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昨年、開幕での楽天を取材しようと仙台に到着した日のことだ。駅の寿司屋でランチを取っていると、スマホが震えた。
見ると、「お元気ですか? 福田(将儀)です」とのメッセージ。驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになった。連絡先は知らないはず…と思いつつ、当たり障りなく返したが、本人とは信じていなかった。
1年後の春、再びメッセージが届いた。今度は「今の仕事、すごく頑張ってるんです」という。これは話を聞かねば…と会うことにした。ちゃんと、本人だった。
2014年のドラフト3位で楽天に入団した福田さんは、2015年に大久保博元監督のもと、ルーキー野手ではただ一人開幕スタメンにも選出。俊足巧打をウリに奮闘したが、翌年からは出場機会も減り、2017年限りで戦力外になった。
だが、その秋のトライアウトでソニー生命保険に見初められ、同社のいくつもの試験と面接にパスして、正社員に。
お金や保障に関する家庭の相談役である「ライフプランナー」となり、今も次々と資格を取得しながら営業に奔走する。
「ルーキー」だった2018年は、成績優秀者に贈られる社内の新人賞を獲得。「野球で(新人賞)獲れなかったので」と再会するなり嬉しそうに語った。
◆全国を営業で駆け回る。「今の仕事に就いてよかったと言われたい」
「楽天の皆さんのところにもたまに挨拶に行きます。今、こうして頑張ってますって伝えたくて」。
社内新人賞を獲得したが、野球選手への営業は一切していないという。それは「意地みたいなもの」。
もちろん顧客の中には福田さんが元プロ野球選手と知る人は多いが、「元プロ野球選手の福田としての付き合いでは困ります」とはっきり言うほど、ライフプランナーとしての自身にプライドを持つ。
写真:現役時代の福田さん
「野球をやめても、ビジネスの世界でやっていけることを示したかった。アスリートのセカンドキャリアの支援活動もしているので、自分が一つのモデルになれればなと」。
「これまで選手として、たくさんの人に支えられて、応援されてきたから、今は逆の立場になれて、いろんな人たちを支えて応援できるのが嬉しいんです」。
「ぼく、選手時代は、わがままも言ったし、迷惑もかけてきた。ビジネスマンとしてお金を稼ぐって本当に大変ですけど、いろんな人のため、恩返ししたいっていうのは大きな原動力です」。
入社してから、会社にファンレターも届いた。「涙が出るほど嬉しかったです。現役時代はできなかった返事も書いて、今も仕事で行き詰った時に読み返して、励みにしています」。
勉強することも多く、人と関わる仕事なので試行錯誤の連続だという。「資格の勉強は、野球でサインを覚えたように、身体を触って覚えると、試験で思い出せるんですよ(笑)」。
「お客さんへのライフプラン提示では、うまく伝わらないこともあるので、終業後などに、社内の先輩に頼んで練習台になってもらったり。居残り自主練ですね。休日も仕事のことで頭いっぱいで動いてます」。
思わず、休める時に休んでくださいと返すと、「最近はちゃんと休むことも考えるようになりました」と頷いた。
入社1年目はほとんど休むことなく、全国の顧客のもとに駆けつける日々だったそうだ。今も車の走行距離は、毎月5000キロを超えるという。睡眠不足と運動不足で、体重もかなり増えた。一回りふっくらした福田さんは、はにかみながら言う。
「今の仕事に就いてよかったなって言われたいんです。これまで野球しかやってこなかったから、最近は好きなゴルフをしたり、あとサーフィンにも挑戦したいなって思っています」。
写真:セカンドキャリアで新人賞を獲得
◆現役最後の年は死にものぐるい。疲労骨折しながらトライアウトへ
それにしても、プロ野球への未練はなかったのか。聞くと、即答だった。
「まったくないです。実はぼく、野球が嫌いだったんです。父が野球の指導をしていたので、他のスポーツもできなかった。厳しい父で、ぼくはガミガミ言われないよう、野球に“逃げた”んです」。
「だったら頑張ってプロになればいいんだろ、みたいな。そんな動機でプロ入りしても、成功するわけがなかった」。
「父はなかなか受け入れられなくて、揉めたこともありましたが、今こうしてライフプランナーとして社内新人賞を獲ることができて、『よかったな』って言ってくれた。本当に嬉しいです」。
ちなみに“逃げた”といっても、現役時代も努力を怠ったわけではない。プロ最後となった2017年の久米島キャンプをまざまざと思い出す。
「今年が本当に勝負だから、後悔しないよう休みゼロでトレーニングを積んできました。クリスマスや正月もすべて野球漬けでしたから」と充実した表情で語っていたのだ。改めて尋ねた。
「もちろん嫌いでも、頑張ると言ったら頑張りますよ。でも、ぶっちゃけ入団時から肘を痛めていて、最終年の猛練習でついには疲労骨折してしまった。そんなのも覚悟してたんです。これでケガするなら、そこまでの選手だって。結果的にそうなっちゃいましたけどね」。
「わはは」と大きな声で笑うと、今もちゃんと伸ばせない肘を見せてくれた。手術は成功したが、積年の酷使で元通りにはならない。
実は、秋に受けたトライアウトは手術前(時期的にも間に合わなかった)だった。だから、痛み止めの注射を打って、鎮痛剤を飲んで、骨折したまま挑んだという。
嫌々で続けた野球のキャリアだが、やめた今だからこそ「野球は楽しい」と笑う。ときには草野球に興じたり、仲間や顧客と試合を見に行ったり。
「ファンの人の気持ちも、今のほうがわかると思います」福田さんは、とても晴れやかな表情で語った。
文:松山ようこ
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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