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絶対王者の福岡第一に対し、東山は好対象のスタイルを真っ向からぶつけて苦しめた。ウインターカップ2019第72回全国高校バスケットボール選手権大会の男子は28日に準決勝を行い、初の連覇を狙う福岡第一高校は72−58で東山高校を破り、決勝進出を決めた。前半で10点差のビハインドを追ったが、得意のプレッシングを敢行。チームナンバーワンの守備力を誇る内尾聡理(3年)がボールを奪って速攻につなげ、司令塔の河村勇輝(3年)が得点する流れに持ち込み、第3ピリオド終了時には、58−49で9点のリードまでひっくり返し、そのまま試合を押し切った。
やはり、王者は強かった。しかし、敗れた東山も十分に存在感を示した。堅守速攻を基本とするチームが多い日本の高校バスケット界において、徹底してセットオフェンスを繰り返す、いわば遅攻スタイル。この日は、第1ピリオドこそ西部秀馬(1年)を走らせる速攻を繰り出したが、第2ピリオドからは24秒をたっぷりと使って攻めた。スクリーンを使ってマークを外し、パスを回して相手の守備をかわすと、才気あふれる司令塔の米須玲音(2年)、主将の脇阪凪人(3年)が3ポイントを連発。守備では、長身留学生のムトンボ ジャン ピエール(2年)がリング下をしっかりと守り、河村らのレイアップを次々とブロックし、リバウンドも制圧。福岡第一の河村は「意識せずにやろうと思っていたけど、1本ブロックされたときに想像以上に高さがあって、どうやっていこうかと思って、シュートに意識が向き過ぎて視野が狭くなった」とリズムを狂わされたことを認めた。
前半を終えて東山が10点をリード。王者、危うしの雰囲気もわずかに漂った。しかし、福岡第一は第2ピリオド終盤に、高い位置からの守備を仕掛けた。河村は「ボールを奪うというより、走り合いに持ち込む狙いだった」と明かした。それでも東山はムトンボが高く上げた手にパスを出してボールをキープしながらパスを回して遅攻を繰り出したが、相手コートまで進むのに時間がかかるようになったことで、攻撃のリズムが狂った。東山の大澤徹也コーチは「相手コートに入ったときに、時間が足りなくなった。ドライブで切っていきたいところも、相手の守備の圧力がすごかった。冷静さを失うような守備で、相手を褒めるべき」と悔しがった。司令塔の米須の言葉も、ペースの移ろいをよく表していた。
「パスミスをせず(相手に速攻をさせず)24秒を使い切ることは問題なかった。でも、何本かシュートを打てずに終わることが続き、シュートで終わらないといけないと思い過ぎて、ダブルチームに来られてパスを捌こうとしてカットされて、速攻を出されてしまった。気持ち的にも相手が上回っていた」(米須)
東山の攻撃でミスが出始めると、福岡第一はそれを見逃さずにマンツーマンのタイトな守備から、判断が遅れて足の止まった相手のボールや、苦し紛れのパスを奪って試合のペースをひっくり返した。
東山は、どうすれば、もっと対抗できたか。より徹底的に遅攻の応酬に持ち込むか。それならば、苦しい場面での得点力は、もっと高めなければならない。それとも第1ピリオドのように速攻も織り交ぜながら相手の混乱を誘うか。それならば、相手の速攻を恐れない勇気が必要だ。福岡第一は、勝負所で覚悟を持ってキーマンが仕事をした。インサイドを制圧されてリードを奪われた時間帯に河村が3ポイントを決め、一度は完ぺきにブロックをされた小川がドライブからバスケットカウントを奪った。東山は、最後に強気の攻撃を見せられなかった。1対1でタイトに付いて来る相手の圧力に負け、スクリーンを使ってマークをかわしてホッとした瞬間にダブルチームで狙われた。
福岡第一の井手口孝コーチが「他校では一番強いんじゃないか」と警戒した力は、本物だった。河村もマッチアップした米須について「昨年も、今年のインターハイでも戦ったけど、本当に上手いプレーヤー。自分で点を取るより周りにパスを供給しながら行けるときに行くパス重視の選手ですけど、すごく守りにくかった。特にゲームコントロールが上手いと思った」と力を認めた。しかし、一度ひっくり返された後に対抗手段を失ったチームは、力の差を痛感させられていた。
東山は、昨年のウインターカップ、今夏のインターハイに続き、またも福岡第一に夢を阻まれる格好になった。2年生の司令塔である米須は「ガードとして失格。全然、ダメだった」と相手ペースになった試合をコントロールできなかった悔しさを滲ませた。「河村さんがいる間に勝ちたい」と高校ナンバーワンプレーヤーを目標に掲げ、追いかけて来たからこそ、福岡第一は乗り越えたい壁だった。しかし、序盤こそ得意のパスや磨いてきた外角シュートを決めたものの、苦しい場面でチームを救うドライブから得点を奪った河村と比較すれば、チームを勝利に導けなかった悔しさは倍増する。米須は「3ポイントもやられてはいけないところでやられた。河村さんは、僕よりも上の上を行っている。完敗」と話し、悔し涙を流した。東山の大澤コーチも「後半、苦しみながらも付いていけたのは成長。リードを守り続けるか、もう一度リードを奪い返すかというバスケットを、僕がしなければいけなかった」と唇をかんだ。
徹底したセットオフェンスにこだわるスタイルは、王者を苦しめるところまでは到達したが、並び、追い越すには至らなかった。高い壁に挑み続けたからこそ進化してきた過程がある。しかし、健闘で満足するつもりはない。敗れた先輩たちの思いも背負い、独特のスタイルにさらに磨きをかけ、今度こそ王者を乗り越える。
司令塔の米須と、留学生のムトンボは来季も戦力として残る。試合後に河村から「来年、頑張れよ」と声をかけられたという米須は、来季の高校バスケット界の主役候補でもある。
「今年は、全国大会で福岡第一に2回負けた。来年は、福岡第一を倒して優勝したい」
米須は、自らに課題を課すように言った。全国を制して、そのスタイルを天下に知らしめるために、東山の挑戦は続く。
文:平野貴也
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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