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サイクル ロードレース コラム 2018年7月8日

ツール・ド・フランス2018 第1ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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クリス・フルームを始めとする複数の総合優勝候補がタイムを失い、2018年ツール・ド・フランスは波乱の幕開けとなった。分断で小さくなった集団内のスプリントはフェルナンド・ガビリアが制した。初出場ツールの初日ステージで、コロンビア人スプリンターが、生まれて初めてのマイヨ・ジョーヌに袖を通した。

フランス全土がサッカーワールドカップ準決勝進出に酔いしれた翌朝、フランスは長いバカンスシーズンに突入した。もちろん夏休みは、2018年も、ツール・ド・フランスと共にやってくる。大西洋に浮かぶ小島ノワールムーティエから、全22チーム・176人のプロトンは3週間の長い旅へと漕ぎ出し、全長201㎞の沿道にはたくさんのバカンス客が詰めかけた。

「まるで満員のサッカースタジアムみたいだった。歓声が途絶える時間なんてちっともなかった」(ルダノワ、チーム公式リリースより)

地元ファンの期待に応えるように、ステージ序盤はフランス人がにぎわせた。本スタートを告げるフラッグが振り下ろされると同時に、ヴァンデU出身のジェローム・クザンと、今区間の30㎞地点サン・ジャン・ド・モンで暮らすケヴィン・ルダノワが飛び出した。「本当は逃げるつもりはなかったけれど、(ヴァンデ在住のトマ・)ヴォクレールが『今日は風があるよ』と教えてくれたから」(TVインタビューより)と、ヨアン・オフレドも素早く後に続いた。

つまりワイルドカードで出場を手にしたプロコンチネンタルチーム所属の仏人3人が、フランス本土へ先頭で走り込んだ。ヴァンデ県特有のマレ(湿地帯)とボカージュ(畦畔林)の間をくねくねとすり抜け、大西洋から吹き付ける風を体いっぱいに受けながら、3人は元気よく逃げ続けた。

クザンは中間スプリントと、中間ボーナスポイントで先頭通過を果たした。2年連続でラインステージ初日に逃げたオフレドは、2年連続で大会最初の敢闘賞を射止めた。なによりルダノワが4級峠を先頭で駆け上がった。3年前にU23カテゴリーで世界チャンピオンジャージを獲得したルダノワは、初めて出場したツールで、今大会初の、もちろん自身初の「赤玉」山岳ジャージを肩に羽織った。

「地元を走るステージに、特別な思い入れを抱いていた。目標は山岳賞を争うこと。だから僕の1日は成功だ」(ルダノワ、チーム公式リリースより)

3人は最大4分ほどのリードを得た。しかし後方では初日スプリントに向けて、複数チームがタイム差制御を行った。残り28㎞地点の山岳ポイントを通過した時点で、後方プロトンとの差は30秒。その後もオフレドとクザンの2人は、フィニッシュ手前13.5㎞に設置されたツール初企画「ボーナスタイムポイント」まではなんとか生き延びた。ただしクザンが先頭通過でボーナスタイム3秒を獲得し、集団からひとり飛び出したオリヴル・ナーセンが3位通過で1秒を手にすると、約190㎞続いた長い逃げは終わりを告げた。

それは平和な時間の終わりでもあった。残り11㎞。道は相変わらず蛇行していた。そんな小さなうねりのひとつで、フレンチスプリンターのアルノー・デマールが地面に倒れ込んだ。プロトンの真ん中で発生した落車に、多くの選手がなすすべなく巻き込まれた。集団はあっという間にばらばらに分解し、「何が起こったか分からないままに」(チーム公式リリースより)、ツール前哨戦ツール・ド・スイスを制したリッチー・ポートが罠にはまった。ジロで大旋風を起こしたサイモンの双子の兄弟で、今大会では唯一絶対のチームリーダーを務めるアダム・イェーツも後方に取り残された。

スプリントに向けすでにスピードを上げていたプロトンは、分断をきっかけにさらに勢いを増した。前方集団にリーダーを残す総合系チームも、最前列でこぞって加速を試みた。そんな中、チームスカイに2つの悲劇が襲い掛かる。新人賞マイヨ・ブラン大本命……どころかマイヨ・ジョーヌ大穴にさえ挙げられるエガン・ベルナルが単独で落車。さらにフィニッシュまで5㎞の地点、絶対的エースのクリス・フルームが、コース脇の草むらに転がり落ちてしまった!

