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「超速ラグビー」のお披露目は悔しい敗戦となったが、光も見える内容だった。6月22日(土)、「リポビタンDチャレンジカップ」日本代表対イングランド代表戦は国立競技場に44,029人の観衆を集めて行われた。前日の雨とはうってかわって空は晴れ渡っていた。日本代表はキャプテンに再び就任したリーチ マイケルを先頭に登場。2番目にはこの試合は初キャップとなるPR茂原隆由が続き、HO原田衛、唯一の大学生FB矢崎由高など新鮮な顔ぶれが並んだ。その中には直前に体調不良で欠場が決まったCTBディラン・ライリーに代わってテストマッチデビューとなるCTBサミソニ・トゥアの顔もあった。
両国国歌斉唱がスタジアムの期待感を高める。午後2時52分、日本代表SO李承信のキックオフで試合は始まった。このボールをイングランド代表がキャッチミス。開始35秒でラインアウトを得た日本代表は原田が素早いスローイングからボールを確保し、NO8ファウルア・マキシが縦突進。反則を誘って李が先制PGを決める。その後も日本代表はボールを継続支配しながら速いテンポで攻め続けた。何度もチャンスを作りながら、大事なところでパスが出せないなど詰めが甘く、この時間帯にトライまで持っていけなかったことがその後の流れを悪くする。
ミスでチャンスを逃し、スクラムで反則をとられ、PKからのタッチで自陣ゴールを背負っての相手ボールのラインアウト。前半14分、このラインアウトからのモールは止めたが、イングランドFWのパワフルな突進から最後はFLチャンドラー・カニンガムサウスにトライを奪われる。SOマーカス・スミスのゴールも決まって、7-3。前半20分過ぎ、日本代表はWTBジョネ・ナイカブラがディフェンスを破ってゴールに迫るが、カニンガムサウスの重たいタックルを受けてノックオン。チャンスを逃すと、そのスクラムからのイングランドのアタックに対して反則を犯し、PKからのタッチキックで大きく陣地を返され、そのラインアウトからのサインプレーでマーカス・スミスにトライを奪われる。スコアは、14-3。
ラグビー日本代表テストマッチ リポビタンDチャレンジカップ2024
【ハイライト動画】日本 vs.イングランド
29分には、マーカス・スミスの好タッチキックで陣地を押し戻され、ラインアウトからのモールを起点に攻撃され、最後はスミスが右タッチライン際にいたWTBイマニュエル・フェイワボソにロングパス。スミスが3本連続でトライ後のゴールを成功させて、21-3とされた。日本代表の反則、ミスを確実にスコアに結びつけるイングランド代表に、テストマッチの洗礼を受ける日本代表選手たち。イングランド代表はSHアレックス・ミッチェルの正確なハイパントで前進し、スクラムでプレッシャーをかけ、FWが密集サイドを突進し、マーカス・スミスが日本代表のいないスペースに正確にキック、パスを送ってスコアに結び付けていく。日本代表がディフェンスで粘るシーンもあったが、前半終了間際にはスミスのキックパスからCTBヘンリー・スレイドがトライ。26-3で前半を終了した。
山沢拓也
後半もイングランドのスコアが続いたが、日本代表は後半に入って交代出場の選手たちが勢いを引き出す。HO坂手淳史、FL山本凱が力強いタックルを決め、SH藤原忍も攻守にエネルギッシュにプレーした。45-3で迎えた後半26分には、ラインアウトからの攻撃で山本が抜け出しゴールライン直前までボールを運ぶと、藤原が素早くボールを出してSO松田力也、LOワーナー・ディアンズとパスがわたり、最後はWTB根塚洸雅が左コーナーに飛び込む。続く29分には長い手で難しいパスをキャッチしたディアンズが抜け出し、サポートしたFB山沢拓也がトライ。日本代表サポーターを沸かせた。
試合後、リーチ マイケルが端的にこの試合を表現した。「悔しいです。自分たちのスタイルができたところもありましたが、ディフェンスで自分たちのエネルギーを多く使ってしまいました。アタックでミスすると、そうなります」。そして、「このチームは若いので、負けた一番の財産になると思います」と話した。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は、「セットピースはうまくいって、ファイトできていた。アタックでフィニッシュまで行くことが課題」と、淡々と語った。
リーチマイケル
コーチ陣も選手も約2週間という短い準備期間を言い訳にしなかったが、キックの応酬でぽっかり背後にスペースを空けてしまうなど細部は詰め切れていない印象が強かった。そのなかで、ラインアウトは完成度が高く、モールのディフェンスもまずます。もっとも心配されたスクラムもある程度手ごたえをつかめた。ただ、アタックの部分ではセットプレーから少ないフェーズでトライを取ることができなかった。超速ラグビーは、長時間の連続攻撃は想定されていないはずだ。後半26分の根塚のトライのように少ないパス回数でトライを取り切るのが理想だろう。
現実を突きつけられたが、思い切ったチャレンジで得たものも多い。「2027年に向かって選手層を厚くしなければならない。ラグビーワールドカップでベスト4になるには、各ポジションに3名ずつは選手が必要です」。ジョーンズHCはこの試合でもたくさんの選手をデビューさせた。多くの選手に経験を積ませながらチームを強化する。難しいかじ取りが求められている。期待を込めて、改めてテストマッチデビューとなりキャップを得た8人の名を記しておきたい。先発=PR茂原隆由、HO原田衛、FLティエナン・コストリー、CTBサミソニ・トゥア、FB矢崎由高。交代出場=PR為房慶次朗、FL山本凱、SH藤原忍。彼らのさらなる成長を楽しみに今後の戦いを見ていきたい。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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