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【ジロ・デ・イタリア レビュー】誰がこのドラマを予想できたか!?フルームが史上3人目の快挙達成!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかジロ・デ・イタリアの終わりに、今年も大どんでん返しが待っていた。2週間かけて築き上げられてきたヒエラルキーが、あっという間にぶち壊された。スペクタクルを演出したのは、大冒険時代を思わせるような未舗装路であり、往年の自転車チャンピオン顔負けのクリス・フルームの伝説的独走だった。
北イタリアで走り出した大会最終週は、サイモン・イェーツの思惑通りに進んでいたはずだった。マリア・ローザを肩に羽織り、連日のように攻め立てたおかげで、3回目の休息日を迎える頃には総合2位トム・デュムランとの差を2分11秒にまで広げていた。第16ステージ、最も恐れていた全長34.2kmの個人タイムトライアルでさえ、自己を超越するような好走を実現させた。アルカンシェルをまとう同種目世界チャンピオンから、わずか1分37秒しか失わなかったのだ。つまりデュムランに56秒差をつけ、イェーツは難関山頂フィニッシュ3連戦へと乗り込んだ。
第18ステージで失速するも、被害は最小限に食い止めた。プラート・ネヴォーゾの山頂まで残り2km。デュムランが、さらにはフルームが加速を切ると、これまでの17日間で1度たりとも弱みを見せなかったイェーツの脚が止まったのだ。デュムランには差を28秒にまで詰められた。「今日が僕にとって『最悪の日』であって欲しい。『不調の始まり』じゃないといいんだけど」と力なく語ったが、これは単なる前兆に過ぎなかった。「最悪の日」は翌日にやって来る。
ただし逆転劇を企てたのはデュムランではない。むしろ総合3分22秒遅れで4位につけていたフルームのほうだった。開幕ステージの試走で落車して以来、調子が上がらず苦労し続けてきたスカイのリーダーは、一時は最大4分52秒もの遅れを喫していた。しかしグランツール総合5勝の王者は、欧州最難関ゾンコランでのステージ優勝だけで満足するつもりなどなかった。表彰台にも興味はない。ただ欲しいのは、総合優勝だけ。
「前夜に作戦を立てた」と後に告白したように、たしかに綿密な計画に基づいていた。それでも「もしも最後の峠まで攻撃を待っていたら、おそらくマリア・ローザを取ることなんてできなかったはずだから」と、一か八かの危険な賭けでもあった。第19ステージのコース半ばに聳え立つ「チーマ・コッピ」フィネストレ峠で、スカイ列車は恐ろしいテンポを刻んだ。「昨日の様子で衰弱していると察知したから」と、まずはイェーツを振り落としにかかった。疲れ切ったマリア・ローザは、全長18.5kmの山道を、ほんの5kmほど走っただけでずるずると後退していった。タイムを最小限に食い留めるための努力さえ、もはや不可能だった。最終的には38分51秒遅れで苦しく長いステージを終え、13日間大切に守ってきたマリア・ローザを脱いだ。
「次はデュムランを振り落とす番だった」。大会開幕前の記者会見で「タイムトライアルだけに頼ってジロを勝つつもりはない」と語っていたフルームは、つまり山で、ディフェンディングチャンピオンに真っ向勝負を仕掛けた。フィネストレ名物の未舗装路に突入すると、最終アシストがスプリントさながらのスピードアップを敢行し、ついには自らが大きな鉄槌を振り下ろした。おなじみの高速くるくる走法で一気に距離を開くと、フィニッシュまでいまだ80kmも残っているというのに、たったひとりで飛び出していってしまった!
総合2位デュムランと5位ティボ・ピノ、そして新人賞を争うミゲルアンヘル・ロペスとリチャル・カラパスも追走を試みた。しかしピノはアシスト役セバスティアン・ライヒェンバッハの復帰をあまりに待ちすぎたし、若い2人はまるで連帯感を示さなかった。足並みの揃わぬライバルたちを尻目に、フルームは着実に後方との距離を開いていった。バルドネッキアの山頂には3分もの大差をつけて駆け込んだ。ローマ到着を48時間後に控えて、ついに生まれて初めてマリア・ローザに袖を通した。
最終山岳ステージまでドラマは終わらなかった。イェーツが大きく崩れ、開幕前には優勝候補として期待されたいたファビオ・アルが体調不良でリタイアした翌日は、総合3位に浮上したばかりのティボ・ピノが急下降するだった。フィニッシュまで40kmを残し、突然走れなくなった。苦しみながらも45分遅れの最終グルペットで走り終えたが、ステージ後に肺炎との診断が下った。最終日1日を残して大会を離れた。
ただペダルでの争いは、最後まで白熱するも、均衡は崩れなかった。新人賞だけでなく、表彰台の3番目の位置を争うことになったロペスとカラパスは、これまでの足の引っ張り合いから一転、猛烈なアタック合戦を繰り広げた。総合2の座は変わらなかったが、ただ蹴落とすべき対象が変わったデュムランも、幾度となくアタックを仕掛けた。しかしジャージ保守にはすっかり慣れているフルームは、ひたすら冷静にコントロールを続けるだけでよかった。総合3位ロペスと総合4位カラパスの47秒差は最後まで変わらず、フルームは総合2位デュムランに対するリードをほんの6秒広げ、46秒差で戦いを終えた。
3週間の過酷な戦いを生き延びた選手たちは、最終日ローマで楽しいひと時を過ごした。観光地のど真ん中に引かれた周回コースでは、歴史的建造物の間をすり抜け、悠久の時の流れを感じさせる石畳の上を走り……。あまりに贅沢な要素を詰め込みすぎたせいで、選手たちの要請でニュートラル化されてしまったのだけど。おかげでスプリンターたちが必死に列車を走らせ、サム・ベネットがマリア・チクラミーノのエリア・ヴィヴィアーニを退け区間3勝目をもぎ取った背後で、フルームはチームメートとゆっくり優勝の喜びに浸ることができた。
こうしてフルームはツール総合4勝、ブエルタ総合1勝に続いて、史上7人目・現役2人目となる3大ツール制覇を成し遂げた。さらに2017年ツール→2017年ブエルタ→2018年ジロと3つの連続するグランツールを勝ち取ったのは、1970年代のエディ・メルクス、1980年代のベルナール・イノーに次ぐ史上3人目の快挙!
ジロ期間中に33歳の誕生日を迎えたフルームの、次なる目標はもちろんこの夏のツール・ド・フランス制覇だ。もしも望み通りパリでマイヨ・ジョーヌを着ていることができれば、さらにたくさんの記録に名を残すことになる。ツール・ド・フランス総合優勝回数史上最多タイとなる「5勝クラブ」入り、1998年マルコ・パンターニ以来となる同一年ジロ→ツールの「ダブルツール」達成、さらには1972年ジロ→1972年ツール→1973年ブエルタ→1973年ジロと史上唯一4大会グランツール制覇を成し遂げたエディ・メルクスにも追いついて……。ちなみにジロ→ツールを成功させた暁には、1987年ステファン・ロッシュ以来となる、「ヒルクライマー向け」世界選手権でのトリプルクラウンも待っている!?
とにかく英国人として初めてマリア・ローザを持ち帰ったフルームが、「史上唯一」の記録を樹立するには、あともう少し勝ち続ける必要があるようだ。まずは約6週間後に開幕するツール・ド・フランスの、スタートラインに立っていなければならない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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