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クラシック風コースだからといって、必ずしもクラシック風展開にはならなかった。あくまでグランツールの起伏ステージらしく、上れるスプリンターから総合優勝狙いのオールラウンダーまで、様々な脚質が一斉に最終坂へと詰めかけた。フランドル系モニュメント2勝のペーター・サガンが、アルデンヌ系クラシックハンターを力技でまとめて振り払い、区間2勝目を勝ち取った。
ひどい猛暑は峠を越えたが、沿道は熱気むんむん。緑の木々で縁取られた涼し気な田舎道は、鈴なりの観客でにぎやかに埋め尽くされた。それにしてもサッカーフランス代表がワールドカップ決勝進出を決めた翌日だというのに、青白赤のフレンチトリコロール旗よりも、ツールのコース上では白黒の地方旗のほうがずっとずっと存在感を放っている……。
だってここはブルターニュだ!もちろん選手の行く手には、この地方特有の、無数の小さな起伏が繰り返された。後半には5つの山岳ポイントも待ち受ける。だからこそ大会5日目にして初めて、スタート直後には激しい飛び出し合戦が繰り広げられた。ついには実力派7人が飛び出した。
メイン集団は極めて厳しい制御を行った。1)グレッグ・ヴァンアーヴェルマートのマイヨ・ジョーヌ保守、2)同選手のステージ優勝の可能性追求、3)リッチー・ポートを安全にフィニッシュまで運ぶ、という3つの大切な使命を課されたBMCレーシングのアシストたちは、作業を決して厭わなかった。繰り返される起伏に「ピュア」スプリンターたちが喘ぎ苦しむのを横目に、「上れる」サガン擁するボーラ・ハンスグローエも、ステージ中盤以降は積極的に牽引に加わった。逃げる7人には最大4分半程度の余裕しか与えなかった。
200Kmを超える長いステージが、残り100Kmを切った頃、逃げ集団からシルヴァン・シャヴァネルがひとり前方へと飛び出した。ほんの3日前には思いがけず140Kmの一人旅を行ったが、この日は自らの意志で独走を選んだ。目標は山岳ポイント収集。こうして5つの山岳のうち、最初の3つでまんまと先頭通過を果たす。山岳ポイントも合計4ptを懐に入れた。
ところが39歳大ベテランは、第2ステージでも山岳ジャージを獲り損ねたように、この日も赤玉をわずかな差で逃すことになる。3つ目の山岳を終えた直後に、シャヴァネルは逃げの3人に合流された。追いついてきたのは2013年ブエルタ山岳賞ニコラ・エデ、カリフォルニア一周で逃げ勝利を決めたトームス・スクウィンシュ、なにより若きチームメートのリリアン・カルメジャーヌ。シャヴァネルの飛び出しは、実はこの後輩に体力を温存させるためでもあった。
「シャヴァの動きは良かった。彼自身は山岳ポイントを収集できたし、僕は後方で静かに過ごせたからね。逃げた他の選手たちは、どうやらみんな、山岳賞や敢闘賞を狙っていたようだった。でもせっかくツールで逃げに乗ったのに、副賞しか追い求めないなんて残念過ぎる。僕はこのレースには、あくまでも勝ちに来たんだ」(カルメジャーヌ、TVインタビューより)
カルメジャーヌの野望もまた、叶うことはなかった。シャヴァネルがいつしか脱落し、エデもかろうじてついていくだけで精一杯で、先頭はカルメジャーヌとスクウィンシュに絞り込まれた。しかし「名前も知らないトレックの選手」(TVインタビューより)に、グランツール山岳区間2勝のカルメジャーヌは翻弄された。残りの山岳ポイント収集のため「引かない」選択をした相手に、「逃げ切りたい」男は何度も短気を起こした。先輩のための「アシスト」さえ上手くできなかった。2つの3級山岳でいずれもスクウィンシュに先行を許し、シャヴァネルの山岳賞首位を守り切れなかった。
「1日前で走ってなにひとつ手に入らなかった」(カルメジャーヌ、TVインタビューより)
ついにはフィニッシュ12Km地点に設置されたボーナスポイントの手前で、カルメジャーヌとスクウィンシュはメイン集団に飲み込まれた。
ツール・ド・フランス開催側にとっては、この地点での吸収劇は大いに意味があった。何しろ2018年大会に鳴り物入りで導入された「ボーナスポイント」が、初めて本当の意味で争われたのだから。前日第4ステージ終了時点で総合7秒差のジュリアン・アラフィリップが抜け出し1位=3秒を獲得。黄色のヴァンアーヴェルマートがすかさず後を追い、2位=2秒を押さえた。
それにしても総合上位6人が10秒以内にひしめき、うち3人がクイックステップフロアーズという状況と、このボーナスポイント&フィニッシュボーナスタイムの存在は、どうやら想像以上にGVAのプレッシャーとなっているようだ。最終盤に多くの総合系チームが隊列を走らせ、特にディフェンディングチャンピオンのクリス・フルームを背負うチームスカイが残り1Kmまで最前列を突っ走った後、最終坂の麓でフィリップ・ジルベールがアタックを切ると……ヴァンアーヴェルマートは真っ先に反応した。
「フィルを行かせてはならなかった。だって彼との総合タイム差はごくわずかだったからね(5秒)。あのアタックが決まれば、彼は区間を勝てたかもしれない。距離を開き、ボーナスタイムを取れば、マイヨ・ジョーヌの可能性だってあった」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)
残り550mでジルベールの後輪を無事に捕らえたところまでは良かった。ところがラスト350mで最前列を奪うと、ヴァンアーヴェルマートはそのまま長い坂道スプリントへと突入してしまった。
「あれは僕のミス。フィニッシュラインまで350mも残っていたのに、250mだと勘違いしちゃった。つまりスプリントを切るのが早すぎた。それでもトライしたんだよ……。まあ、いずれにしても、フィルを捕らえるためにかなりの努力を要したから、たとえ正しい距離でスプリントしたとしても、僕が勝てたかどうかは定かじゃないけど」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)
「ヴァンアーヴェルマートがスプリントを切ったけど……僕の意見では、少しタイミングが早すぎたかな。あれはコロブレッリにとっても、僕自身にとっても、完璧な列車となった。だからグレッグには感謝してる(にっこり)」(サガン、公式記者会見より)
黄色の発射台からラスト200mで飛び出したサガンとソニー・コロブレッリは、約150mに渡って、横一線の勝負を続けた。力と力のぶつかり合いは、しかし最後の50mで均衡が崩れた。
「あそこで加速したわけじゃない。ただ最後の最後まで僕のスピードが落ちなかっただけ」(サガン、ミックスゾーンインタビューより)
アムステルゴールドレースに比されたコースで、サガンは今大会2勝目、ツール・ド・フランス通算10勝目、グランツール通算14勝目を悠々と手に入れた。コロブレッリは今大会2度目の区間2位に泣いた。いずれも世界チャンピオンの次点だった。またサガンはマイヨ・ヴェール争いにおけるアドバンテージも開いた。前夜はわずか4pt差でかろうじて首位を保ったが、今回の勝利で2位フェルナンド・ガビリアとの差を33ptに拡大した。
3位にはジルベールが食い込み、ボーナスタイムを4秒収集。つまりヴァンアーヴェルマートは差を3秒に縮められたが、もう1日マイヨ・ジョーヌを着用する権利はしっかりと守り切った。ちなみに前夜のGVAは「総合選手たちに大きなタイム差がつく」と予言した。ふたを開けてみれば総合表彰台候補はみな、揃って小さな先頭集団でフィニッシュした。
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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