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【2024インターハイ】東山:瀬川の支配力とエース不在の間にステップしたチームメイトの貢献が決め手となって成し遂げた全国制覇
バスケットボールレポート by 青木 崇東山高等学校
ウインターカップ準々決勝で福岡第一にまさかの逆転負けを喫した後、東山の瀬川琉久はNBA主催のバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(2月)、NBAグローバル・アカデミーのトライアウト(3月)、アルバート・シュバイツァー・トーナメント(3月)、NBAアカデミーゲーム(7月)に参加。東山を率いる大澤徹也コーチは、瀬川の将来性を最大限に考慮する決断をした一方で、昨年のチームから先発している佐藤凪らチームメイトたちをステップアップさせたいという思いもあった。
瀬川は海外での経験を積み重ねる過程で、相手選手の高さや長い腕に対して慣れ、ドライブからのフィニッシュを強化することに成功。ブロックしようとする留学生に対してコンタクトをするなどフィジカルの強さも増し、タイミングをずらして得点する術も磨きがかっていた。
福岡第一戦の瀬川は、八田滉仁と齊藤海斗が代わる代わる密着マークをしてきた影響で、ボールをもらってオフェンスをクリエイする機会が少なく、辛抱することを強いられた。しかし、「本当に自分がどうにかしなきゃというのがなくて、周りのみんなが競っている場面で繋いでくれた」と瀬川が話したように、佐藤がドライブで切れ込んでチャンスを作ったり、2Pショットを着実に成功していたことによって、自身へのプレッシャーがかなり軽減されていた。
ウインターカップの時の32点に比べると、インターハイ準決勝での瀬川は13点と、オフェンス面におけるインパクトが大きくなかったかもしれない。しかし、3Q終盤に3Pショットを決めたり、佐藤と小野寺星夢の3Pショットをアシスト。点差を詰めようとアグレッシブに攻めてきた八田から2度スティールを決め、4Q残り2分44秒には身体を張り、シームサからチャージングを奪うなど、ディフェンスで素晴らしい仕事をしていた。それは、8リバウンド、6スティールという数字を見れば明白。瀬川はこう振り返る。
「オフェンスができなかったとしても、自分はそれだけで終わる選手じゃないです。自分ができることを最後まで探した結果、ディフェンスで少しは貢献できたのかなと思います。4Qの最後はスキルとかそういうのではなく、3年生の意地であったり、気持ちだと思っているので、そこでスティールできたのはよかったと思います」
美濃加茂との決勝、瀬川は1Qで2ファウルになるが、佐藤が2本の3Pショットを決めるなど、東山が先に主導権を握った。8点差で迎えた3Q、瀬川は2本のジャンプショットを決めると、ベースラインからカットした南川陸斗のレイアップをアシストし、リードを2ケタに乗せる原動力になる。得点だけでなく、ゲームメイクでも冴えを見せた瀬川は、3Q終了間際に小野寺星夢のブザービーターとなる3Pショットをクリエイトするなど試合を支配。リードを21点まで広げた東山は、美濃加茂の追撃を振り切って悲願の全国制覇を成し遂げた。
「本当に途中で出てくる選手だったり、スタートで出ている凪であったり、本当に全員が自分の役割を明確に、それを最後までやれたことが勝因だと思います」
瀬川がこう振り返ったように、美濃加茂戦の東山は瀬川の21点を筆頭に佐藤が16点、小野寺がベンチから出てきて15点、効果的なカットからレイアップを決めた南川が10点、1年生の中村颯斗が9点を記録。試合に出場した7人全員が最低1本のFGを決めていたことでも、チームとしてうまく戦えていたのは明らかだった。
6月の近畿大会終了後、瀬川はアメリカのアトランタで行われたNBAアカデミーゲームに参加するためにチームを離れた。インターハイに向けた準備期間で絶対的な大黒柱が約1か月不在になった東山は、福岡第一との練習試合でプレッシャー・ディフェンスに対応しきれずに大敗したという。しかし、この間に選手たちはお互いの存在がいかに重要かを知り、一生懸命練習に取り組んできた成果が初のインターハイ制覇につながったのは間違いない。
「一番成長したなと思えるのが凪で、僕が海外行っている時や(代表の)デベロップメントキャンプに行っている間、本当にチームを支えてくれたのは凪とキャプテンの(松島)慎弥だと思っていて、その2人は僕がいない間に成長したと思います」
東山にとっては5度目の決勝進出でようやく成し遂げた全国制覇。試合終了のブザーが鳴った直後、大澤コーチは感情を抑えきれず、目から涙が溢れた。その理由の一つが、インターハイ直前の8月1日、大澤コーチにとって恩師の田中幸信氏が急逝していたからだ。
「何度も何度も(決勝を)経験して、乗り越えなくてはいけないところで選手たちよりも僕が気負っていました。今回は負けられない理由が僕にできたんです。8月1日に田中先生、僕の恩師が亡くなって。そういった状態で(インターハイに)来ていて、だからもう覚悟は決まった。今回は負けられないので、悩むことも、気負うこともまったくないです」
そんな指揮官に対し、選手たちはビッグゲームでステップアップし、最高の結果を出した。と同時に、東山が瀬川のワンマンチームではないことを証明したと言える。
文:青木崇
青木 崇
NBA専門誌「HOOP」の編集者からフリーのバスケットボールライターとなる。NBAファイナル、NCAAファイナル4、世界選手権などビッグイベントの取材や執筆活動を行なっている。
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