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野球 コラム 2019年10月11日

ザ・ギース尾関高文の対談リレー~梵英心編~

野球好きコラム by ザ・ギース 尾関高文
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「梵英心」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるだろうか。

強いリストから放たれるパンチ力抜群のホームランだろうか。それとも膝を故障しながらも常に全力でプレイしていた姿だろうか。CSの甲子園で、右手を大きく空につきあげたあのシーンを思い出す人もいるかもしれない。ぼくはカープを退団する年に由宇練習場で最後までサインを書き続けていた梵さんが忘れられなかったりする。

カープで寡黙に野球に打ち込み、Bクラスが続くカープを牽引しファンに喜びをくれた梵さん。きちんとしたお別れも言えないまま広島を離れ、社会人野球の世界に戻って行った梵さん。
そんな梵英心の今を、そしてこれまでの知られざる思いを、今回職場である栃木県の小山市で聞かせてもらえることになった。

小山駅から車で10分ほどの白鴎大学野球部のグラウンド。

現在この野球場は社会人野球チームのエイジェックも使用している。まだ夏の暑さが残るグラウンドで、現役時代とは違う青い背番号6が若手のバッティング練習を熱心に見ていた。

今年、都市対抗野球の本戦まで一歩というところだったエイジェック。打撃コーチである梵さんの指導にも力が入る。実はこのチーム、カープ中﨑翔太選手のお兄さんである中崎雄太さんも在籍している。現在エイジェックの投手コーチをしている中﨑雄太さん。埼玉西武ライオンズでは「投げ終わった勢いで中継画面から消えていく」でおなじみの変速左腕だったのは記憶に新しい。今年はシーズン中にカープで苦しむ弟に体調を気遣うメールもしていたという雄太さん。昨年結婚式を弟さんと1ヶ月違いで挙げて家族がてんてこまいだったと気さくに話してくれた。

さらにグラウンドには元巨人の川相昌弘さんの息子さんでもある川相拓也さんの姿も。とにかく若い選手が多く和気藹々と練習をしていた印象であった。そして選手の皆さんに梵さんのことを聞くと、「トレーニングや練習方法など、あらゆる面で勉強になります」と
口を揃えて言う。梵英心の存在、偉大なり。

その後、白鴎大学での練習を終え、梵さんの所属するエイジェック社会人野球部がある小山ベースボールビレッジへと向かった。

ー梵さんがエイジェックに来てもうすぐ1年半になりますね。

梵「そうですね。ここに来てからの一年は信じられないくらい早かったです。これまで料理はしてこなかったのですが、今は豚肉を多めに買って冷凍保存しながら調理するほどになりましたね。」


ーそれはすごいですね(笑)そもそもエイジェックに入るにはどういう経緯があったんですか?カープをやめてから一旦アメリカに行っていましたよね?

梵「国内のプロでは正直難しいかもしれないと思って、2月半ばからマイアミにトライアウトを受けに行ったんですね。向こうには沢山チームがあって、日々トレーニングをしながらいつ行われるかわからないトライアウトを待つという状態でした。」


ー向こうのトライアウトはレベルが高いのですか?

梵「技術で負けているとは全く思わなかったんですが、やはり年齢で弾かれることも多くて。そうこうしているうちに2ヶ月たってしまって、いつまでもこちらにいられないなと。最後の墓場を探すしかないなと、そう思った時にランカスター(アメリカ・ペンシルベニア州)でトライアウトがある事を聞いたんです。なんとか最後にそこを受けたいと思ってツテを探していたら元ロッテの渡辺俊介さんがいたことを思い出したんですね。俊介さんにどう連絡を取ろうかと悩んでいたら梅津(智弘)が知っているなと。それでなんとか紹介してもらって受けることができたんです。」


ーまさか元カープの梅津さんがここで暗躍するとは(笑)

梵「マイアミが気温35度くらいだったんですけど、ランカスターに行ったらまさかの0度(笑)気温差35度の中で最後のトライアウトが終わりました。たった2ヶ月でしたけど10年に感じるくらい人生で一番濃い時間でしたね。その間にエイジェックからも連絡があって今に至るという感じです。」


ーエイジェックでコーチという立場になって自分の中で意識している部分はありますか?

梵「僕「今の若い人は」とか「おれの時代は」という言葉が大嫌いなんですよ。今まで色んなコーチを見てきて頭ごなしに叱り付けたり技術を押し付ける人には疑問を感じていたので、選手とは出来る限りコミュニケーションをとってたくさんの選択肢を与えてあげるようにしています。」


ー元プロの梵さんが来たということで選手たちも意識が変わったのではないですか?

