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キャンプのブルペン
コロナ禍で、野球が発する様々な「音」の面白さに気がついたという人は多いのではないか。声を出して応援できなくなってしまった寂しさはあるものの、静かな時間が生まれたことで、野球そのものの音がよく聞こえるようになったからだ。
ボールがグラブに収まる音、バットの芯を食ったときの高く冴えた音など、聞こえるほど野球の見方も深まって、楽しくなることに気づかされる。
選手たちの「声」にも同じことが言える。投手がボールを投げる時の唸り声、ベンチやフィールドからチームメイトがかける声など、普段はおっとりして見える選手が、思った以上に力強い声を出していたり、時にワイルドだったりと、新鮮な驚きを覚えることも少なくない。
そんな音や声が、最もよく聞こえるのがキャンプだ。ブルペンでの投手は、試合ではないので唸り声こそあまり発しないが、状態を上げている途中のキャンプなら時に「うりゃ」「ハッ」「よいしょ!」といった軽快なかけ声をあげている。これに、捕手が「ナイスボール!」「シュート回転かかってる」「今の感じ」といった声で投手を鼓舞したり、助言したりしている声も聞こえてくるのだ。
ブルペンも様々な声や音が聞こえる
ちなみに、投手が速球を投げ込んでいる時などに、あえて「パーン!」とグラブで大きなキャッチング音を出すのも捕手のテクニック。いい音が響くことで、投手の気分が乗っていく効果もあるという。アメリカではあまり見られないので、日本の“女房役”ならではの気遣いだろう。
響き渡る捕球音と「ナイスボール」の声が大きくなるほど、注目が集まることも。また、監督や大物OBといった大先輩がブルペンにやって来ると、若い投手はアピールしようといい球を投げたり、逆に力んで投げミスをしたり、と静かな緊張感が漂うのも、キャンプならではの光景だ。
シートノックや投内連携といった守備練習では、「さすがプロ」と実況解説も嘆息するほど、流れるようなプレーが見られる。そうした時、ボールがグラブに収まる音は、リズムよく奏でられた音楽のようにも聞こえる。
投内連携の守備練習
その一方で、実戦に備えてミスしやすいポイントや状況での練習もするため、周囲でチームメイトやコーチが叱咤激励の声を飛ばす。ミスをすると、迫力のある激が飛ぶこともあるが、選手たちは「もう1回お願いします!」「さあ来い!」とドM根性の返事をする。そして、成功すればすぐに「ナイスプレー!」といい声が飛び交う。ちょっとしたスポ根劇場だ。
キャンプ中継を見ていると、一見して地味だったり、そのタフさがわかりにくい練習もあるが、音や声をよく聞くほどに、選手たちのたぎる情熱や頑張りが伝わってくるはずだ。ぜひとも、小さな音や声にも耳を澄ましてみてほしい。
文:松山ようこ
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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