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ついにタッキーが出てきた! もちろん、アイドルのタッキーではない。それにタッキーと言えば、現在はアイドル事務所の副社長だろうけれど…。
仙台での新人選手お披露目イベントの時、「タッキーと呼んでください」と自己紹介すると、集まったギャラリーは「エーーーッ!」。アイドルの自己紹介ぐらい“初対面”でインパクトを残した。それは、記念すべきプロ初舞台でもそうだった。
プロ初登板で好投
9月19日、そのタッキーこと、瀧中瞭太(たきなか りょうた)がプロ初登板を果たした。5.1回を投げて、5安打1三振1四球の1失点。主要な数字で並べても伝わりにくいが、首位ソフトバンクを相手にワクワクさせる好投でチーム勝利の立役者になってみせた。
なにせ相手は5連敗中のソフトバンクだ。しかも敵地。なのに、いきなり立ち上がりの初回と、柳田やデスパイネなど怪物スラッガーが居並ぶ2回を、ともに3者凡退劇でデビュー。
3回以降もランナーこそ背負うも、丁寧かつ独特のリズムで凌いだ。力感なく140キロ後半の速球を投げたと思えば、多彩な変化球で次々と打者を打ち取っていく様は、堂々たる姿だった。
Honda鈴鹿を経て入団した25歳のオールドルーキー。社会人を3年も経験しているからか性格なのか、キャンプインから落ち着いていて、物怖じしない人に見えた。
キャンプ3日目だったか、そう伝えると、こんな言葉が返ってきた。
「そんな風に見えますか? ぼく、めちゃくちゃ物怖じしますよ。いろいろ気にするタイプですし、堂々としているように見えて、けっこう疲れてます(笑)」
「緊張もします。ブルペンでも力み倒すし、それで(投球)バランスも崩れる。でも、“なぜそうなるか”を考えて、やるべきことを実行してきました」
そんなことを思い出しながらTV中継を見ていると、初回が終わってベンチに戻る時、堂々と見えたタッキーが大きく「ふぅ~~~」っと、長い長い安堵の息を吐いていた。
緊張とパフォーマンスの相関図「逆U字曲線」
“なぜそうなるか”は、大学時代に多くを学んだという。「相関図がありますよね」と言うので、身を乗り出して尋ねると、「間違ってるかもしれないけれどいいですか」と断ってから、タッキーは雄弁にメンタルとその整え方を語り始めた。
メンタルを整えて
相関図とは、スポーツ心理学でよく知られる「逆U字曲線」のこと。つまり緊張が高まると、パフォーマンスも右肩上がりに良くなるものの、緊張が高まりすぎるとパフォーマンスは落ちてくるため、逆U字の曲線を描く。
だから、適度に緊張がかかる状態が最も良いパフォーマンスを出せるという理論だ。タッキーは付け加える。
「面接で頭が真っ白になるのも、緊張しすぎた時に起こることですね。稀にマイケル・ジョーダンみたいに右肩上がりだけっていう天才もいますけど。だから彼の場合、すごいブザービーターが多い」。
「でも、ぼくは天才じゃないので、緊張しすぎたらダメ。試合ではどうしたって過度の緊張がかかるから、差し引いて60~80%とかの適度な緊張になれるよう、練習で内発的にプレッシャーをかけて120%を目指して、取り組んでいるんです」。
だから、キャンプのブルペンでは力みまくったり、そんな自分にイラッとしていたりしたのだという。意図的にテンパる自分に持っていくことは、簡単にできることではない。
「でも、普段から緊張感を最大限に高めていかないと、試合ではどんなプレッシャーやストレスがかかって来るか想像もつかない」。
「ぼく、めちゃくちゃ球が速いわけでもなければ、年齢も若くない。話題性もない。だから自分で自分を変えて、どんなニーズに合わせられるようにしないと。それでダメならダメと覚悟しています」。
いろいろ学び、考え、実行に移してきたからこそ、プロにたどり着いた。根拠をもった、根を張ったような逞しさが覗く。龍谷大学時代の指導者は、故・野村克也氏の教え子の1人でもある元ヤクルトの山本樹さん。ノムさん譲りの金言も胸に刻む。
「『欲に入って、欲から離れろ』も大切な教えです。欲がないとうまくならないけど、欲から離れないと結果は出ないですから」。
プロ初先発で「ニーズに合わせる」どころか、希望を抱かせるパフォーマンスでチームに勝利を呼び込んだタッキー。
球がめちゃくちゃ速くなくとも、若くなくとも、結果が出るほどに話題性は高まっていく。次の登板もクールな投げっぷりで、ワクワクさせてくれることに期待したい。
文/写真:松山ようこ
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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