梵「それはあると思います。プロで学んだ膨大な経験を直接伝えることができますしね。選手達もカープの選手についてよく聞いてきますよ。鈴木誠也選手ってやっぱりすごいんですか?とか西川選手はなんであんな打ち方なのに打てるんですかとか。西川の打ち方と菊池の守備はマネするな、あれは天才しかできないんだとは言っていますが(笑)。」


ー本日練習を見させて頂きましたが梵さんの雰囲気も心なしか柔らかくなった気がします。

梵「そうですね。昔よりだいぶ丸くなったかもしれません(笑)。広島にいた頃は野球人「梵英心」としてずっと気を張らなくてはいけなかったというのもありますし。とにかく結果を出すこと以外の余裕はなかったですから。」


ーこっちに来て初めてフラッと「やよい軒」に行けたと言っていましたもんね(笑)

梵 広島では気軽にそんな店にはいけなかったので。でもこないだ丸亀製麺でお皿を下げる時洗い場から「梵さん、僕カープファンです!」と急に声をかけられて驚きましたけど(笑)。こっちの平和な空気に慣れ過ぎないように、朝起きたら「梵英心」のスイッチをバチッと入れてから練習には行くようにしています。」


ー梵さんがエイジェックにこられて今年は都市対抗野球出場直前まで躍進しました。

梵「社会人野球はプロと違って一発勝負なんですよね。強いところが勝つのではなく、勝ったところが強いんです。だから実力差があったとしても本人達の気持ちや作戦で格上の相手にも勝つことができる。あとは強くなりたい、悔しいという気持ちを継続できるかどうか。継続できればこのチームは強くなる確信はありますよ。」


ー誰でもそうですがその気持ちを持ち続けることが難しいんですよね・・・。

梵「それをできる選手が1人出てくればチームに空気が伝染していくんですよね。そうすればチームが見違えるように強くなっていく。実はそれが今のカープなんですけどね。」


ーそうだったのですか!

梵「僕がいた時は黒田さんや新井さんが体現者となって作ってくれた空気がチームに浸透していくのを感じましたよね。あの2人は練習も一生懸命やる。やればできるんだということを体験として伝えてくれるんです。そしてその空気が今の世代にも繋がっていますよね。」


ーなるほどですね。梵さんが外からみた今のカープはどうですか?

梵「カープを離れて改めて気づくことが多いです。今の選手は本当に生き生きしている。選手の自主性に委ねたコーチングも今の時代にあっているように感じます。若い選手が楽しんでプレイしていますよね。」


ー新しい選手が台頭する一方で永川さん、赤松さんが引退となってしまいました。

梵「一緒にやっていた選手がどんどんいなくなっているのは寂しいですね。そういう時代なのかなって家で一人ご飯食べながらふと思いますよ。ミスチルのTomorrow never knows聴きながら悲しいなあ・・・って(笑)。」


ーBGMも相まってめちゃくちゃ悲しい気持ちになりますね(笑)。

梵「ただ先日赤松にお別れを言いに行ったんですけど、その時ファームの羽月(隆太郎)くんが急にこっちにきて「あの・・・サインもらっていいですか?」って。思わず「君カープの選手だよね?」って言っちゃいました。「革手袋に書いてください!兄貴が好きなんで!」って言うから「兄貴かい!」とも思いましたけどサイン書いて(笑)。若い子もおもしろいなあ図太い選手がいるんだなって楽しみにもなりました。」


ー新しい世代の台頭を感じますね(笑)永川さんにはメッセージなど送ったんですか?

梵「永川にはお花を送っただけですね。 小さいころから一緒ですし、いまさら改まるのも恥ずかしいなと。いつか会うこともあるでしょうからその時「おつかれ」って伝えたいですね。」


ー永川さんにも梵さんにもカープが大変な時を支えてもらいました。

梵「支えていたつもりはないですけど、あの時代を経験できたことは僕の人生にとって非常に貴重でした。耐えていればいつか花開くことも学べましたし。」


ー今のエイジェックと重なる部分もありますね。

梵「それは本当にそうですね。カープの強くなっていく段階をみていたので、ここで花開くのが楽しみです。」


ー今後の目標としては?

梵「まずはエイジェックを都市対抗野球に導くこと。生のお客さんに応援してもらう空気を味合わせてあげることですね。“エイジェック”という存在がもっと世間に知られるよう、僕自身どんなことでもするつもりです。」


ー解説というのもその一環ですよね。先日の梵さんのJ SPORTSの解説(9/15広島 vs.ヤクルト戦)は好評でしたし!

梵「そうなんですか?(笑)まあ実はもともと喋ることが好きなので機会が有ればぜひやってみたいですね。菊池や會澤も野球用具を送ってくれたりして応援してくれているので、頑張らないと思います。まあしっかり着払いですけど(笑)」


終始にこやかにインタビューに答えてくれた 梵さんの顔は非常に充実しているように見えた。最後に梵さんはこう言っていた。

「僕は航海の途中なんです」と。
長い野球人生の旅の半ばであり、常に後悔(航海)の中で日々を過ごしているのだと。
「だからね、僕は海賊王になりたいんです。“社会人野球”というてっぺんをとってね。それでエイジェックからプロ野球選手が誕生したら最高じゃないですか。」

そうはにかむ顔は僕が広島で感動をもらっていたあの梵英心そのものだった。

photo by J SPORTS
 ザ・ギース 尾関高文

ザ・ギース 尾関高文

広島県東広島市西条町出身のカープファン。アメトーーク「広島カープ芸人」にて北別府学氏のブログを炎上させた経験を持つ。好きな歴代カーププレイヤーはチェコ。身長は永川光浩選手と同じ189cm。カープが負けると自分の自転車を盗まれた程のダメージを毎試合受ける。
広島アスリートにてコラム連載中!Twitter → @geeseojeck

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