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野球 コラム 2021年3月16日

【中日好き】鈴木博志、将来像は描かない

野球好きコラム by 森 貴俊
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登板後、取材に応じる鈴木博志

去年9月、鈴木博志はフルモデルチェンジをした。

2軍でくすぶっていた鈴木は夏のある日、シート打撃投手として1軍練習に呼ばれた。投げ終わった後、与田監督からある提案を受けた。「腕を下げてみたらどうだ?」。

投手にとってフォームチェンジは当たり前だが、腕の角度を下げるのは大幅な変更だ。鈴木博志のピッチングフォームは上から投げ下ろすが、フィールディングや練習中はサイドから投げる事が多い。その方がピッチングも自然だと指揮官は感じた。

鈴木は「社会人くらいからフィールディングは、気づけば横から投げる事が多くて。投球は上から意識して投げおろしていました。」と話す。

その大胆な変更に鈴木博志自身、迷いはなかったのだろうか。

「何かを変えないとと思っていたんです。今の自分に疑問を感じていたというか、それがフォームかどうかは分かりませんが、ストレートも143キロとかになってて。ちょうどそのタイミングで提案してもらったので、やってみようと思いました」。

早速、翌日からフォーム改造に着手した。大半の心配は、持ち味の球威が落ちる事だった。これが予想以上にしっくり来た。140キロ台のストレートは翌日152キロを計測した。

鈴木は「なんでも最初ってうまくいくんですが、その後ですよね。問題が次から次へと、って感じになって。気づけば腕がどんどん上がっていって、身体が慣れている形に戻ろうとしてしまうんです」。

「リリースポイントもバラバラ。引っかけて、抜けて、を繰り返していました。でも、不思議と腕の位置を戻そうとは思いませんでしたね」と話す。

根気よく新フォームに取り組み、およそ3週間でサイド気味に投げる形が板についてきた。

「何度も何度も、繰り返しシャドーして、同じ角度で違和感なく腕を振るように身体に覚えさせました。映像を見てシャドーして、地味な作業をひたすら繰り返しました」。

「結果、3週間くらいで安定してきたんです。今では逆に上から投げろって言われてもできないですね。それくらいしっくり来ています」。

当然、腕の角度が変われば変化球の曲がり幅も変わる。鈴木博志の武器、カットボールも変わりつつある。

「以前は少し曲がるだけでしたが、スライド幅は大きくなりましたね。実戦でのバッターの反応も、まずまずいい手応えです。真っすぐにこだわるのはもちろん大事ですが、やっぱり僕にとってカットボールは武器だなと再認識できました」。


1軍キャンプを完走し、鈴木は練習試合からオープン戦、ここまで7試合無失点。防御率0.00だ(3月15日現在)。

成長のポイントを与田監督が挙げていた。「1球、ボールを引っかけると博志の悪い癖で、また引っかけるかなと思いましたが、次のボールは修正した。ゲームの中で、ピッチングを修正していく力がついてきたかな」。

それに関して鈴木は「1球引っかけても、次のボールでストライクを取る自信が今はあるんです。仮に3ボールになっても、以前ほどどうしよう…とはならないですね」。

3月26日の開幕時点で、守護神ライデル・マルティネスは間に合わない。ライデルが合流するまで、誰かがここを務める必要がある。鈴木博志は自らの心境をこう説明した。

「誰かがやらなきゃいけない。それが結果、僕ならばもちろんやります。抑えをやりたい気持ちはゼロといえば嘘になる。心の奥底にはやりたい気持ちはありますよ。でもここ数年、その気持ちを閉じ込めてやってきました」。

「自分の将来像を描いて、それに向かっていく事が良しとされているじゃないですか。でも僕自身、過去の自分を振り返った時に、理想を描いた時は失敗している事が多いんです。だからあえて先々の理想は描かない。目の前のやるべき事に集中して一日一日をクリアしていきます」。

「そうやってこの1年もやってきたし、急にここにきて考え方は変えません。だから抑えとか、勝ちパターンってのは考えません。今はっきり言えるのは、毎試合の登板をクリアしていって開幕で1軍にいる。それが目標です」

地味に聞こえるが現実を見ている。何より苦しんだこの2年、自分自身と向き合ってきた事がうかがえる。今、鈴木博志が手に入れるべきは守護神の座でなく新しい自分だ。守護神の座はその先に必ず待っている。

文:森貴俊(東海ラジオ)

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森 貴俊

1976年愛知県出身。東海ラジオ放送スポーツアナウンサー。ドラゴンズ戦中心のガッツナイターをはじめJリーグ、マラソン等スポーツ実況を担当。原点回帰を胸に、再び強き竜の到来を熱望する43歳。日々体力の衰えを感じるがドラゴンズへの喜怒哀楽は衰え知らず。今年もマイクの前で本気で泣いて怒って笑います!

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