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サイクル ロードレース コラム 2018年7月29日

ツール・ド・フランス2018 第20ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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2018年ツール・ド・フランスで最も強かった3人が、第20ステージの表彰台を分け合った。総合2位トム・デュムランは世界チャンピオンの脚を発揮して、ステージ優勝をさらい取った。前回大会覇者クリス・フルームは、ピレネーでの不調を吹き飛ばすような好走で2位に滑り込み、前日失った表彰台の3番目の位置を取り戻した。そしてマイヨ・ジョーヌのゲラント・トーマスは、中間計測ポイントを全てトップタイムで通過する疾走を見せた。そして区間3位でフィニッシュラインを越えた瞬間に、歓喜と共に、人生初のツール・ド・フランス総合制覇を決めた。

緑の色濃いフレンチバスクを、灰色の雲が覆った。ひときわ暑くて、珍しく晴れ続きだった3週間の終わりに、ほんのわずかの雨がアスファルトを濡らした。難しい上り下りや、細かく蛇行した道が連続して現れる難コースだけに、多くの選手が慎重にハンドルを握った。なにしろこの31kmの個人タイムトライアルを終えれば、あとはパリに帰るだけなのだから!

もちろん独走を得意とする選手たちは、危険を恐れず全力を尽くした。特にこれまでの19日間、「2人の」リーダーのために誠心誠意働いてきたミカル・クヴィアトコウスキーは、今大会で唯一自分のために走れるチャンスに見事な走りを実現させた。41分42秒39の好タイムを記録し、約1時間半にわたって暫定トップの座に留まり続けた。

最終的にクヴィアトコウスキーは区間4位で終える。もちろん順位を上回った3人中2人こそ、自らが守ってきたチームリーダーだった。真っ先にタイムを塗り替えたのがヴァンデ県での開幕時点のリーダーで、最後に追い越したのがバスク地方での閉幕時点のリーダーだ。

最終個人タイムトライアルの朝を、フルームは総合4位で迎えた。大会初日に落車で約1分を、4日目に集団落車による分断で約50秒を失って以来、常に「ノーミス」で走ってきたチームメートのゲラント・トーマスの2番手に甘んじてきた。ピレネー2日目の65km短距離ステージでは、プリモシュ・ログリッチェの攻撃に耐えきれず総合3位に転落。さらに前夜のピレネー最終決戦でも、やはりログリッチェの特攻にしてやられた。わずか13秒差ながら、スロベニアの元スキー選手に総合表彰台から弾き飛ばされて……。

「グランツールがそうであるように、このツールもまるでジェットコースターのようにアップダウンがあった。昨日はまるで、僕はなにかに必死にしがみついているような状態だった」(フルーム、公式記者会見より)

辛い思いを拭い去り、王者としての誇りを取り戻すために、フルームは猛スピードで出走台を飛び出した。2つの中間計測地点ではトップタイムを大幅に塗り替えた。おかげで13km地点の計測で、早くもログリッチェから総合3位の座を取り戻した。アンクティル、メルクス、イノー、インドゥラインに続く史上5人目のツール総合5勝も、メルクスに続く史上2人目のグランツール4大会連続制覇も、33歳のチャンピオンは達成することは出来なかった。それでもグランツール全体では11度目の総合表彰台乗りを確定した。これは現役ではヴィンチェンツォ・ニバリの10回を超える単独首位の記録で、歴史上でも単独5番目の快挙である。

さらにはチームメートのクヴィアトの記録を36秒上回って、暫定ステージ首位に立った。

「今日は脚が良く動いて本当に嬉しかった。まあ、それでも、望んでいたよりは、ほんの数秒足りなかったけど……(笑)」(フルーム、公式記者会見より)

なにしろ約2分後にフィニッシュラインに滑り込んできたデュムランが、わずか1.73秒差でトップの座を奪い去ってしまったのだ!

