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SVリーグの初代チェアマン・大河正明氏
「大同生命SV.LEAGUE」(SVリーグ)が2024年10月に男子10チーム、女子14チームで開幕する。
SVリーグは日本におけるバレーボールのトップリーグで、昨季までのV.LEAGUE(Vリーグ)を「バージョンアップ」したものだ。外国籍選手の登録や出場が増えるといったコート内の変化に加えて、ファンサービスの強化、地域密着の取り組みといったオフコートの充実も重要な進化だろう。
今回は改革のキーパーソンで、SVリーグの初代チェアマンを務める大河正明氏のインタビューをお届けする。大河氏は「バレーボールの専門家」ではない。2010年に三菱東京UFJ銀行を退行後はJリーグに転じてクラブライセンス制度導入に尽力し、常務理事も務めた。
その後はバスケットボール界に転じ、Bリーグ開幕時のチェアマンでもあった。彼はいわば「ガバナンス」「新リーグ立ち上げ」の専門家で、だからこそバレーボール界の改革者としても白羽の矢が立ったのだろう。
Bリーグのチェアマンは2020年6月に退任し、びわこ成蹊スポーツ大学の学長を務めていた。しかし、2024年7月からはSVリーグのチェアマンに専念し、10月11日の開幕とその後の成長に尽力している。
大同生命SVリーグ 2024-25
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J SPORTSオンデマンドで見逃し配信中
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【開幕戦】男子第1節 サントリーサンバーズ大阪 vs. 大阪ブルテオン
10月11日(金)午後6:50 J SPORTSオンデマンドでLIVE配信
―― 10月11日にSVリーグが開幕します。Vリーグの「上」に新たなリーグが誕生した形です。なぜ、変わるのかをお聞かせ下さい
SVリーグ開幕会見。中央が大河チェアマン
大河:組織自体も「SVリーグ」と「Vリーグ」(2024−25シーズンからは2部相当)に分かれました。今までのVリーグはサッカーでいうと、J1からJFL(4部相当)までが一緒になったようなリーグで、上昇志向の強いチームの数が少ないカテゴリーでした。私はVリーグに来て、2年になりますが、「このままだと日本代表の人気が出ても、リーグは停滞して浮上しないだろう」という危機感を持ちました。
Vリーグの副会長になって、責任も感じるようになりましたが、リーグ人気の浮上にはパートナーさん、メディアが魅力を感じて手を挙げるリーグにしなければいけない。要は「夢を語れるリーグ」にしないといけないと考えました。特に男子は今が絶好のチャンスですし、このまま終わってしまうのはもったいない。
一方でバレーボールはラグビーと同じで、代表もそれなりの結果が出ているし、変える理由が分かりにくいという状況もあります。あと、「中」で変えようとすると大きな変化は難しいし、何が変わったかも分かりにくくなりがちです。
―― 今回「ここが変わった」というポイントはどこですか?
実はガバナンスです。オン・ザ・コートで外国籍選手が1人から2人になったとか、中継にベンチが映るようになるとか、細かい変化はあります。でも、それが抜本的な変化かといえばそうではなくて、「決め方」の変化が大きいです。
例えば、JリーグとBリーグは、「実行委員会」でいろいろな議論をして理事会に持ち込む仕組みです。Vリーグは実行委員会に当たる会議がありませんでした。運営会議はありますが、参加者は各チームの競技運営担当だったり、場合によっては監督だったり、GMだったり様々です。
チームの中で競技、強化に一家言ある人が出席していました。社長ではない、権限を委譲されたわけでもない人が集まって、その人たちの意見をリーグが伺う会議体でした。
そもそも、実行委員会は競技のルールを決める会議とは違います。事業計画とか、お客を増やすためにどうするとか、経営面も含めて組織を強くしていくことが最終目標です。それに自分たちが面倒くさくなることは、みんな変えたがらないじゃないですか?
だから、何も変わってこなかったわけです。物事の決め方を変えたところが、実は一番大きなところです。
―― ベンチの位置が変わったんですね
今まではサッカーと一緒で、ベンチがカメラ側で「背中」しか映らない位置でした。これからは中継や配信に「顔」が映るようになります。
ただ、バレーボールの競技性については変わりません。バレーボールは「帰りの下駄を履くまで」分からないスポーツです。この間のイタリア戦(パリ五輪・男子準々決勝)は記憶に新しい例 ですが、本当に「あと1点」から、逆転の起こる面白さがあります。選手の人気、魅力も間違いなくあります。大切なのは「経営力」「競技力」「影響力」の3つだと思っていますが、経営力をまず変えることが大切です。
―― 経営的な成長について、現状はいかがですか?
