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SVリーグ 小島陽介ダイレクター
スポーツファンならずとも、テレビでバレーボールの日本代表を見た経験がある人は多いだろう。ただ、それに比べると「国内のリーグ戦」を見た経験を持つ人は少ないはずだ。しかし、日本バレーボールの頂点に位置するリーグ戦が、この秋から大きく変わる。
「大同生命SV.LEAGUE」(SVリーグ)は2024年10月に男子10チーム、女子14チームで開幕する。昨季までの「V.LEAGUE」(Vリーグ)が進化し、プロ野球やJリーグ、Bリーグと同じような「メジャー競技」に脱皮しようとしている。
新リーグの発足に伴い、様々な人材がSVリーグに加わった。今回はSVリーグでマーケティングを担当する小島陽介氏に話を聞いた。Jリーグ、Bリーグのクラブスタッフを経てSVリーグに足を踏み入れた彼は、バレー界の未来を想像しながら、このリーグが飛躍するための「前段階」「ベース」を整えるべく奮闘している。
―― 小島さんは今まで他競技に関わっておられました
大学を出てからはスポーツマーケティングの会社で、サッカーに関する業務を9年していました。そのあと大宮アルディージャ(Jリーグ)に12年いましたので、ほぼずっとサッカーです。
さらにこの6月までバスケットボールの大阪エヴェッサ(Bリーグ)に2年弱在籍していました。平和に単身赴任をしていたのですが(笑)、3月の終わりくらいに、SVリーグの方から連絡をいただいて…。大阪ではクラブだけではなく街の皆さんにもとても良くしてもらっていたので非常に悩みましたが、東京へ戻って新リーグの立ち上げで頑張ることにしました。
―― バレーボール界についてはどういう印象をお持ちでしたか?
「代表が強くなった」という印象が、まず1つです。あと、大阪エヴェッサにいたときに、BリーグとVリーグの共催で、サントリーサンバーズさんと、当時のパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)さんの試合を一緒にやったことがあります。そのとき選手の社会性の高さを感じて「爽やかだな。常識があるな」と思いました。
先日行われたSVリーグ開幕会見
―― SVリーグではどんな仕事をされているのですか?
「マーケティング」という括りですが、お客さんと向き合うところ全般です。チケット、グッズ、放送。そこにまつわるシステム系の整備ですね。
―― 特に時間を最も割いている仕事はどの分野ですか?
開幕前の優先順位という点で言えば、放送・配信のところです。日本国内で放送、配信していただくJ SPORTSさんもそうですが、海外への放映権販売に関わっています。
―― どういう相手と、どのような話をされているのですか?
アジア各国の放送局さんと話をしています。特にアジアの提携国で、かつSVリーグでその国の選手がプレーしているところから順番に交渉をやっています。まだ、そこまで実績もないので、大きな金額にはなっていませんが、皆さん大きな興味を持ってくれています。最初に話がまとまったのはタイで、台湾、フィリピン、あとインドネシアも考えています。
―― 先日のネーションズリーグでは、男子日本代表がフィリピンで大人気だったと聞いています。ニーズがあるということですね。
男子はフィリピンでかなり人気が高いです。女子は選手がVリーグでたくさんプレーしていることもあり、タイで人気があります。
―― SVリーグの放映権ビジネスには、プロ野球やJリーグとは違う可能性がありそうですね
もっとも放送「だけ」だと、まだ価値の提供は難しいと考えています。現地法人がある日本企業さんを巻き込みながら、パートナーシップを組むとか、もう少しアクティベーションを絡めて、現地に出ていって何かすることも必要だと思います。
現地のみなさん皆さまにとっても日本の我々にとっても、双方の課題解決につながる取り組みができればいいですね。放送・配信権料を売ってお金が返ってくれば、一時的には良いのかもしれません。ですが、永続的にはなりません。
世界の中で見たとき、サッカーやバスケットボールに比べると、バレーボールの市場はまだ伸びしろがあります、みんなで強くなっていく、みんなで広げていくことを考えたいです。マーケットとして有力なエリアに乗り込んで、放映権料を取って日本だけが潤うのでなく、みんなでバレーボールを成長させていく――。どう、「グロース」していくかが大事になります。
そんな発展的な話をしたいとか思いながら、「1ドルでも上がりませんでしょうか」みたいな、泥臭いやり取り話を今はしている感じです(笑)。
―― 9月中旬にはタイの大会にサントリーサンバーズ大阪、大阪ブルテオンが出場していました
大相撲の巡業ではないですが、SVリーグのワールドツアーみたいな感じで、「毎年この時期になると来てくれる」的な大会があってもいいですね。アジアの子どもがSVリーグに憧れを持って、大きくなったらまず日本で活躍するんだと、アジアの選手がまず最初にSVリーグを目指すサイクルを作っていくことが、マーケティングなのかなと考えています。
―― NBAはシーズンオフに日本でクリニックや、普及活動をしていますが、それと似ている部分もありますね?