「クレイジーな結果だよ。信じられない。フィニッシュラインを越えた瞬間は、フルームが僕を1秒リードしていると思い込んでしまったんだ。でもリードしていたのは僕だった。すごい気分だよ」(デュムラン、TVインタビューより)

現役の個人タイムトライアル世界チャンピオンは、フルームに比べて静かなスタートを切った。5月にピンク色のジャージを巡って激しく競い合ったライバルからは、1つ目の計測地点では3秒、2つ目の計測地点では2秒のビハインドを背負っていた。しかしプロトン屈指のTTスペシャリストは最後の9kmでも決してペース衰えることなく、フルームを追い上げ、そしてぎりぎりで追い越した。

2017年ジロ総合覇者にして、2018年ジロ総合2位のデュムランにとって、ツールでは自身3つ目の区間勝利。グランツールにおける個人タイムトライアル勝利は、実に6つ目に上る。

「昨日までの時点ですでに僕とチームのツールは成功していたんだ。でも総合2位で終えられた上に、最後にステージ優勝まで手に入れられるなんてね!この総合2位という結果には満足している。あれほど厳しかったジロのあと、ここツールで再び表彰台に上れるなんてすごい快挙だと思う。がっかりなんてしていない」(デュムラン、公式記者会見より)

フルームと同じく2018年ジロ→ツールを連戦し、しかもいずれの大会でも総合2位という結果を残したことに対し、デュムランは心から満足の表情を浮かべる。トーマスとの総合タイム差の大部分は、第6ステージのミュール・ド・ブルターニュでのパンクによる遅れ(50秒)と、その後の追い上げで違反を取られた20秒のペナルティ。またトーマスが33秒のボーナスタイムをかき集めたのに対して、デュムランが収集したのは12秒。これだけでも21秒の違いが生まれている。

ちなみに2つの中間計測地点で最高タイムを叩きだしたのは、フルームではなく、最終走者のトーマスだった。なんとデュムランより第1計測を16秒、第2計測では15秒も早く駆け抜けている。ただし最終的には、デュムランから14秒遅れで、マイヨ・ジョーヌはフィニッシュラインを越えた。

……すなわち総合では1分51秒リードを保ったまま、ゲラント・トーマスが2018年ツール・ド・フランス総合首位の座を守り切った瞬間でもあった。第11ステージで区間勝利と共にマイヨ・ジョーヌを身にまとって以来、常に「バブル」の中に閉じこもり、外界からの雑音をシャットアウトしてきたという「G」だが、さすがにこれ以上、生身の人間らしい感情を抑え込むことは出来なかった。

「まるで突風のようだった。ラインを越えた途端に、とてつもない感動が湧き上がってきた。いまだにその感動に浸っているよ。しかも、びっくりすることに妻があの場に来ていて、おかげでさらにまずいことになった。結婚式以来久しぶりに泣いちゃった」(トーマス、公式記者会見より)

20代前半でトラック競技の五輪&世界チャンピオンに輝き、20代後半でフランドル系石畳クラシックを制したトーマスは、32歳でついにグランツール王者に上り詰めた。マイヨ・ジョーヌ姿でラルプ・デュエズを制した瞬間こそが、今大会最高のハイライトだったと振り返る。パリでのシャンゼリゼ表彰台に上がった瞬間には、ゲラントはどんな感動に襲われるのだろうか。ちなみに個人タイムトライアル後の夜は「ビールとハンバーガー」を楽しむつもりだが、「パリではもっと本格的なお祝いをしたい!」そうだ。

3週間前にヴァンデ県から走り出した176人のプロトンは、7月最後の日曜日、長く厳しい戦いを乗り越えた145人と共にパリへと凱旋を果たす。2012年からの7年間で6回目の英国人総合覇者が……いや、ツール史上初めてのウェールズ人マイヨ・ジョーヌが、世界で一番美しい大通りのど真ん中に設えられる表彰台のてっぺんに立つ。

☐ ツール・ド・フランス 2018
ツール・ド・フランス2018 7月7日(土)~7月29日(日)
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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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