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去年オフ、小熊の状態はどん底だった。「真っすぐが全然ダメ。走らないんです」。自主トレ期間に入っても糠に釘の日々。なぜそうなったのか、そして何をしたらいいか。
その苦悩はキャンプ、そして開幕をした後も続いた。下を向いても出口はない。一つ一つを見直した。まずトレーニング。
小熊は「登板から登板の間は、できるだけウエイトトレーニングを避けてきたが、重りを持たないのは登板前日くらい。今年は積極的に重りを使ったトレーニングをしています」と話す。
長く続いた苦悩の日々、そんな毎日に向き合った小熊は自分のある違いに気づいた。ダメだった去年の映像を見ていると、右手がテイクバックからトップに入った時のボールの向きが逆である事に気づいた。
写真の左は去年の小熊のトップ。テイクバックからボールはずっとキャッチャー方向を向いている。しかし、今の小熊はトップに入った時、ボールがセンター方向に向く(写真右)。
小熊は「昔からの悪い癖でもあるんですが、意外に簡単な所に原因はあったのかなと思います。今はボールが後ろを向く、結果、下半身からテイクバック、軸足の蹴り、腕の振りまでパチンとはまっている感覚があります。腕を振る時も去年と全然違う感覚がある。強く振れる感覚があるんです」と話す。
8月15日ナゴヤドームのDeNA戦、148キロを計測し自己最多の10奪三振をマークした。
朝倉投手コーチも「カーブが良くなった」と話すが、それについても手の向きが大きく関していた。
小熊は「ボールが外を向かないまま抜こうとするから、ひっかけてしまう。今はボールが外を向く分、手首が返るからボールの抜けが良く安定しました」と説明してくれた。
もちろんストレートが走る分、より緩急がつく事は言うまでもない。
入団時からセンスは誰もが認めていた。ベテランの山井大介も「オグが入ってきた時は、いい素材だなって素直に思いましたよ。だから今投げているストレートは全然不思議じゃないですね」と後輩の成長に笑みを浮かべる。
小熊は「これまで何度もいい感覚はあったんですが、毎回手放してしまった。今回はこの感覚を自分の物にしたい。そのために、なぜ今いいのか、しっかり理解しておきます」。
8月22日の阪神戦、小熊本来の状態ではなかった。4回1/3 9安打5失点。小熊は「いいピッチングを続けるのが僕の課題、それを可能にするには、調子が悪い時にどれだけ粘り強く投げるか。それができない。」
「まだまだですよ。DeNA戦もみんなは完投と言いますが、8回の段階で球速は140キロ切りかけていたし、軸足の押し込みが出来なくなっていた。スタミナ含めやることは沢山あります」と話す。
去年オフのどん底から、手探りで小熊は這い上がってきた。手ごたえを掴みつつある今シーズン、心の中ではしっかり前を見据えている。
森 貴俊
1976年愛知県出身。東海ラジオ放送スポーツアナウンサー。ドラゴンズ戦中心のガッツナイターをはじめJリーグ、マラソン等スポーツ実況を担当。原点回帰を胸に、再び強き竜の到来を熱望する43歳。日々体力の衰えを感じるがドラゴンズへの喜怒哀楽は衰え知らず。今年もマイクの前で本気で泣いて怒って笑います!
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