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【ウインターカップ2018 プレビューコラム / 尽誠学園】「考えてプレーする」「コミュニケーション」「責任感」がチームのカルチャー
バスケットボールレポート by 青木 崇今から7年前、メンフィス・グリズリーズで10月27日にNBAデビューを果たした渡邊雄太の存在を理由に、尽誠学園を注目するようになった。しかし、色摩拓也コーチの存在は、渡邊が卒業してアメリカに渡った後も、尽誠学園のゲームを見られるなら、いつでも見てみたいと思わせてくれたことが大きい。
なぜ、彼らの試合を見たいと思うのか? それは色摩コーチが構築してきたカルチャー。11月下旬、香川県善通寺にある尽誠学園を訪ね、練習の見学と色摩コーチとじっくり話す機会をもらった。その時にカルチャーの礎だと認識したのが、次にあげる3つのキーワードである。
「考えてプレーする」
「コミュニケーション」
「責任感」
色摩コーチは緻密なことに加え、物事を冷静に判断し、試合を俯瞰して見られることが強み。練習や試合中に選手たちを怒鳴るようなことは決してしないものの、彼らの意識の中で強烈なインパクトを与える言葉を投げかけることができる。尽誠学園の選手たちには、“やらされている感”がまったくない。色摩コーチは有望な中学生を勧誘していない一方で、「尽誠学園でバスケットボールをやりたい」という気持を持った選手たちが自然と集まってきたことが大きい。
様々な局面を想定して行われる5対5のシーンで、色摩コーチはある選手に向けて「やっているふりをしたらあかん!」と声を出す。選手は一生懸命に取り組んでいるのだが、“考えてプレーすることを”していなかったから言われたのだとすぐに感じた。
色摩コーチの特徴として、練習中あえて選手たちにミスさせるような状況を作り出す。うまくできるようになることによって起こりうる練習をなんとなくこなすという事態を回避し、なぜミスしたのかを考えさせるためだ。選手が理解できなければ、色摩コーチはヒントを与えながら考えさせ、答えを導き出せる方向へと導く。逆に、指示されたプレーがディフェンスによって機能しないとわかった直後、的確な判断をして得点に結びつけた選手がいれば、「いいプレー」だと褒める。
対戦相手ごとにゲームプランを変える色摩コーチの戦い方に対応できる選手が育つのは、こういったことの積み重ねによるところが大きい。
練習終了後、色摩コーチから「気になった子がいましたか?」と質問された。野村俊輔(3年生のガード)の名前を出すと、「やはりそうでしたか」という言葉が返ってくる。色摩コーチからの指示を先頭で聞きに行く姿勢だけでなく、練習中で気付いたことがあれば、チームメイトへ積極的に声をかけていた。「あの子は後がないところまで落ちていたんです」と語った色摩コーチだが、野村は“コミュニケーション”の重要性を体現している選手の筆頭と言っていい。それは、次の言葉からでもわかるだろう。
「3年生になった時から意識してきました。去年はウインター出られなかったので今年はというのはありました。プレーで引っ張るとかシュートが特別入るわけでもないですから、運動神経も良いわけではないので、自分から声を出して練習から引っ張っていこうと思ってやっています。全員がどんな状況であっても全力でやって、お互いに言い合えることがいいと思います。学年に関係なくいい意味で言い合えます」
色摩コーチの「喋っている子にチャンスを与える、下手でも声を出していたり、自分を表現していたりする子」は、ボジティブな感情を出せる選手を意味する。過去にいい勝負をできたチームにはこのような選手が必ずいたといい、今年のチームに当てはめるのであれば、野村ということになるのだろう。
今年の尽誠学園は、U16日本代表としてアジア選手権を経験した松尾海我、インターハイの2試合で平均16.5点を記録した黒山晃輝の2年生がプレー面でチームを牽引しなければならない。例年だと3年生により“責任感”を持たせるように仕向ける色摩コーチだが、今年はあえて2年生にした。その理由をこう語る。
「下級生だけに試合を任せて勝てるかと言えば、勝てない。上級生が今までやってきた粘りの部分とか、縁の下の部分がいると思う。上級生が引っ張るような感覚を今年は2年生に、上級生が支えるような感覚を持たせなければいけないかなと」
松尾に対しては、「日の丸の価値を下げてどうする」という言葉を巧みに使いながら、“責任感”の重要性を学ばせている。その過程でしんどさから逃避するプレーが減ってきたことは、いい意味で自覚してきた証。「U16カテゴリーに入れて、少しですけど見られる部分があると思うので、選ばれているという自覚を持って、それでも謙虚に大舞台でいいプレーを見せられたらいいなと思います」という言葉通りのパフォーマンスを松尾ができれば、尽誠学園の上位進出は十分ありえる。
もちろん、“責任感”を持たなければならないのは、試合に出ている選手だけでなく、尽誠学園バスケットボール部のメンバー全員だ。色摩コーチはメンタルの部分、数字に出ないところをしっかりできることを大事にしている。
「僕は勝つに値するチームとか、勝つに値しないチームという言い方をするんです。君たちの生活習慣だったり、練習に対する取り組みだったりを見たときに、勝つべきチームだと思うという言い方をしています。逆に今のお前らは勝ってはいけない、練習を舐めているしといった言い方もします」という指揮官の言葉は、尽誠学園の選手たちが持たなければならない“責任感”の象徴と言っていい。
色摩コーチが尽誠学園に構築したカルチャーは、バスケットボールのスキル向上だけでなく、一人の人間として少しずつ成長するプロセスという点でも大きな意味がある。渡邊雄太は、これまでの最高傑作と言っていいのかもしれない…。
青木 崇
NBA専門誌「HOOP」の編集者からフリーのバスケットボールライターとなる。NBAファイナル、NCAAファイナル4、世界選手権などビッグイベントの取材や執筆活動を行なっている。
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