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スポーツトレーナーは、トップアスリートにとって、パフォーマンスを発揮するのに欠かせない存在だ。
選手にトレーニングやコンディショニングの指導を行ったり、筋肉の張りを見てケアをしたり。フィジカルからメンタルに至るまで選手と直接的に関わりながら支える。
そうした心身を整える専門家として、東北楽天ゴールデンイーグルスの選手たちから絶大な信頼を寄せられているのが、星洋介(38)さんだ。
2012年から田中将大(現ヤンキース)のオフの自主トレにも帯同し、現在はその自主トレメンバーでもある、則本昂大や松井裕樹、そして岸孝之など、楽天の主力投手陣をメインに担当する。
シーズン中は、選手たちが練習を始める1時間半前には球場入りし、ミーティングと選手の状態チェックをして、ウォーミングアップを指揮。それから練習と試合を見守り、試合後もケアやトレーニングなど、1日の最初から最後まで選手たちに寄り添う。
2007年に楽天に入団。積み重ねた実績から信頼はますます高まっているが、かえって引き締めるように星さんは言う。
「僕のケア、トレーニングひとつで選手を動かしてしまう。知識や方法も『最新だから』『有名選手がやっているから』と取り入れるのではなく、常に疑いの目を持って考察します。そこを選手に指導する立場ですから」。
◆ケガ克服のため自身を実験台に。飽くなき探究心からトレーナーの道へ
研究者のように考察と挑戦を続ける星さん。原点は、思うように野球ができなかった自身の過去にある。地元仙台出身で、仙台育英高校から東北学院大学に進学し、野球を続けてきたものの、ずっとケガに悩まされ続けてきたという。
「肉離れをしたり、肩が痛かったり。そもそも肩が痛い、『投げる』っていう動作がまともにできないと、野球にならないんですよね。いろんな治療院、整骨院、病院に行きましたが、治らなかったんです」。
そこで、藁を掴む思いで見つけたのが、プロ野球でトレーニングコーチ先駆者として知られる立花龍司さんの著書だった。
野茂英雄を指導したことでも知られる同氏の、大リーグからの最新トレーニングや調整方法が書かれていた本を読み、それらを試したという。すると、針を打っても、マッサージをしてもダメだった身体が少し良くなったのを実感したという。
「これはすごい」と大学生の星さんは衝撃を受けた。専攻は経済だったが、そこからスポーツ科学やスポーツ医学の本を読み漁るように。「自分の身体を実験台にして、いろんなトレーニングや治療を施していました」と振り返る。
大学卒業後は、スポーツクラブで働きながら専門知識を高め、筑波大学院へ進学。そこで、当時(2006年)、楽天のコンディショニングのチーフを担当していた立花氏に出会い、同氏の退職を知って楽天に履歴書を出したところ、採用に至ったという。
立花氏と大学院で出会ったことも、楽天入りできたことも、「幸運に恵まれた」と語る星さんだが、今も毎年大リーグのウインターミーティングに赴き、最新のトレーニング情報を取り入れるなど、不断の努力を怠らない。
また、ウインターミーティングでは、自身で日本のプロ野球のトレーニング方法をプレゼンしたこともあるほど、日本流の発信にも尽力する。
◆選手の身体を守るため時に厳しく。喜びは「結果で応えます」の言葉
責任の持ち方は人それぞれだが、星さんのそれは「母」のようだ。「選手たちは、野球に関しては一流です。けれども、トレーニングやコンディショニングの知識、それを選択するセンスに関しては、本当に危なっかしいんです」。
コーチや監督が野球の道を教える“父”なら、トレーナーは選手の身体を守る“母”。星さんは続ける。
「迷ってたら、違うこうしなさい、これ食べなさいとか、落ち込んでいたら話を聞いてあげたりとか。子どもが危ないものに手を出そうとしたら、しっかり叱って導かないといけない」。
「これもいいよ、あれもいいよって甘やかして、パフォーマンスが出ない、抹消になる、ケガしてしまうと野球人生が終わってしまうかもしれないですから」。
一番の喜びは、選手が持てる力を発揮する姿を見ること。「僕のことを信頼してくれて、一緒に取り組んで、『結果で恩返しします』って言ってくれると、本当に嬉しい気持ちになります」。
「何ていうか、子どもが受験で希望校に受かるため頑張って、親に八つ当たりして、でもこっちは勉強しなさいってサポートして、希望校に受かるみたいな関係に近いかもしれません」。
”母”のようにと照れ笑いを浮かべる星さんは、ともに働くトレーニングコーチやトレーナーへの感謝の言葉も繰り返していた。「僕がこうして取材を受けて、チームの中心選手と関係を築けているのも、彼らの支えがあってこそ」。
雑務をこなす年下のトレーナーたちへの感謝を忘れず、自身が国内外で得た最新情報を持ち返っては共有する星さんは、仲間うちでは”兄”のような存在でもあるのだろう。
母や兄のように責任を持って、プロフェッショナルに徹する。みんなが絶大な信頼を置くわけである。
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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