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もしかしたら、父親の1番好きだった選手なのかもしれない。きっとそうだったんだろう。
父と娘、それほど会話は多くない。昭和な男である父はイクメンの要素は皆無で、男は仕事女は家庭という古い考え方ということもあり、子育ては全て母親に任せっきりだった。
父の食べられない嫌いな食べ物は知っているが、1番好きな食べ物は何かと考えると正直わからない。反対に父も、わたしの1番好きな食べ物を聞かれたら自信がないだろう。父と娘なんてそんなもんだ。
そんな父と、今や人生の半分はカープに注いでいるといっても過言ではない娘が、初めてカープの話をしたのが「鉄人」。そう、衣笠祥雄さんについてだったことを思い出す。
「お父さん、このボールなーに??」
「衣笠がのー、鉄人ってゆわれとってのー。すごい記録を出したんよ。そのボールよ」
口数が少ない父に何もわかっていない幼い娘の会話なんてこんなもんだった。今のわたしであったら、1時間も2時間もその話を欲しがっただろう。
1968年、衣笠選手が初めて開幕スタメンに選ばれたその年のことを、そしてそのボールが作られた1987年のことを。父が記念ボールを買いに行ったその日のことを。
ただ、その時の嬉しそうな父の笑顔、そしてボールにプリントされた鉄人の笑顔はすごく鮮明に覚えている。直筆サインではないし、全てプリントのそれだったが、和室の前の父の思い出置き場に大事そうにずっと飾られていた。
わたしの父はすでに他界した。あと数か月生きていられれば、黒田博樹の帰鯉を共に喜べたのに、あともう数年長く生きていられれば、25年ぶりのリーグ優勝を見られたのに。
でも、父は衣笠選手が活躍してきた黄金時代を知っている。大好きな鉄人が牽引した強いカープを知っている。最近のカープの優勝を見るよりも、その当時の思い出のままでいた方がよかったのかもしれないとも同時に思った。
鉄人は鉄人らしい最期を迎えたとニュースで知った。癌という病魔におかされながらも、息を引き取る4日前まで解説者としてスタジアムにいらっしゃったことを。鉄人の鉄人らしい死に際を聞き、父の死に際と重なった。
わたしの父も同じく癌だった。余命が少ないと診断されても最後の最後まで働き続けた。動けなくなるその日まで、自分の仕事を全うしてこの世を去った。父は引退してもなお、ずっと鉄人に憧れていたのかもしれない。
父の宝物はわたしの物となり、変わらず実家に大切に飾られている。昔のそれとは全く色が変わってしまった茶色のボールを見るたびに、人生の最後まで塁を踏み続ける二人の鉄人の事を思い出すだろう。
この場をお借りして、衣笠祥雄さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
大井 智保子
広島県江田島市出身のカープ女子。「カープ女子神3」と言われるうちの1人で、2014年にユーキャン新語・流行語大賞でトップ10を受賞。 カープに行かない日は、ドラゴンフライズとサンフレッチェ広島の試合にも積極的に観戦する広島スポーツ女子。 ≫Instagramアカウント:≫Xアカウント
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