9月11日の理事会後の会見でも言いましたが、昨シーズンのVリーグの収入は8億円です。Bリーグが発足する直前の、合流前のbjリーグとNBLも合わせて8億円ですから一緒です。
2024-25シーズン(2025年6月期)の予算作りは今やっている途中ですが、上手くすると30億を超える規模まで成長します。4倍近くまで来ていて、そのお金を色々なものに投資できるようになります。
―― 昨年お話を聞いたときは「何をやるにもまずお金がない」と嘆いてらっしゃったので劇的な変化ですね。SVリーグは「プロリーグ」という言い方はしていないと思いますが、観客や視聴者は「プロ」として楽しめるエンターテイメントになると理解していいでしょうか?
特に男子はそうです。女子は少し時間かかるかもしれません。「選手が誰から報酬をもらっているのか」を考えると、やはりチケットを買ってくれている人、パートナーになってくれている企業です。
直接報酬を出してもらっているわけではないですが、メディアや場所を貸してくださる行政も大切なパートナーです。そこに対してしっかり向き合い、ホームアリーナの確立と地域密着をしっかりやっていけば、SVリーグは自ずと成長するはずです。
―― 手応えはいかがですか?
正直、バスケットボールを始めたときよりはあります。どこを回っても石川祐希(イタリア・ペルージャ)、高橋藍(高ははしご高/サントリーサンバーズ大阪)、西田有志(大阪ブルテオン)と選手名がどんどん出てきます。Bリーグのときは「田臥勇太(日本人初のNBAプレイヤー)がいるね」くらいでした。あとはチームに「稼ぐ文化」ができるかどうかです。
―― 大河さんは創生期のJリーグに出向した経験もあり、Bリーグは開幕時のチェアマンです。両リーグの「立ち上げ」と比較してどうですか?
端的に言うと、BリーグとJリーグはゼロからのスタートができました。SVリーグは「今あるものを走らせている人が、SVリーグのこともやる」という動きです。Vリーグを回しつつ、SVリーグを作っていくのは大変な作業でした。
完全に新しいものを作るなら、過去を良い意味で否定しながら作れるけど、今いる人が過去を否定するとそれは自己否定となりますし、難しかったです。
―― 中継についてはいかがですか?開幕戦は地上波で中継されますね
配信を含めると、SVリーグは男女とも全試合が中継されます。代表戦は別ですが、バレーボールのリーグ戦を、地上波のゴールデンでやったことは久しくないはずです。放送の枠を取りに行くのは非常に苦労しましたが、昔からバレーボールを非常に応援していただいているフジテレビさんに一肌脱いでもらって、協力していただけました。
―― 1993年に開幕したJリーグは開幕戦の中継で火が点いて、ブームになりました
Jリーグはヴェルディ川崎と横浜マリノスで開幕戦をやりました。翌日に組まれていた4試合は、チケットがまだ売れ残っていたんです。でも、翌週から2年半、ずっと満員が続きました。
今はそこまで地上波の影響力が大きくないかもしれません。それでも試合の中継以外にニュースで取り上げてもらったり、「番宣」をしていただいたり、そういうのも含めた影響はやはり大きいです。
コアなファンはJ SPORTSに加入してくださると思いますが、地上波の扱いはライト層が「SVリーグが始まったのか」と気づくきっかけになります。あと、BSやCSも含めてですが、応援番組を作ってもらう働きかけもしています。
―― 観客数はどれくらいを目標に置いていますか?
男子は先シーズンが平均2100名くらいです。Bリーグが始まる前のバスケよりは多い数で、Bリーグの初年度は2779人でした。収容人員の上限はありますが、そこは上回るリーグでありたいし、2800名くらいを目標に置きたいと考えています。女子の実情は見えにくいのですが、こちらも2000人弱くらいには持っていきたい。
Vリーグと比較すると、女子が2チームだけ増えていますが、チーム数はほぼ同じです。オールスターやチャンピオンシップを全て合わせて、先シーズンが男女合計50万人くらいで、それを120万人くらいまで増やしたい。
―― 2シーズン目以降はどうでしょうか?