カオスついでに残り3.5㎞では、過去3度ツールで総合表彰台に上ってきたナイロ・キンタナが、踏切横断のせいで両輪同時パンクした。こうしてフルームもキンタナも、ポートもいない、ほんの70人ほどの小さな集団が、2018年ツール初日のフィニッシュへと突進した。

その小さな集団の中に、ラスト1㎞、クイックステップはなんと7人を残していた。2017年グランツールでは16勝を叩きだし、2018シーズンは今大会前までに47勝という大量の勝ち星を手にしてきたベルギーの常勝軍団は、この日も完璧すぎるほどの列車を走らせた。チームメンバーの1人1人が自らの役割を申し分なきまでに勤め上げ、スプリントエースのガビリアを最前列へと押し出した。

「チームメートみんなの美しき仕事のおかげだ。彼らは僕のために全身全霊を尽くして走ってくれたし、フィニッシュ手前で僕を確実にベストポジションへと導いてくれた」(ガビリア、ツール公式記者会見より)

ラスト220mで解き放たれたガビリアは、そのまま最前列を誰にも譲らなかった。ペテル・サガンやマルセル・キッテルという「大ベテラン」も追い上げたが、微妙な上り坂でも決して勢いは衰えなかった。ツール初心者の23歳はフィニッシュラインで悠々と両腕を大きく開いた。2015年・2016年オムニアムの世界チャンピオンにして、すでに昨ジロ・デ・イタリアで区間4勝を手にしてきた俊足スプリンターは、コロンビア人としてはツール史上初めての「スプリント」区間勝利を手に入れた。

もちろんグランツール初日区間勝者として、自動的に総合首位の座についた。2003年大会でビクトール・ユーゴ・ペニャが3日間マイヨ・ジョーヌを身にまとって以来となる、史上2人目のコロンビア人マイヨ・ジョーヌに輝いた。

「僕にとってマイヨ・ジョーヌ獲得はとても大切なこと。なにしろコロンビアは15年間この日を待ち続けてきたし、たくさんのコロンビア選手がマイヨ・ジョーヌ獲りをトライしてきた。だからうん、すごく満足だ。この先どれだけジャージを守り続けられるか分からない。でも今は、この素晴らしい瞬間を、心から満喫したい」(ガビリア、ツール公式記者会見より)

さらにはポイント賞マイヨ・ヴェールも新人賞マイヨ・ブランも独り占め。中間スプリントも積極的に攻め、プロトン内首位通過(=4位)を果たしたガビリアは、緑ジャージ常連サガンに早くも26pt差を突きつけた。ちなみにポイント賞2位のサガンは世界チャンピオンジャージに優先権があるため、第2ステージは3位キッテルがマイヨ・ヴェールを着て走る。新人賞ジャージは昨シャンゼリゼ区間を制したディラン・フルーネウェーヘンに貸与される。

ガビリアが初めての栄光をつかんだ51秒後、ポート、イェーツ、フルームが混乱の1日を終えた。また1分15秒後にキンタナがフィニッシュラインを越えた。ヴィンチェンツォ・ニバリやロマン・バルデ、ミケル・ランダやリゴベルト・ウラン等々の総合ライバルたちから、3人は早くも大きくタイムを失ってしまった。

ツール総合4勝の現役最強のチャンピオンは、それにしても苦労が尽きない。昨ブエルタ・ア・エスパーニャ中のドーピング検査に「異常値」があったとして、昨12月から規則や疑惑の目と戦ってきた。ツール開催委員会からは「出場拒否」の通達も受け取った。ほんの5日前に「潔白」が証明されたが、開幕前のチームプレゼンテーションでは観客から心ないブーイングを浴びせかけられた。そして大会初日の落車……。ただ2018年ジロ・デ・イタリアでは開幕タイムトライアルの下見中に落車し、タイムを落としながらも見事な逆転優勝を果たした経験を持つフルームは、あくまでも前向きな姿勢を崩さない。

「今日はたくさんの落車を見かけた。(僕の落車は)その中のひとつにすぎない。残念ながらこれもゲームの一部。ただケガなく抜け出せたことに感謝するだけ」(フルーム、チーム公式リリースより)


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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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