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突然の訃報にショックを覚えた。
2014年、東北楽天ゴールデンイーグルスに所属したルーク・ファンミル投手が34才の若さで急逝したという。
当時、日本球界初のオランダ人選手で、史上最高の216センチという高身長のファンミル。彼がマウンドに立つと、いつものマウンドが小さく見えた。
日本に在籍したのは同年だけで、一軍での登板機会も7試合のみだったが、ファンミルはグローバルに成功した野球選手だった。
オランダで見出され、2005年にツインズと契約すると、マイナーリーグでは3Aまで上り、その間もオランダ代表として、オリンピック大会、WBC、プレミア12など、国際大会のレギュラーメンバーとして活躍。
2016年からはオーストラリアのプロ野球リーグに所属し、今年1月もブリスベン・バンディッツの一員として、プレーオフへの立役者にまでなっている。
それだけに、どうして……の思いが拭えない。現地紙など各メディアの報道によると、「ヨーロッパで死に至るアクシデントに遭った(as the result of a fatal accident in Europe)」といい、詳細は伝えられていない。
ただし、昨年12月に岩山でのアクシデントで重傷を負っていたという詳細はあった。
MLB公式の『Cut4』などによると、ファンミルは休日、オーストラリアのキャンベラでハイキングをしていたところ、岩場で足を滑らせて頭部を強打。
24時間ものあいだ、意識不明のまま、毒ヘビや野生動物が徘徊する大自然の山中で倒れたままだったという。翌日、血まみれで目を覚ました彼は自力で下山しようとしたところを、通りがかった女性ハイカーに助けられて病院へ。
診断の結果、脳出血に加えて、頭部14箇所の骨折、鼓膜の破裂などで6日間の入院をするも、病室でつきっきりだったバンディッツのチームのCEOマーク・レディさんのため、チームの優勝のために復活を誓うと、翌月半ばにはチームに復帰。
シーズン最後の2登板を、ともに無失点と勝利に導く活躍をみせ、その後のプレーオフにも貢献していたという。
だが、アメリカの『People』『Sports Illustrated』など複数メディアによると、ファンミルは今年7月のはじめに引退を公表。
「ハイキングでのケガは回復途中で、今後は完全なリカバリーに励む」と理由があったようで、状態は芳しくなかったことが伺える。
◆「則本はハードワーカー、松井は出会ったなかで最高の19才」
34才まで現役で活躍してきた理由が垣間見えた気がした。誰よりも、ベースボールに対して気持ちが強く、パワーを絞り出せる選手だったのだろう。
けれども、性格はその大きな身体とは正反対なほど、控えめで優しいナイスガイだったのを思い出す。
2017年のWBCの取材で、10分ほどファンミルと立ち話をしたことがある。試合前、「少しお時間いいですか?」と尋ねると、快く応じてくれたのだ。
この時、侍ジャパンをどう捉えているのか、どう戦うのかといった話から、楽天のチームメイトの話まで、率直かつ相手をリスペクトしながら、時にジョークを交えて、表情豊かに話してくれた。
この年、侍ジャパン入りをしていた楽天の選手は、則本昂大と松井裕樹。ファンミルは、彼らと大舞台で戦えることをとても喜んでいた。そして、2人についてこんなことを話していた。
「則本のまっすぐはヤバいよね」と笑いながら讃えると、「でも、則本は本当にハードワーカーだから、その賜物なんだろう。決して身体は大きくないのに、鋭いフォームで力のある球を放り、配球の妙で相手を圧倒するんだから、本当にすごいと思う」。
「松井は、チームメイトだった時、まだ19才のルーキーだったんだけれど、今まで見た中で、最高の19才のピッチャーだって驚いたよ。こんな19才がいるんだってね。
当時はいろんな課題があって苦しんでいたけれど、なにせ19才だったからね。球の質、メンタル、取り組む姿勢、すごいなと思って見ていたよ」。
それから目尻を下げると、続けて「で、松井はあれから少しは大きくなったのかな? それとも、まだ『CHIBI』のまま?」と日本語を交えて、冗談を飛ばした。
その時のファンミルは32才。すると「僕も、32才でまだまだ若い。今の日本はスモールベースボールじゃなく、パワーもあって、スピードもある。コンタクトもうまい。しっかり投げて抑えてみせるよ」。
そう言って、野球少年のように笑うと、その後にはじまった日本vs.オランダ戦で9回に登板。侍ジャパンの4番筒香と5番中田を打ち取り、6番坂本にはレフトへのヒットを許すも、7番山田も見逃し三振に斬ってみせた。
May your soul rest in peace.
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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