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ラグビー コラム 2024年6月19日

「イングランドに勝つ。いまはそれしか考えていません」初陣に燃えるエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ

村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一
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エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は再び日本代表を率いて世界を驚かせるのだろうか。2015年のラグビーワールドカップ(RWC)では、それまで5大会で0勝だった日本代表を3勝させ、その中の1勝は優勝候補の南アフリカを破る歴史的快挙。RWC2019のベスト8進出の礎を築いたのは間違いない。その後はイングランド代表を7年にわたって率いて歴代HCの最高勝率を記録するも、最後の2年は戦績が振るわず退任。オーストラリア代表の立て直しもうまくいかなかった。日本代表HCへの再就任については、期待と不安が相半ばする。エディー・ジャパン二期目は始まったばかりだが、「超速ラグビー」を掲げて世界のラグビー界に革命を起こそうとする姿勢には多くの選手が胸を躍らせているように感じる。宮崎での日本代表合宿で、その思いを聞いた。

――久しぶりに宮崎での日本代表合宿の指揮を執る気分はどうですか。
「私は日本ラグビーへの恩返しをしたいという気持ちが強いので戻ってきました。宮崎へは里帰りのような気持ちです。前回は日本ラグビーに変革をもたらそうとしていました。いまはすでに変革は訪れたあとです。今回のテーマは、ラグビーのレボリューション(革命)です」

――具体的な目標を聞かせてください。
「2027年RWCはトップ4を狙います。それが私の仕事です。現状、日本代表はターニングポイントにいます。2015年のRWCで3勝、2019年では4勝、2023年は2勝でした。このまま右肩下がりにならず、違う方向に持って行くのが我々のチャレンジです。歴史を振り返れば、偉大な日本代表はいつも素早く前に出るアタッキングラグビーをしています。ディフェンスも容赦なく前に出て、ユニークなプレーをします。集団としてのスピードが脅威だと思われるようなチームを作りたいと思っています」

――どのように日本代表を強くしますか。
「毎日、昨日より良くなるためのトレーニングを続けていきます。その中で日本人としてのアイデンティティを培っていかなくてはいけないと思っています。今回、ラインアウトについては、元南アフリカ代表のヴィクター・マットフィールドに指導してもらいますが、アイデンティティを理解しているという意味では南アフリカは素晴らしいチームです。非常にフィジカルなチームで、キックゲーム、カウンターアタックも得意です。日本代表は、モメンタム(勢い)をベースとしたいと思います。スピードで勝負し、ディフェンスでも容赦なく前に出る。相手のディフェンスを迷わせるような戦い方をしていきます。小さなサイズを逆に優位に持っていきたいと思います」

エディー・ジョーンズヘッドコーチ

――「超速ラグビー」を掲げていますが、どのように実現していきますか。
「プレーヤー全員のスピードを上げるためのプログラムを組んでいます。2012年はフィットネスにフォーカスを置いてトレーニングしていましたが、これからの4年間は、何度も何度もスピードを出すことに特化していきます。今回の練習時間は前回より短めになりますが、中身は前回よりハードで、強度も上げることになります」

――「超速」という言葉はエディーさんが考えたものですか。
「私のイメージをコンサルタントに日本語にしてもらいました。日本では、キャンペーンという形でトレンドを作ることでうまく行くことがあります。耳に残りやすい言葉を掲げると、それが信条に代わる傾向があると思っているので、そこを目指しました」

――どのようなプロセスを踏んでベスト4を目指すのですか。
「4年間のプランを持っています。まず、今年は我々の攻守のシステムの基礎を培っていきたい。選手たちには、トレーニング方法、リカバリーの方法をがらりと変えなくてはいけないことを理解してほしいと思います。選手たちの心の中にワールドクラスとは何かということを確固たるものにしたい。選手全員がワールドクラスにはなれないと思いますが、ワールドクラスになりたいという欲は持つことができます」

――メンバー発表記者会見では日本人選手は世界一タフだという言葉がありましたね。
「私の日本ラグビーの最初の思い出は菅平高原でした。たくさんのピッチがあり、午前も午後も試合をして、内容がよくなければまた練習する。それが正しいとは思いませんが、それが日本ラグビーの歴史の一部であり、タフなプレーヤーを輩出してきました。日本のプレーヤーは自分とチームを信じることができれば、容赦ない強度(インテンシティー)でプレーできます。2015年、2019年のRWCはそれを証明しました」

――初戦はイングランド代表との戦いです。勝つためのキーポイントは何ですか。
「イングランド代表の戦い方はわかっています。プレースタイルはシンプルで、セットプレーで試合をコントロールします。ラッシュアップディフェンスもキッキングゲームも強い。イングランドのサイクルを壊し、自分たちがゲームのテンポをコントロールすることが大事です。イングランドが非常にやりづらいという瞬間を作りたい。その時間を長くすることで勝つことができます。2023年のRWCで日本代表はイングランド代表がやりづらいと思う時間帯を作ることができました。しかし、それを長い時間続けられませんでした。イングランドと日本のラグビーは、ほぼ対極にあります。できるだけセットピースを与えないように、試合を細分化したいと思います」

――今年のテストマッチシリーズで大学生は出場のチャンスがあるでしょうか。
「ラグビーのエコシステムを構築することが大事だと思っています。U20日本代表があり、ジャパン・フィフティーン(JAPAN XV)があり、日本代表がある。ここをうまく連携させることで早い形でタレントを成長させることができます。ジャパンタレントスコッド(JAPAN TALENT SQUADプログラム)もあり、光るプレーヤーがいれば積極的に起用していきたいと思っています」

――海外出身選手で今後日本代表資格を得る選手がいます。彼らは起用していきますか。
「日本のチームとしてのバランスが大事ですが、外国人選手のパワーも必要です。今年に関しては非常に質の高いプレーヤーが数名代表資格を獲得する予定なので、今後選出する可能性はあります。ただし、ファン目線で考えると、外国人メインのチームは求められていないでしょう。日本ラグビーの成長にも役に立たないと思っています。日本人の若手プレーヤーを発掘、育成するとともに質の高い外国人プレーヤーもバランスを見ながら起用していきたいです」

エディー・ジョーンズヘッドコーチ

――コーチングはアートだとおっしゃっています。完成形はもう頭の中にあるのですね。
「完成形に向かってチームを成長させたいと思っていますが、これはジグソーパズルのようなものです。ひとつピースをはめると、その次のオプションができるという形で考えています。4年間をかけて、ピースをはめこみ、完成させたいと思っています」

「ラグビーに革命を起こす」。エディー・ジョーンズHCの言葉に多くの選手が奮い立っている。この夏はイングランド代表戦のあと、ジョージア代表、イタリア代表とのテストマッチがあり、マオリ・オールブラックスとの試合もある。先のことを聞いてみると、ジョーンズHCは「いまはイングランドに勝つことしか考えていません」と繰り返した。自らが7年間にわたって指揮を執ったチームが、新生・日本代表の初陣の相手となる。このシチュエーションに闘将が燃えないはずがない。準備期間が短く、勝つための作戦をどこまで精度高くできるのかはわからないが、立ち上がりから果敢に仕掛けるのは間違いない。いよいよエディー・ジャパンの「超速ラグビー」がベールを脱ぐ。

文:村上 晃一

村上晃一

村上 晃一

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。

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