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大学シーンでの初トライは前半19分だった。
慶大の1年生FB、小野澤謙真は、キックレシーブ後にボールを大きく動かす相手の動きに反応し、山なりのパスをインターセプト。そのままインゴールまで走り切った。
その20分後には、敵陣に攻め込んだ。攻撃を重ねる途中、SO大川竜輝がキックを蹴るのが分かった。
防御の裏に転がったボールをチェイスすると、軽快にキャッチ。相手を置き去りにしてこの日2つ目のトライを奪う。
後半15分にも5点を追加し、デビュー戦でハットトリックとした。
静岡聖光学院の出身。高校日本代表にも選ばれた期待の1年生が17得点と活躍し、慶大は5月12日におこなわれた関東大学春季交流大会(Bグループ)、東洋大戦に62-17と快勝した。
川越にある東洋大グラウンドで10トライを挙げた。
前半から自分たちのスタイルを出した慶大は、この試合が今季の同大会での2試合目。初戦の立教大戦(4月21日)には54-22と勝った。
しかし、5月5日に佐賀でおこなわれた早大との招待試合には27-52と敗れた。
直近の2試合を振り返って、この日、東洋大との戦いに向けて掲げたテーマは「攻める慶應」。HO中山大暉主将は、完敗した早大戦では「個々のレベルが高い相手の圧力を受けてしまった」と反省する。
「そう感じたのでこの試合では、ディフェンスでもアタックでも前へ出てプレーしようと言って試合に臨みました」
先制点は前半6分。敵陣深い位置でのラインアウトからモールを押し込み、中山主将自らインゴールにボールを置いた。
黒黄の2番は、12分には力強いランでディフェンダーを振り払って再びトライを奪う。
チームを勢いづけるプレーで、自分たちがすべきことを率先して示した。
早々に流れを引き寄せた慶大は、攻守ともに積極的に前に出続けた。それを受けて東洋大にはミスが出た。
勝者は前半だけで6トライを奪い、38-7と大きくリードしてハーフタイムを迎えた。
ラグビー関東大学春季交流大会2024 Bグループ
【ハイライト動画】東洋大学 vs. 慶應義塾大学
後半に向けて慶大は、もう一度ギアを上げないと相手が息を吹き返すと確認し合い、ピッチに出たという。
前半の終盤、プレーが雑になった時間帯があったと自覚したからだ。
後半最初の得点は相手に許したものの、慶大はすぐに2トライを追加して差を広げた。15分の時点で48-12として勝負を決める。
「体が大きく、パワーのある選手が多く、前へ出る自分たちのスタイルを試すのにいい相手」(中山主将)と考え、臨んだ試合で、思うような80分を過ごすことができた。
攻守とも前へ。
その意識は、小野澤が奪った最初のトライ、インターセプトしたシーンにも強く出ていた。
日本代表キャップ81を持つWTB/FB、宏時さんを父に持つルーキーは、「ああいうシーンで、相手がボールを大きく動かしてくるのは分かっていました。なので、思い切り前に出ました」とそのシーンを振り返った。
小野澤は、デビュー戦で結果を出せたことについて、「少し緊張はしましたが、練習でやってきたことを出す。そこに集中しました」。
いい形でボールをもらえるように、ラインの深さを意識したことが奏功した。
中山主将は今季のチームが目指すターゲットを、『大学選手権ベスト4以上』とする。
「まずベスト4。それで満足することなく日本一を目指そう、という目標を持っています。常にチャレンジする姿勢でやっていきます」
春シーズンは自分たちの強みは何か、持っているものの何が通用するのかなどを知り、磨く。
「引き出しを増やしていきたい」と言った。
敗れた東洋大のPR笠巻晴太主将も、前を見据え続けていた。
開いたスコアに落胆するより、自分たちの現在地に目を向けた。
春は土台の部分を大きくすることに集中している。それが、試合を重ねていく中で成長の幅を大きくしてくれると信じている。
この日の試合では、慶大の勝負へのこだわりの強さを受けてしまったと反省した。圧力下でミスも出た。「自分たちから崩れてしまいました」。
1年生の9番、10番(生田旭、池渕紅志郎)について、「やれることを出してプレーしてくれた」と評価する。
昨季から試合に出ている選手も多い。一人ひとりが自分のやるべきことにフォーカスして戦いつつ、つながることが大事と考えている。
2月の新シーズン活動開始時より、他のどこよりも肉体作りに力を注いできた自信はある。
その成果は、この試合でもコリジョンの局面や、ラインアウト、モールのシーンで手応えを感じた。
信頼の厚いキャプテンに迷いはない。大学選手権を睨んで歩みを進めることにぶれはなく、「ラグビーができることを当たり前と思わず、周囲の方々に感謝しながら、応援されるチームになります」と覚悟を口にした。
田村一博
前ラグビーマガジン編集長。鹿児島県立鹿児島中央高校→早稲田大学。早大GWラグビークラブでラグビーを始める。ポジションはHO。1989年、ベースボール・マガジン社に入社。ラグビーマガジン編集部に配属される。1993年から4年間の週刊ベースボール編集部勤務を経て、1997年からラグビーマガジン編集長に就く。2024年1月に退任し、現在は編集者、ライターとして活動。
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