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宗佑磨選手
バファローズのホットコーナーを完全に支配する男が現れた。毎年、候補者に数人の名前が挙がってはいたが、その熱いポジションを奪い取るに値する実力を有する選手は、去年まで、いや今季の開幕直前まで、現れることはなかった。それが・・・である。オープン戦のラスト2試合だけで、存在感を示した男が今や余人を以って代え難い存在になり得ている。宗佑磨である。
彼のしなやかさを持ち合わせた俊敏性と持ち前の強肩。さらには、一見派手に見えるが、その実、極めて丁寧で確実な守備力は三塁手に求められる資質のほぼ100%を備えていると言っていいだろう。メジャー級とさえ映るダイナミックなプレーは、観る者を魅了するに十分なもの。では、そんなサードベースマン、宗佑磨を自身の守備力をどう見ているのか。
「プロではショートでスタートした自分でしたが、1回クビになってしまっていて(苦笑)。そのあと外野に回って・・・。だから正直サードの守備には自信がなかった。ただ開き直れたのでしょうね。ショートの時は、うまくやろうとして形にこだわりすぎていた。外野をやって、少し自分の中で自由な発想ができるようになってきました。そこで、今度はもっと違った感覚で内野に再チャレンジできたのではないでしょうか」
2019年、中嶋聡二軍監督の勧めもあって、ファームで内野手としての出番を増やしていった宗。そんな彼の左手のグラブは、メジャーリーガーのマニー・マチャド(パドレス)モデルだという。「最初は特にこだわりはなく、外野用のグラブで守ったりもしていましたが(笑)。彼のプレースタイルに憧れて、今はマチャドモデルのグラブなんです」と、目を輝かせる。ゴールドグラバー、プラチナグラバーのプレースタイルに倣うかのような彼の動き。形に囚われない、自由で大胆なメジャーリーガーのプレーに由来しているというのだから興味深い。
ところで、この春のキャンプに宗佑磨は参加していない。下半身のコンディションが十分整わない中、彼は舞洲で“居残り組”としての始動を余儀なくされた。「チームプレーも全く出来なかったわけですから、今年はもう一軍はないかなって思うこともありましたね。ただ、自分にできることだけはしっかりやっておこうと・・・」そんな逆境ともいうべき中で、彼にチャンスが巡ってきたのは、オープン戦の最終盤。わずかなチャンスを活かして、宗は一軍枠に滑り込んだのだ。シーズン序盤は外野も守りながら、尚且つファーストミットまで手にする便利屋的な役割を任されたが、5月に入るとほぼサードに定着。三塁手・宗佑磨のダイナミックかつ確実な守備力がチームの難局を救ったことは一再ではない。そう、この頃から多くの人が気づき、そしてささやき始めたのだ。「宗の守備力ならゴールデングラブ賞が獲れるのではないか」と。
ただ、宗佑磨の強みは何も守備力だけではない。むしろ、彼のプレーヤーとしてのキャラクターは、極めてオフェンシブだということである。2番という打順に身を置いて、出塁率の高いリードオフマンと、勝負強いクリーンアップを繋ぐ重要な役割を粛々とこなしてる。「僕の前に周平さん、後ろに正尚さん、ラオウさんですから、その間で何ができるかです。攻撃的な2番打者とも呼ばれますが、僕はバントが得意じゃないので・・・(苦笑)。とにかく打線の流れを切らないという部分を意識していますね」だからと言って、彼は決して脇役ではない。なぜなら、サヨナラ打を含む決勝タイムリーなど、重要な局面での勝負強さで、時にチームの主役に躍り出ることだって少なくないからだ。
今季、宗佑磨は7年目のシーズンを快走している。これまでの決して順風満帆とは言えなかったプロ生活の中で、彼はひとつの結論にたどり着く。「年齢的にはまだまだ若いのでしょうが、チームの中の立ち位置を考えれば、もはや“若手”ではありません。今後、入団してくる選手の多くは年下になるだろうし、実際、僕と同年齢やそれよりも若い選手がこの世界を去って行くのを見てきました。プロで生きてゆくためには、自分がどうあるべきかということを真剣に考えるようになりました」そう、この野球界の中で生き残るための覚悟を決めたのだ。
かつては自由奔放な面ばかりが目立っていた若者が、今や自らの“定位置”を確保し、チームの顔のひとつになりつつあるのは頼もしい限り。短く刈り上げた髪からも、彼の覚悟が伝わってくる。「これまでにない充実感の中でシーズンを過ごせているのは確かです。ここからが本当の勝負だということも理解しています。ただ、今まで自分が練習などでやってきた事以上の事はできないという割り切りもありますね。だからこそ、納得がいくまでやらないといけないのだと思います」
2014年のドラフト2位。与えられた背番号は「6」。彼に寄せられた期待の大きさがうかがえる。だが、これまでは故障や不調など意のままにならない時間の中に身を置いてきた。逆境からはい上がってきた強さは伊達じゃない。2番サード、宗佑磨。
覚悟を決め、ただ前を向く姿に、もう迷いはない。
取材・文:大前一樹
大前 一樹
1961年兵庫県生まれ。関西学院大学文学部卒業。 放送局アナウンサーを経て独立。今は、フリーアナウンサー、ライターとして活動中。 有限会社オールコレクト代表取締役、アナウンサー講座「関西メディアアカデミー代表」。 「J SPORTS STADIUM2022」オリックス・バファローズ主催試合の実況を担当。
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