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降りしきる雨の中、チームバスからいつまでも手を振っていたのは、ベテランの藤田一也。この交流戦で、2年ぶりに古巣の横浜スタジアムに来ていた時のこと。
手を振っていた相手は、DeNAのスタッフ。他にも、選手や関係者はもちろん、数えきれないほど多くの裏方の人たちと、笑顔を交わしあっていた姿がとても印象的だった。
「うん、彼はベテラン選手になっても、そういった心遣いが変わらずにできる選手だね」とある関係者も語ってくれた。
ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞3回を受賞した藤田は、今年でプロ14年目の35歳。攻守で高い技術を磨き上げ、首脳陣から後輩まで厚い信頼を寄せられている。
◆代打の難しさ。三振しないこと。前に飛ばすこと
ベテランとして、チーム事情から代打出場の機会も増えてきた。そこに危機感もにじませながら語る。
「代打っていうものは、そう簡単に打てるものではないですし、なかなか難しいものではあるのですけれども、その中でも結果を出していかないと、なかなかスタートから使ってもらえないというのがありますから」。
ここまで135打数36安打の打率.267だが、驚くべきは三振わずか6で三振率3.7%。昨季のパ・リーグ三振率1位は中村晃の9.5%なので、打席数はやや規定打席に届かないながら、いかにずば抜けているかが分かる(6月18日現在)。
これについても、「いつも三振を少なくしたいという気持ちで立ってはいます。ボールを前に飛ばせば何かが起きる、自分はいつもそう思ってやっていますから」と手応えとして認めながらも、職人気質をのぞかせて続ける。
「でも、三振にならないというのは、いいものもあれば悪いものもある。調子がいい時はファールにもなるんですけれども、調子が悪くなると、ファールで逃げたいボールもフェアゾーンに飛んでいってしまう。だから、うまくやっていかないと打率として残っていかない」。
誰もが認める守備の名手だ。守らずに打席に入ることの難しさもあるのでは。
そう尋ねるも、「確かに、守備について打席に入る方が自分的にもリズムができるので、いい流れで打席に立てるというのはあるんですけれども、それはもうチーム状況であるので。自分の立場もあるので」と達観したように言うのだ。
◆3年目の茂木にかける期待。「彼ならできる」
だから自らの立場を理解し、若手育成にも尽力する。ショートを守る3年目の茂木栄五郎には、ルーキー時代から細やかにフォローし続けている。
元々サードだった茂木は、プロ入りして初めてショートを担うようになったため、少なからずエラーを記録している。
手痛いエラーにがっくりとベンチで落ち込む茂木には、いつも藤田が寄り添う。どんな言葉をかけているのか尋ねた。
「難しい場面でエラーが出た後、茂木の中で他に選択肢はあったのかどうか(を聞いた)」。何を思って、エラーに至ったのかを確かめたという。
「あいつが成長するためには、やっぱり1つの選択肢だけじゃなくて、2つ、3つの選択肢を持つようになればと。余裕というか、プレーの中で、いろいろ考えながらできることによって、選択肢が増えてくれば、あいつのレベルも上がってくると思うんです」。
客観的に俯瞰するため、ベンチの指示も確認したうえで、意見を言うのだという。「それだったら、こういう選択肢もあったねという風に話しました」。若手が絶大な信頼を寄せるわけである。なんでも話せる理想の上司像だ。
「茂木もショートについてまだ3年目。まだまだ経験というものは少ないものがあると思うので、その中で、もっともっとあいつにはうまくなってほしいと思うし、内野の年齢層が高い今、彼が将来は引っ張っていかないといけない。彼ならできますから」。
だからといって、もちろん一線を退くつもりはない。今は若手に惜しみなく技術と知識を教え、チームの底上げに貢献するだけ。
「まず第一にチームが強くなってほしい。その中で自分も競争に勝っていかないといけない。そうでないと、チーム力も上がっていかないですから。チーム力も上がって、そこのレベル争いで自分も残って、試合に出られるというのがベストです」。
チームが最下位にあえぐ状況下、さらに負けが込めば、ますます若手に出場機会が与えられるようになる。だからこそ、チームの状態を上げなければならないと執念すらのぞかせて言う。
「借金は結構多いですけれども、これをしっかりと減らしていくことができれば、僕は全然まだまだ可能だと思っています。全然諦めていません。まだまだチャンスはあると思ってますから」。
その仕事ぶりと力強い言葉から、確かな希望が感じられた。
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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