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バスケット ボール コラム 2019年8月23日

明成史上3校目の3連覇。八村塁が「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」と言えるまで【ウインターカップ2015】

ウインターカップコラム by 小永吉 陽子
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2014年に2年生だけでウインターカップを制覇した明成は、エース八村塁が3年生になった2015年は優勝候補の一番手にあげられていた。ポイントガードでシュート力がある納見悠仁、シューターの三上侑希と富樫洋介、強力なリバウンダーの足立翔、そして大黒柱の八村塁という不動のスターターを擁し、向かうところ敵なしのように見られたが、簡単に勝ち続けていたわけではない。

この代の明成の唯一の課題は、強力なスタメンに比べて控えの層が薄かったことだ。それだけに、ポイントガードの増子優騎が長引く負傷で、春先からウインターカップ直前までゲームに参戦できなかったことは大きな痛手だった。増子はリバウンドやルーズボールに強い選手で、チームに粘り強さをもたらしていた。増子の分は、「選手一人ひとりが、今までより仕事を一つ多く受け持つこと」(佐藤久夫コーチ)で補い、さらには182㎝の納見がポイントガードを務めることでサイズのバージョンアップを図った。

また、U17ワールドカップで得点王となった八村には、すでにNCAAから多くの勧誘が舞い込み、その力が認められて海外での育成キャンプや日本代表の合宿等でチームを抜けることも多く、高校生ながらに多忙を極めていた。そんな中で明成の佐藤久夫コーチは大きな目標を立てた。「高校生を超えるチームになること」がその命題だ。

「高校生は日々成長していくもの。高校2年で高校3年のチームに勝ったのだから、高校3年になれば優勝できるだろうという考えはまったくない。3年生では一段階上を目指し『高校生を超えるチーム』になろう」(佐藤コーチ)と臨んだのだ。『高校生を超える』ために挑戦したその中身とは、NCAAへと旅立つ八村が内外角をこなすオールラウンダーになる進化に加え、「どんな相手にも対応して勝負を制すること」だと佐藤コーチは語る。この年の高校界は明成同様に下級生時から中心だった選手が多く、個性豊かなチームが揃っていた。それだけに、八村と納見がポジションアップを図りながら、より一層の対応力をつけることがチャレンジだったのだ。

インターハイでの明成は準決勝で帝京長岡戦には苦戦したものの、決勝では桜丘に92-69で快勝し、2005年に創部して以来の初優勝を遂げる。そしてウインターカップで明成の前に立ちはだかったのが、199センチのサイズを持つセンター平岩玄や、強力なシューターの松脇圭志と杉本天昇、クレバーなゲームメイクをする山崎純を擁し、バランスのいい布陣で挑む土浦日大だった。実際のところ、秋の国体では土浦日大をメインとした茨城が、明成を主体とする宮城を決勝で破って優勝していたこともあり、明成にとってウインターカップはリベンジマッチでもあった。

土浦日大との決勝に臨む前に明成には2つのヤマがあった。一つ目は準々決勝の八王子学園八王子戦だ。前半を終えて19点リードしたが、後半に八王子がシューター多田武史を中心に持ち味の3ポイントが大爆発したことで一度は逆転を許す。だが、逆転されてからの明成はまったく慌てることなく、むしろ王者の貫禄を見せつけて原点である速攻を決めて対処した。

もう一つのヤマは準決勝の中部大第一戦で八村が足首を痛めたことだ。治療のために八村を欠いた時間が長かったが、このアクシデントを三上と富樫の両シューターが機能することで、110-70と一蹴した。逆転を食らってからの再逆転と八村不在時の対処。これらの2試合は、はからずも明成が掲げていた対応力が試される試合になったが、どんなことが起きても揺るがないチーム力は逆に強さを見せつけていた。

明成と土浦日大との決勝は、互いに3年間練習してきたチーム力をぶつけあい、高校バスケの魅力が詰まった素晴らしい熱戦になった。

先手を取ったのは土浦日大。明成よりも全体的な高さを持つ土浦日大は武器であるプレッシャーディフェンスをかけ続け、シューターの松脇がコンスタントに3ポイントを決めたことにより、3Q終了時点で3点のリードを奪う。明成は準決勝まで高確率(三上40.5%、富樫51.7%)だった3ポイントに当たりがこないため、八村のインサイドプレーとリバウンドで耐え抜き、活路を開いたのは3Q終盤。ディフェンスをゾーンからオールスイッチのマンツーマンに切り替えたことで、積極性が出て足が前に動き出したのだ。そこで変貌したのが司令塔の納見だった。3ポイントやステップを駆使したドライブで加点。足立が球際で体を張り、シューター三上が要所で3ポイントを沈め、この試合ではなかなか当たりがこなかった富樫も大事なところで一発を沈める。終盤は激しいプレッシャーをかけ続けていた土浦日大の足が止まり、抵抗もここまでだった。

最終スコアは78-73だが、4Q開始から土浦日大を5分半ノーゴールに抑え、逆に12得点奪取して畳み掛けたところが決勝のハイライトだった。そのシーンを土浦日大の佐藤豊コーチはこう振り返っている。

「両チームとも高校生らしく一生懸命に戦った。こんなに気持ちのいいゲームをしたのは何十年ぶりだろう。明成は後半に松脇と杉本に相当のプレッシャーをかけてきた。あのディフェンスを4Qで出せたことが何といっても王者。3Qまで競り合って、4Qに自分たちの力を出そうと練習をしてきたのか、佐藤久夫コーチに聞いてみたい」

対して明成の佐藤久夫コーチは「土浦日大に対しては我慢して辛抱して、春の兆しが来たら一気に攻めまくる」という、東北地方の仙台の高校ならではの独特の表現を用いたゲームプランを明かしている。これもまた、目指していた対応力ある展開で勝負所を制したのだ。2015年の決勝は近年のウインターカップ史の中でも、ディフェンスの強度、インサイドの攻防、シューターの競演、そして駆け引きの面でも見応えたっぷりの対決だといえるだろう。

八村塁という超高校級プレーヤーを擁していた2013~2015年の明成は、八村だけの力で優勝できたわけではない。将来を見据えた八村の育成のもとに個々の特色を生かしたチーム作りを進め、チーム全体のバージョンアップを図ったからこその王者だった。そうした一つ一つのチャレンジを制してきた充実感から八村は冬の3連覇を遂げて、「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」という名セリフを残している。その心からのメッセージは、NBA選手になった今もなお、八村塁がバスケットボールをするうえでのモットーであり、原点である。

文:小永吉 陽子

高校バスケ ウインターカップ2015 男子決勝 ハイライト

小永吉 陽子

「月刊バスケットボール」「HOOP」編集部を経て、フリーのバスケットボールライターとして活動。取材フィールドは国内をはじめ、FIBA国際大会など幅広く取材。時には編集や撮影も行う。

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