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リーグワンで頂点に立った東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)は、年齢的にもリーグワンで最も勢いのあるチームだ。チームのエンジンともいえるFW前5人は、22歳のLOワーナー・ディアンズを筆頭に26歳以下の選手が多かった。なかでも出色の活躍だったのがHO原田衛だ。リーチ マイケルキャプテンを補佐するバイスキャプテンとしてチームをリードし、ボールを持てば瞬時の加速で前進した。昨年のラグビーワールドカップ(RWC)の日本代表入りは逃したが、そのスピードと運動量は「超速ラグビー」のなかで生かされるはずだ。小学1年生のとき、兵庫県の伊丹ラグビースクールでラグビーをはじめた原田は、関西弁で軽快にインタビューに答えてくれた。
――宮崎合宿のメンバーに選ばれたときは、どんな気持ちでしたか。
「嬉しかったのですが、もっと早く選んでほしかったなという気持ちもありました。ずっと日本代表を目指していたし、その舞台に立つ権利を得られたのは嬉しいです。この一年間の努力が実って良かったと思います」
――自分の課題は何だと思っていましたか。
「そもそもあまり試合に出ていなくて、日本代表入りへのアピールができていなかったと思います。だから選ばれないのは仕方がないのですが、去年は若い選手が少なかったので、若手枠で僕が選ばれてもいいんじゃないかと思っていました」
――エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)からは、どんな言葉をかけられましたか。
「ワークレート(仕事量)をもっと増やしてほしいと言われました。ボールキャリーで良いところはあるが、それを増やせということです」
――ボールキャリーの回数は多い気がするのですが。
「僕もたくさんボールを持っていたつもりでした。そんな気持ちで面談に行ったら、『もっと動け』と言われて、あっ、すいませんって感じで(笑)。ワールドクラスの選手に比べたら、少ないということですね」
――同じBL東京のリーチ マイケル選手に何かアドバイスを受けましたか。
「アドバイスではないのですが、イングランド代表に出場できるとしたら、フィットネスレベルを保っておかないといけないので、リーグワンの決勝が終わった後も休まずリーチさんとトレーニングしていました」
――日本代表に選ばれることを知ったのはいつですか。
「知ったのは5月30日のメンバー発表のときです。でも、選ばれる想定でトレーニングをしていました。絶対的な自信はなかったのですが、やっておくべきだと思ったのです」
――同じHOは経験豊富な坂手淳史選手、早稲田大学の佐藤健次選手がいますね。
「坂手選手はディフェンスで体を張りますし、セットプレーも安定して経験もある。学ぶことが多いです。佐藤健次はポテンシャルがありますね。桐蔭学園の後輩なのですが後輩のような感じがなく、なめたような態度をとります(笑)。でも、よい選手だし一緒に競争していけるのは楽しいです」
――2人に勝っていくために、どんなところでアピールしたいですか。
「日本代表になるためには、セットプレーで勝っていくことが必要です。ここで一番になることができたら出場する確率は高くなるでしょう。スクラムとラインアウトで他のHOに勝っていきたいですね」
――理想のHO、目標するHOは誰ですか。
「堀江翔太さんを目指していたのですが、2019年のRWCあたりで、ちょっと違うと思いはじめて目指すのをやめました。堀江さんはスキルレベルが高く、ハンドリングも上手い。僕はそこでは勝てないので、自分の強みを生かしていこうと考えました」
――原田選手のボールキャリーは確実に前進します。タックルをかわすコツはありますか。
「スペースに走り込むだけです。勇気がいるのですが、勇気さえ持てば誰でもゲイン出来ますよ」
――昨年のRWCはどんな気持ちで見ていましたか。
「メンバー入りできなかったら、あとは応援するしかありません。日本ラグビーが盛り上がっていくためには日本代表に勝ってもらうしかない。同学年のショウタ(福井翔大)とオッサン(長田智希)が出ていたこともあって、めっちゃ応援していました。負けたときは悔しかったですね。RWCが終わってからは、日本代表の2024年の初戦になるイングランド代表戦に出場して勝つのを目標にしました。そのためにはリーグワンで活躍しないといけないし、リーグワンで優勝することも目標でした。そうしないとアピールできませんから」
――日本代表を目指すからこそ、優勝しなければならなかったのですね。日本代表を意識したのはいつ頃ですか。
「子供の頃は日本代表になれるとは思っていなくて、ずっと雲の上の存在でした。よくここまで来たなと、びっくりしています」
――現在日本代表のバックアップメンバーに入っている堀越康介選手は、桐蔭学園の先輩ですよね。中学生の時、一緒に練習していたそうですね。
「僕は中学から桐蔭学園なのですが、中学3年生のとき、毎朝、高校3年生の堀越さんとスローイングの練習をしていました。すでに全国高校大会でも活躍されていたのに、一緒に練習してくれて、ありがたかったです」
――堀越選手もあの原田選手が日本代表に選ばれて感慨深いと話していましたよ。
「堀越さんのことは、桐蔭学園高校ラグビー部の藤原秀之監督がよく話していました。『堀越のように体を張る選手になれ』と。これは部員みんなに共有されていて、目指す先輩でした」
――影響を受けたコーチで特に名前を挙げられる人はいますか。
「これまで関わってくださったすべてのコーチから影響を受けています。でも、桐蔭学園の環境が今の僕を作ってくれたのは間違いありません。選手間の競争もあり、今の自分に満足せず変わっていこうとする姿勢は、桐蔭学園で生活する中で培われたと思います」
――試合前のルーティンは何かありますか。
「たくさんありますよ。前日にスパイクを磨く、自分の部屋を掃除する、ロッカーを整理してきれいにする、爪を切る、髭を剃る、そんなところですね。部屋の掃除は試合前にホテルに泊まるときなどはできないので、同じ週に掃除しておきます」
――なぜ掃除をするのですか。
「勝っても負けても、自分の本来の生活にすぐに戻れるように、全部きれいにして試合に臨みたいのです」
――それは誰かの影響ですか。
「中学生のころ、父親から『試合前にはトイレ掃除をしろ』と言われて、そこから掃除とするようになりました。僕の場合、父の影響でやっていることが多いです」
――試合前に聴く音楽はありますか。
「探しているのですが、なかなか良い音楽が見つからず、歌の意味とかではなくテンポのいい曲で気持ちのテンポだけ上げています(笑)」
――6月、7月のテストマッチで対戦したい選手はいますか。
「イングランドのHOジェイミー・ジョージですね。ずっと見ていた選手なので対戦してみたいです」
――2027年のRWCへの思いを聞かせてください。
「リーチさんは、常々ワールドカップは全然違うと言ってくれます。そこを目指せる環境にいるのは幸せなことです。死に物狂いで(メンバー入りを)獲りに行きたいと思っています」
原田衛はときにジョークを交えて、元気よく質問に答えてくれた。この夏のイングランド代表戦(6月22日)は2023年6月に発表された。2024年の日本代表戦では最初に決まった試合であり、RWC2023のメンバーに選ばれなかったとき、ここにターゲットを絞り、リーグワン優勝という目標を達成した後もトレーニングを怠らなかった。目標はその先にあったからだ。いつの時代も、代表入りのチャンスは準備を怠らない選手だけに巡ってくる。持ち前のスピードを武器に原田がどこまで駆け抜けていくのか、楽しみでならない。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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