人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2018年4月5日

【パリ~ルーベ プレビュー】不動の主役は「石畳」。クイックステップとジルベールが抱く野望

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

パヴェ大戦のクライマックス、と今年の開催委員会は銘打った。まさしく2月24日のオムループ・ヘット・ニュースブラットから始まった北の男たちの仁義なき戦いは、4月8日のパリ~ルーベにて最高潮を迎える。伝統的な別名は「北の地獄」。なにしろ全長54.5kmmの石畳路は、他のどんなレースよりも距離が長く、でこぼこで、厳しい。

それにしても2018年の北の戦いは、クイックステップが猛威を振るっている。史上最多タイ「ルーベ4勝」を誇るトム・ボーネンのいない初めての春に、クラシック精鋭群の支配力は弱まるどころか、ますます強まるばかり。特に3月後半からツール・デ・フランドルにかけての「フランドル自転車週間」では、なんと全5戦中4戦を制してしまった(E3ハーレルベーケ:ニキ・テルプストラ、ドアーズ・ドア・フラーンデレン:イヴ・ランパールト、パンヌ3日間総合:エリア・ヴィヴィアーニ、ツール・デ・フランドル:テルプストラ)。かろうじて虹色をまとうペーター・サガンが、ヘント~ウェヴェルヘムを勝ち取り、春が青一色に染まるのを食い止めた。

この日曜日の石畳最終戦も、当然ながら、クイックステップのレース采配に目を光らせるべし。2014年ルーベ覇者にして、大会1週間前にフランドルを勝ち取ったテルプストラを筆頭に、ルーベ2位2回ズデネック・シュティバール、ドアーズ2連覇ランパールトと、「超」が付くほどの石畳スペシャリストを揃えている。なによりフィリップ・ジルベールが、2007年以来11年ぶりに、ルーベの石畳に帰ってくる。2009年ロンバルディアで初のモニュメントを勝ち取り、2011年にはリエージュを含むアルデンヌ3連戦同一年制覇を成し遂げ、昨春フランドルの栄光さえ手に入れた稀代のクラシックハンターが、ついに「クラシックの女王」に照準を合わせる。もしも2018年春に石畳トロフィーを射止めることができれば、自転車界の5大モニュメントのうち、ミラノ~サンレモを除く4つのタイトルをつかみとることになる。長い自転車の歴史の上で、異なるモニュメントを4つ以上制した偉人は、いまだ7人しか存在しない。

もちろん名だたるライバルたちが、クイックステップとジルベールの野望の前に立ちはだかる。ディフェンディングチャンピオンのフレフ・ヴァンアーヴェルマート。モニュメントの勝ち方なら十分に知っているアレクサンドル・クリストフにアルノー・デマール。石畳に執念を燃やすセプ・ヴァンマルクやオリバー・ナーセン。3年前にルーベ覇者となったジョン・デゲンコルプは、今フランドルで驚異的な脚を披露した22歳マッド・ペデルセンを従えて乗り込んでくるし、グランツール総合獲りに目標を切り替えたはずの元E3覇者ゲラント・トーマスは、同じく全地形型ジャンニ・モスコンと共にド平坦石畳バトルに挑む。マルセル・キッテルやディラン・フルーネウェーヘンといった強豪スプリンターもスタート地にやってくる。タイムトライアルスペシャリストのトニー・マルティンなどは、この春は完全に肉体を石畳仕様に作り上げた。ロードレース世界選で3連覇中のサガンと並んで、2018年のクラシックシーンで好走を続けているシクロクロス世界選3連覇中のウァウト・ヴァンアールトからも目が離せない。

これほどの素晴らしい役者が揃っても、あくまでパリ~ルーベの不動の主役は「石畳」だ。強い選手や調子の良い選手が必ずしも勝てるわけではない。幸運と偶然に恵まれなければならない。レース全長257km、石畳54.5kmを突っ走りつつ、落車やメカトラの危険をかいくぐらねばならない。開催委員長のクリスティアン・プリュドムはこう語る。「石畳の距離を今後も55km以上に伸ばすつもりはない。それよりも我々が試みたいのは、いまだかつて使用したことのない石畳路を発掘することなのだ。今年は初登場の石畳セクターが1ヶ所登場する」。

全部で29ヶ所ある石畳セクターは、レース後半3分の2に散りばめられている。噂の初登場パヴェは第25セクター、つまり5番目に通過するサン・ヴァースト。全長1.5kmで、開催委員会の評価では3つ星がつけられている。満点の5つ星は全部で3ヶ所。鬱蒼とした森の中の湿った一本道トゥルエ・ダランベール(第19セクター、2.4km)、軽い下りの後に90度カーブが2回も待ち受けるモン・アン・ペヴェール(第11セクター、3km)、そして熱狂しきった鈴なりの観客たちの間をかき分けて進まねばならないカルフール・ド・ラルブル(第4セクター、2.1km)だ。

中でもアランベールは大会登場50周年目を迎える。初めて通過した1968年大会を制したのが、あのエディ・メルクスだった。「史上最強の自転車選手」は、わずか22歳で、世界チャンピオンジャージ姿で、ルーベ自転車競技場での一騎打ちスプリントを制した。

その翌夏にメルクスは黄色いジャージも身にまとうことになるのだけれど、今年2018年の夏はマイヨ・ジョーヌ争奪戦にも石畳が登場する。しかもツール・ド・フランスで通過する全15セクター・21.7kmのうち、12セクター・17.6kmが今回のパリ~ルーベで使用される(第1、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16セクター)。残念ながら今ツールの総合優勝候補は誰ひとりとしてパリ~ルーベを走らないけれど(もしかしたらゲラント・トーマスが候補に上がる可能性もあるが)、大会委員長のプリュドムは、この春のサンレモ制覇に続いてフランドルでも衝撃を巻き起こしたヴィンチェンツォ・ニーバリがルーベを走る日を夢見ている。

一方でかつてツールのルーベ区間を制したラルス・ボームが夢見ているのは、悪天候のパリ~ルーベ。それもそのはず。随分と長い間、ルーベ名物どろんこ地獄にはお目にかかれていない。近年の傾向はむしろ、乾いた石畳ともくもくと舞い上がる白い砂埃だろうか。さて、気になる空模様は?水曜日までは雨が続いたものの、木曜日と金曜日は快晴で気温も大幅に上昇する予報だから……すると今年も砂埃地獄だろうか。いやいや、フランス気象台が正しければ、土曜日と日曜日、フランスの北部には小雨が降る!

ちなみに日曜日のルーベ当日には、フランス国鉄の大規模なストライキが予定されている。ただでさえカオスなパリ~ルーベが、道路渋滞やら、変則的な電車通過やらで、より一層ハチャメチャになりそうな不安も拭いきれない。もちろん我々ファンが望むのは、パヴェ大戦のクライマックスにふさわしい、正しく美しいカオスである。

長く厳しい地獄を駆け抜けた先には、天国への扉が開いている。土まみれになって自転車競技場までたどりついた全ての英雄に、超満員の観衆から、惜しみない歓声が注がれる。そしてこの日、最も強く最も強運だった者だけには、自らをさんざん苦しめてきた石畳を天高く掲げ持つ権利が与えられる。

================================
■パリ~ルーベ
04月08日 (日) 午後05:55~深夜 01:30 生中継&LIVE配信
詳しくはこちら »

■注目選手情報
注目選手情報はこちらから »

■ギア情報
ギア情報(機材紹介)はこちらから »

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