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野球 コラム 2019年8月15日

【中日好き】藤嶋健人、今を生きる

野球好きコラム by 森 貴俊
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人間は緊張し、交感神経が働くと血管が収縮する。登板前ブルペンで胸の高鳴りを感じる度に、藤嶋は椅子に腰を下ろしリラックスに努める。少しだけ冷たくなりかけている手を気にしながら目を閉じ、深呼吸をする。

今、藤嶋が1軍マウンドで投げているのは奇跡に近い。右手血行障害。現役続行さえ危ぶまれた。

2度の手術をした。1度目はカテーテル手術。血管からバルーンを入れて障害が起きている血管を膨らませ血流を作る。しかし、思ったような結果は出なかった。

藤嶋は「失敗ですね。変わらなかった。まあ、ショックでしたね。どうしたらいいんだろうって。もう、野球終わりかなって思ったりもしましたね」。

2度目の手術は筋膜切開。障害が起きている血管に直接施すものでなく、その血管の周りの血流を促すアプローチだった。

藤嶋の右腕は蓄積疲労により、筋膜が張り裂けそうなくらい引っ張られていた。それも血流が悪くなっている要因だった。

写真にもあるように右腕を4か所切開し張り裂けそうな筋膜に切り込みを入れた。成功だった。

藤嶋は「ドクターが言うには皮が裂ける直前のソーセージのような状態だったと。切り込みをいれて筋肉がほぐれる状態を作り血流を促すオペでした」と説明した。

「障害が起きている血管自体は変わってないんです。その周りの血流を促すことでカバーしている状態ですね」と話す。

まだ半年前の出来事だ。ここから現在、藤嶋の1軍での成績は14試合14回2/3イニング。4安打、防御率はなんと0.00。まだ点を失っていない(8月14日終了時)。

藤嶋は「結果はたまたま付いてきているだけだと思っています。ただ、春の時点では自分でも想像できませんでしたね」。

「大きく変えた部分はないんです。キャンプもやっていないので色んなプランはありましたが、全部白紙です。トレーニングは続けていましたから、身体は変わったと思います」と話す。

得意球のスプリットはあるものの、代名詞のボールはない。そんな藤嶋を不思議に思っていると、ドラゴンズを引退した伝説のストッパー岩瀬仁紀氏にこう聞かれた。

「なぜ、藤嶋が結果を出していると思う?」。返答に苦しんだが、岩瀬氏はこう説明した。

「テンポだよ。もちろん投げっぷりがいいのもあるけど、藤嶋のテンポでピッチャーはなかなか投げられないものなんだよ。あれだけテンポ良くなげたら打者は考える時間もない。

打者はボックスを外して、自分の間を作ろうとするけど、気づけば藤嶋の間に入っている。あいつは間を自分の主導権にするのが上手いんだよ」。

「恐らくそれは天性。考えてやっている事じゃない。テイクバックが小さく、低めに集めて、ストレートとスプリットが同じ軌道。説明すればいい所は沢山あるけど一番はあのテンポ」と話した。

藤嶋にその解説を伝えてみた。「そうですか。あまりテンポを自分で気にした事はないですね。考えて今のリズムを作ったわけでもないんで」。

「でも、岩瀬さんに言われたら嬉しいっすね」。岩瀬氏の言うように藤嶋には天性のテンポの良さが備わっている。

そのテンポを作り出しているのは藤嶋の人間性といっていいだろう。若い投手は恐怖心を持つ。もちろん藤嶋にもあるが、それ以上に打者に向かっていく勝負心は一級品だ。常にマウンドで躍動感を出し、感情をむき出しにする。

しかし、藤嶋はいい投球をした翌日にそのピッチングを自らドラマチックに語ることはしない。むしろ、その勝負を楽しかったと笑い飛ばすのが藤嶋健人だ。

時折不思議に思う。現役続行さえ危ぶまれたのに藤嶋は常に笑顔だ。なぜ、楽しめるのか。なぜ、笑えるのか。

「考えてもしょうがないのかなって。手術した時もダメならしょうがないって思いました。今でも手が冷たくなる度に不安にはなりますよ。でも、好きな野球やれているんだから、それくらい大丈夫だって思います」。

故障をしたからこそ持てる刹那の境地。人に見せたくない不安。そして、故障したからという見方をされたくないプライド。そういった感情の全てを自らの笑顔に閉じ込め1軍の日々を送る。

抑えても打たれても、それを笑い飛ばす度に藤嶋健人はまだまだ強くなる。

文/写真:森貴俊

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森 貴俊

1976年愛知県出身。東海ラジオ放送スポーツアナウンサー。ドラゴンズ戦中心のガッツナイターをはじめJリーグ、マラソン等スポーツ実況を担当。原点回帰を胸に、再び強き竜の到来を熱望する43歳。日々体力の衰えを感じるがドラゴンズへの喜怒哀楽は衰え知らず。今年もマイクの前で本気で泣いて怒って笑います!

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