大阪エヴェッサにいたときも、NBAが大阪にクリニックに来てくれたことがあります。彼らはすごく調査をしていると感じました。子どもたちにとにかく楽しくバスケットボールさせていました。日本の学生スポーツは未だにどこかスパルタ的なところがあると思いますが、「アメリカのバスケットはそうではない」とコーチ陣が上手に見せる。「NBAに対して、とことんポジティブなイメージを持たせるな」と見ていて感心しました。
我々はあくまでも同じアジアの仲間に対して、手を取り合って一緒に成長していくような「パートナーシップ」「絆作り」ができればいいと思います。放送や配信が広まって、日常的に観られるようになると、そこに憧れが生まれて、よりSVリーグが成長していく源泉になると考えています。
―― 国内での準備は順調ですか?
今、ちょうど映像利用の詰めをしているところです。細かい権利調整はとても大事です。「どれだけ多く、みんなが使いやすくできるか」という視点で交渉をしています。例えば試合の映像も権利を持つ放送局に対して、「クラブの広報さんがオウンドメディアで使う場合は認めてください」といった話です。
―― BリーグやJリーグは、クラブがSNSなどでかなり自由に映像を使える環境があって、それがプロモーションにもなっていますね
JリーグもBリーグも、リーグの人はよく考えてくれていたんだなと、逆の立場になって痛切に感じています。今は使いやすいクリッピングソフトもありますが、システムがあっても映像の利用許可が降りなかったらクラブは使えません。Bリーグの広報さんは競い合って動画を出していますが、そういう風土を育む前段階として、色々と整備している感じです。
―― リーグやクラブの認知度を上げるためにも、大切な部分ですね
クラブの広報さんの発信のしやすさもあるし、そこに乗っかるファンの皆さんもそうですが、その人たちが出しやすくするのが、リーグの仕事なのかなとも思っています。
SVリーグがこれから壁に当たりそうなところに、少し先回りしていく必要があります。映像のアーカイブ、利用・活用のルール作りがそのような例です。「最初は認知を取っていきたい、広く浸透させていきたいから、ここを緩和してくれ」という相談はしています。
SNSや、YouTubeの発信で引っ張るクラブが出てくると、ファンの皆さんが「なぜ、ウチのクラブはやってくれないのか」となります。それによってリーグ全体の水準が上がっていくサイクルが生まれます。まずはやる気のあるクラブさんが、仕事をしやすいベースを作っていくのが大事です。
―― 他に課題、伸びしろとして感じる部分はどこですか?
「ここを直さなければいけない」と感じているのは、「チケットV」の利便性や操作性です。ファンの皆さんには本当申し訳なく思っています。整備していきますが、今は対処療法でスタートしてしまっている部分があります。使い勝手の悪さは強く認識しているので、ここはしっかり取り組んでいきます。必ずスピード感をもって、使いやすい、わかりやすいものに改善していきます。
開幕の準備を急ピッチで進める小島ダイレクター
―― バレーボール界には馴染みましたか?
競技の違いより、「クラブとリーグ」の違いを感じます。正直、JリーグからBリーグにいっても、クラブの仕事はそんなに変わりませんでした。ただ、立場が変わってリーグに来るとクラブとかなり違って、「前工程の整備」が大事だと気づきました。
リーグのマーケティング担当としてツール、環境を整える必要を感じています。その上で、SVリーグはまずターゲット、お客さんを見える状態にして、基礎的な分析する必要があります。ただ、そこからはリーグがすべてを描くのでなく、各クラブとコミュニケーションをとって、大きな勝ち筋を見せて共有した上で、その先は独自性があっていいと思います。
―― 国内でもバレーボールは日本代表の人気が高いですし、パリオリンピックでも視聴率はサッカーやバスケットボール以上でした
バレーボールは長く親しまれているので、少し前のスター選手でもみんな名前は知っているし、ルールも浸透しています。Bリーグをやっていたときは、ルールをどう場内で説明するか難しかったです。そういう部分はバレーボールの優位性、可能性だと思います。
一方ただ、Jリーグだと日本代表戦は観ないけど、自分のクラブは応援するようなサポーターがいます。バレーもそのようにもっとクラブが地域に根を張っていけると、より強くなると思います。
―― そのためには、何が必要ですか?
私がリーグに来て数カ月なので、軽はずみには言えません。比較して足りないという意味ではなくて、JリーグやBリーグがやっている活動で、素晴らしいと感じるのは、学校訪問のような地域の活動、地道な部分に尽きると思います。
あと、もう1つは普及育成のところで、部活の地域移行というテーマがあります。少子化が進み、先生の働き方改革の問題もあって、部活動の存続がどこも難しくなっています。スポーツの場をクラブが、地域の協会さんとともにどれだけ創出していけるかもが極めて重要です。
入口のところでSVリーグのクラブが地域活動をしっかりやって、競技やチームクラブに親しみを持ってもらって「扉」を開くことは、未来に向けた発展のカギになると思います。
取材・文:大島和人
大島 和人
1976年神奈川県で出生。育ちは埼玉で現在は東京都町田市に居住。早稲田大学在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。現在はサッカーやバスケ、アマチュア野球など多彩なボールゲームの現場に足を運んでいる。Twitter(@augustoparty)
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