2027-28シーズン以降を「セカンドステージ」、2030-31シーズン以降を「サードステージ」という三段構えで考えています。2027-28シーズンからは、リーグ戦の8割を3000人以上のアリーナでやると決めています。
2030-31からは、5000人以上のアリーナで8割を開催します。どれだけ大きい施設ができるか、Bリーグのアリーナで一緒にやれるのかにもよりますが、箱の大きさ次第で観客数も増えていく可能性はあるはずです。
2028年のロサンゼルスオリンピックに向けて、代表もさらに強くなるだろうと信じています。2030年に向けて、世界最高峰のリーグになっていくのが当面の目標です。
―― 「世界最高峰リーグ」とはどういう意味ですか?
「世界最高峰のリーグを目指す」と大河チェアマン
まず1つは抽象的ですが経営力、ガバナンス力が世界最高峰であることです。2つ目は総入場者数が世界で一番多いこと。そして3つ目はリーグとクラブを合わせた稼ぐ力、総売上が世界最高峰であることです。
4つ目は世界クラブ選手権優勝です。昨年、サントリーが3位に入りましたが、日本の男女で唯一のベスト4です。SVリーグのチームがアジアを勝ち抜いて世界で優勝したり、常時ベスト4に残れるリーグになることです。
最後はオリンピックやネーションズリーグに出場した各国代表選手の数が、一番多いリーグになることです。この5つを叩き台にして、若い人にも議論をしてもらって、来年の春までには発表したいと思っています。
―― 以前、「データベースマーケティングをしたくても、データがない」と言われていました。マーケティングの基礎になるデータも、徐々に揃いつつあるのでしょうか?
今シーズンからローソンチケットさんと提携をして、「チケットV」というシステムが始まります。ファンクラブ、オンラインショッピングを統合するデータベースは2シーズン目以降にできます。1シーズン目は部分的にできているイメージです。
―― データベースマーケティングや、サービス向上に不可欠なBリーグID、JリーグID的なものも2シーズン目からですか?
1年目から一応できます。ただ、8割の出来栄え。1人のファンが何回見に来ているかとか年齢層とか、それくらいは分かるようになります。
―― バレーボールは「毎試合行くような濃いファン」が多い印象です。一方でリーグが発展するにはファミリー層はもちろん、「新しい人」「ライト層」に足を運んでもらう必要があると思いますが?
今までのデータがないので何とも言えないのですが、120万人のうちの3割くらいは「初めて見る人」に来てほしいという感覚があります。「みんなでそのチームを応援して楽しかった」という体験が今まで味わいづらいところが、Vリーグにはありました。
今回、SVリーグになって高橋藍選手のような超目玉選手も来てくれて(※イタリアから移籍してサントリーサンバーズ大阪に加入)、メディア露出も増える。そうやって「近くにあるし、応援してみよう」という人が増えてほしいと願っています。
―― チーム側の努力、変化も必要ですね
Vリーグの現場に足を運ぶと、「1年でこれだけ変わるんだ」と感じることがありました。Bリーグに関わっていた人も、結構SVリーグのクラブに流れていて、良い意味でエンタメ性が「伝播」しているとも思います。
―― Bリーグの初年度は田臥勇太選手が出場する栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)戦に、アウェイゲームでもお客が詰めかけました
ヴォレアス北海道のホーム開幕戦はサントリーサンバーズ大阪との試合ですが、旭川の体育館(リクルートスタッフィング リック&スー 旭川体育館)はあまり大きくないこともあり、早々に売り切れました。
高橋藍選手みたいなスターがいると、そういうことも起きやすくなる。お客が集まりすぎると、トラブルにつながったりもするのですが、サービス業は怒られるところから始まる部分もあります。
ともかく、サントリーとか大阪ブルテオンが地方に行って、クラブもお客も「こんなになるんだ」と体験する。そうやって、その土地土地で「負けていられない」と、おらがチームを応援する文化が根づけばいいと思います。
取材・文:大島和人
大島 和人
1976年神奈川県で出生。育ちは埼玉で現在は東京都町田市に居住。早稲田大学在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。現在はサッカーやバスケ、アマチュア野球など多彩なボールゲームの現場に足を運んでいる。Twitter(@augustoparty)
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