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17歳のイリア・マリニンがジュニア世界チャンピオンへ「最高のスケートが出来たことにすごく興奮している」 | ISU世界ジュニアフィギュアスケート選手権2022 男子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部イリア・マリニン(アメリカ)
すでにフィギュアスケート界に旋風を起こしつつあった17歳のイリア・マリニン(アメリカ)が、ジュニア世界チャンピオンの座に駆け上がった。この先に、さらにとてつもなく大きな旋風の到来を、予感させつつ。
「シーズンを最高の形で締めくくれたこと、そしてフリースケーティングでクリーンな演技が出来たことに、ほっとしています。今日このように力を尽くせたことが本当に嬉しいです」
ショートプログラム(SP)「ビリー・ジーン」は、文字通り、完璧だった。踏み切りから空中姿勢、そして着地まで、あらゆるジャンプは流れるように実行された。音楽の盛り上がりに、3回転アクセル着地をピタリとはめたほど、完全にジャンプ動作は制御されていた。
また長い手足が美しく映えるスピンも、全身をしなやかに使う緩急のあるステップも、すべてが最高レベル4と判定された。さらに出来栄え点(GOE)では、7つのエレメンツのうち5つでプラス3以上(マイナス5からプラス5までの全11段階)の評価がついたし、演技構成点(PCS)は、全参加選手唯一の8点台(10点満点)をもらった。しかも5項目すべてで。
「最高のスケートが出来たことにすごく興奮しています。この瞬間に確実にクリーンな滑りをするため、できる限り最高の演技を披露するために、たくさん準備をしてきました」
約3週間前の「シニア」の世界選手権で、SP100点超えをあっさり達成させていたマリニンは、「ジュニア」の世界選でも、88.99点という高得点を叩き出した。SPで4回転が禁じられているジュニアの歴代最高得点を、軽々と塗り替えた。
フリースケーティング(FS)の「ゴールデン・エイジ」は、ほぼ完璧だった。あえて粗を探すとすれば、冒頭の4回転ルッツで着氷がほんのわずかに乱れ、GOEで小さくマイナスを取られたことだけ。またすべてをレベル4で揃えることは出来なかったし、PCSでは1つだけ7点台もあった。
ただ、最初から凄まじく飛ばしすぎて、中盤から大きく崩れたモンペリエの教訓を活かして、タリンではひとつひとつのエレメンツを堅実に決めていった。最初から最後までスピードは決して衰えず、プログラム全体を丁寧にまとめた。
印象的だったのは、ジャンプをすべて飛び終わった瞬間に、ぱあっとマリニンの顔が明るく輝いたこと。なにしろ「4回転4本」の難構成に幾度もトライしてきたシーズンの終わりに、初めて1つも回転不足やダウングレードを取られることなく、ついに4回転を4本きっちり飛び切ったのだ!
「シーズン開幕当初からの計画を貫き通したんです。もしも4回転4本で上手く行くようになれば、来季はもっと追加できると思っていましたから」
FSでの187.12点は、マリニンにとっては自己ベストであり、もちろんジュニアでは歴代最高得点。むしろジュニア・シニア通してのパーソナルベスト(PB)ランキングで、世界8位の得点である。トータルでさえ276.11点と、SPに4回転がなかったというのに、PBランク世界10位に飛び込んでしまうというとてつもなさ。
2本のプログラムをぶっちぎりの首位で終え、2位以下に総合42点近い差をつけ圧勝したマリニンが話題を独り占めしたが、2022年世界ジュニアでは、それ以外にもたくさんの個性的な好演技が見られた。
ウェスリー・チュウ(カナダ)の繊細で情感あふれる世界観も、ミハイル・セレフコ(エストニア)の切れ味鋭いスピードあるスケートも、たまらない魅力にあふれていた。SPを2位と3位で終えた両者は、残念ながら最終的には表彰台を逃した。FSのチュウは4回転の転倒を含むジャンプで細かいミスが相次ぎ、最終的に4位。セレフコは素晴らしい4回転サルコウでFSを滑り出すも、3回転アクセルの2度の転倒が得点に響いた。トータル6位で、地元タリンでの世界ジュニアを終えた。
またリアム・カペイキス(アメリカ)は凛々しく端整な演技でSP4位に飛び込んだし、凄まじい成長期を乗り越え、ジャンプと美しいスケーティングを取り戻しつつあるスティーブン・ゴゴレフ(カナダ)のトータル5位だって朗報だ。
入れ替わりで表彰台に上ったのは、SPを8位と出遅れたミカイル・シャイドロフ(カザフスタン)と、SP5位の壷井達也だった。
今季のシャイドロフにとって、SPは常に問題だったようだ。唯一参戦したジュニアグランプリ・ポーランド大会はSP6位からの逆転銀メダルで、四大陸選手権はSP8位からのトータル5位。今大会でもスピンやステップでレベルの取りこぼしが響き、チャーミングで、少しコミカルなプログラムの魅力を十分に披露できなかった。
FSでも完璧な演技とは言えなかった。冒頭の4回転ルッツでは回転不足も取られた。しかしコンビネーションを含むその他2本の4回転は、幅のある大きなジャンプを決めた。他のエレメンツも可能な限り丁寧にこなした。FSでは159.17と自己ベストを更新。総合得点では四大陸の得点にわずか0.36及ばなかったものの、17歳シャイドロフが、234.31点で堂々世界2位の座を射止めた。
日本人3選手
自己ベストの233.82点で、19歳壷井は銅メダルに輝いた。SPは3回転ルッツに「!」マークがついたものの、プログラム全体を美しくまとめた。
FSではさらに優雅なスケートで魅せた。ジャンプのミスは最小限に留め(4回転サルコウに4分の1回転不足、3回転ルッツで不明瞭なエッジと手付き)、最初から最後まで流れは決して途切れなかった。なにより壷井の持ち味である質の高い滑らかなスケーティングが、FSでは高い評価を受け、高いPCSに反映された。初出場14位だった3年前から、大きく成長したことを、世界の大舞台で示した。
16歳の三浦佳生にとっては、初めての世界大会は、苦い経験となった。四大陸選手権銅メダリストは、3月に肉離れで、急遽代替メンバーに選ばれた世界選を欠場。シーズン最後の世界ジュニアに向けても、調整は思うようには進まなかったという。
SP冒頭のコンビネーションジャンプは3回転ルッツ、3回転トーループともに着氷が乱れた。演技後半の3回転アクセルは激しく転倒。その影響か、ステップシークエンス中にはバランスを崩すミスもあった。まさかの20位に沈み、かろうじてFS進出を果たした。
本調子であれば優勝候補に上げられるはずの三浦は、ひどい「悪夢」の中、最後まで戦い抜いた。SPで失敗した3回転アクセルは、FS冒頭で大きく決めた。いずれも回転不足が指摘されたが、4回転を2本着氷した。たとえ何度もジャンプがすっぽ抜けても、諦めず、投げ出さず、渾身の滑りを続けた。FSだけなら8位の演技。総合は13位だった。
また本田ルーカス剛史は、3月末に急遽出場が決まった世界ジュニアを、総合14位で締めくくった。両プログラムともにジャンプにことごとく苦しめられた。ただし成熟した表現力には思わず引き込まれ、上質なスケーティングスキルでは高評価も得ている。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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