベルデ側に計算ミスもなければ、戦術ミスもなかった。最終ストレートの入り口で鮮やかに先頭を取り返すと、そのまま両腕を広げて先頭でフィニッシュラインを越えた。
若き日には「エル・インバティド(無敵の男)」とあだ名され、輝かしい賞歴を誇ってきたバルベルデにとって、祖国のグランツールで手にする記念すべき10回目のステージ優勝だった。しかも2015年大会以来となる、実に3年ぶりの区間勝利。そうはいっても2016年はジロ総合3位+区間1勝→ツール総合6位→ブエルタ総合12位というとてつもないシーズンだったし、2017年はツール1日目の落車負傷で残りシーズンを棒に振っただけであり、決してバルベルデの実力自体に陰りが見えたわけではなかったのだが……。
そんな大先輩の背後で、ちょうど10歳年下のクヴィアトコウスキーは、2日連続の区間2位で終えた。バルベルデの持っていないタイトル、つまり元世界チャンピオンの称号を有していながら、またしても生まれて初めてのグランツール区間勝利はお預けとなった。ただ前日の区間覇者デニスの後退により、自動的にマイヨ・ロホが手元にやってきた。
「こんな方法でマイヨ・ロホを獲りたかったわけじゃないんだ。勝利まであとちょっとだったのに……。でも、バルベルデを倒すなんていうのは、簡単なことじゃないからね。しかも今日の彼は、とりわけ凄かった」(クヴィアトコウスキー)
2016年ブエルタで1日だけこの赤いジャージを着た経験があるが、個人的には「ジャージを守るつもりはない」そうだ。むしろジャージを獲りに行ったのは、「チームに成功をもたらすため」。
たしかにジロ4日・ツール8日・ブエルタ1日と2018年の全3大ツールで総合リーダージャージを手にしたBMCレーシングに続いて、スカイもジロ3日・ツール11日・ブエルタ1日と3つのカラーを取りそろえた。もちろんご存知の通り、スカイはジロとツールは最終的に総合優勝を持ち帰っている。
「もしも区間を取りに行く必要がるなら、僕らチームは全力で努力する。もしも総合首位を守る必要があるなら、僕らチームは全力でそうするさ。柔軟に、レースの状況に合わせて、動いていくだけ」(クヴィアトコウスキー)
総合首位クヴィアトコウスキーの次点には、区間覇者のバルベルデが14秒差で浮上した。2日間をそつなくまとめたウィルコ・ケルデルマンが25秒差の総合3位につける。ポートやニバリ、ザカリンを除く総合有力勢の中では、ミゲル・アンヘル・ロペスが区間で19秒を落とし、総合の遅れを54秒に開いた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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