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ラグビー コラム 2024年3月22日

能登半島地震で被害を受けた日本航空石川、地元のため、ラグビーのつながりに感謝して熊谷のピッチに立つ。全国高校選抜ラグビー大会

ラグビーレポート by 斉藤 健仁
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北信越王者として選抜大会に挑む日本航空石川

「地元・輪島のために」という強い気持ちを持って、3月23日から始まる全国高校選抜ラグビー大会に臨むチームがある。それは、石川県輪島市にある日本航空石川ラグビー部。「花園」こと、全国ラグビー大会でも、過去ベスト8に入ったことがある強豪校だ。

昨年12月30日、花園で茗渓学園(茨城)に2回戦で敗退してしまったチームは解散となったが、2日後の1月1日に能登半島を震度7の大地震が襲う。選手のほとんどは普段は寮生活をしているが、正月は実家に戻っており、幸いにも人的被害はなかったという。

日本航空石川、天理大学OBのナイ監督

寮監も務めており、元旦まで学校にいた同校OBで天理大学出身のシアオシ・ナイ監督(34歳)は、大学選手権準決勝を見るために東京に移動した後だった。「本当にビックリしました」というナイ監督は、3日に輪島に戻り、学校の片付けなどに追われた。

地震後、練習グラウンドは波打つように隆起、亀裂が入って使用できない状況が続いている。また、能登空港の隣にある学校は自衛隊や総務省の前線基地として拠点となり、現在でも水道は部分的しか復旧していない。

石川県出身の選手はチームに3人いた。HO(フッカー)馬医和輝、輪島市出身で小林学前監督の息子WTB(ウィング)小林静太郎(ともに1年)、そして白山市で被災したキャプテンCTB(センター)上野魁心(2年)だ。上野主将は「最初はどうなるか不安で、落ち込んだり暗くなったりする時期もありました」と正直に吐露した。

選手たちはオンラインで授業を受けつつ、自分で自主練習やトレーニングしたり、つながりのある高校や大学の練習に参加させてもらったりと、個々で1ヶ月間ほど活動していた。

2年生22人、1年生11人、マネージャー2人の計35名の日本航空石川の選手たちが顔を合わせて、新チームをスタートさせることができたのは、2月4日になってからのことだった。

20年に渡り練習試合をするなど、交流のあった中部大春日丘(愛知)の宮地真監督が救いの手を差し出した。今年の北信越大会が長野・飯田市で開催されるため、大学側と協議し、飯田市に比較的近い岐阜県恵那市にある中部大学の研修センターを貸し出した。

上野魁心主将

上野キャプテンは「初練習ができたときはホッとしました。チームメイトのみんながいてくれて、サポートしてくれている人が今は楽しくラグビーがやれていてありがたいです」と笑顔を見せた。

恵那市にいる間には中部大春日丘ラグビー部が練習に来たり、さらに同校OBであるNO8(ナンバーエイト)姫野和樹、日本航空石川出身のCTBシオサイア・フィフィタ(ともにトヨタヴェルブリッツ)の日本代表の2人も激励に訪れ、シューズをプレゼントしたりした。

2週間あまりという短い準備期間だった。それでも昨季から試合に出場した選手も多い日本航空石川は逆境をはね除け、北信越大会で開志国際(新潟)と対戦し。前半は12点リードを許したが、26-19で逆転勝ちを収めて優勝し、選抜大会に8大会連続11回目の出場を決めた。

東洋大学のスクラム練習を見る航空石川のFW陣

2月18日に再び解散したチームは3月、日本航空山梨での練習を経て、3月11日から22日までは選抜大会が開催される埼玉・川越のある東洋大学ラグビー部の寮で合宿しながら大会に備えている。

これは、日本航空石川と長年交流のある目黒学院(東京)の竹内圭介監督と、東洋大学ラグビー部の福永昇三監督が東洋大学の同期で、竹内監督から「日本航空石川が、選抜大会に向けて練習できる場所を探している」と、福永監督が聞いたことから実現した。

また、東洋大学駅伝部が、石川県輪島市や七尾市で合宿をしていたこと、日本航空石川OBのPR(プロップ)石川槙人と、WTB(ウィング)久保田尚樹(いずれも3年)も、東洋大学ラグビー部に在籍していたことなども重なって、「東洋大学としてもできる限り、サポートしよう」(福永監督)と決めた。

上久保大志部長

FW(フォワード)コーチも務める同校OBの上久保大志部長(31歳)は、「本当にいろんな方々に支援をいただいて、ありがたく思っています。ラグビーの輪、つながりで練習ができて、選抜大会に出場できます。感謝の一言ですね」としみじみと語った。

支援の輪は広がり、輪島を離れて練習場を転々としている日々のため、移動のための費用や、ラグビーの備品などのサポートも受けたという。

選抜大会の1回戦で日本航空石川は、近畿代表の強豪・京都成章(京都)と対戦する。2020年、コーチから指揮官に昇格したナイ監督の下、日本航空石川はディフェンスに注力しており、前に出るディフェンスを軸に、相手のミスやターンオーバーからトライを挙げる形に磨きをかけてきた。

ナイ監督は「いろんな方々からサポートがあったからこそ、ラグビーができています。その感謝の気持ちを持って、試合で結果を残すことが恩返しになる」と話し、「短い準備時間でどれだけ挑戦できるか」をテーマにチャレンジャーとして選抜大会に臨む。

左からLO立松副将、CTB上野主将。SO小嶋副将のリーダー陣

荷物を取るため、1度だけ輪島の寮に戻ることができたという副将の1人、SO(スタンドオフ)小嶋眞心(2年)は、「ラグビーのつながりを大きく感じました。そのつながりを大事にプレーして、今ラグビーができていることに感謝して、輪島のために精一杯やりたい。身体を張って、前に出続けるディフェンスをしてアタックに活かしたい」と意気込んだ。

また、日本航空石川といえば突破力に長けたNO8(ナンバーエイト)カイアヌアヌ・セニセニ、WTB(ウィング)シオネ・フィナウ(ともに2年)、身長190cmを超えるLO(ロック)エドウィン・ランギ(1年)のトンガ人留学生がおり、FWのモール、接点も武器だ。

副キャプテンのLO立松大(2年)は「自分たちのため、輪島のためにFWからガツガツやっていきたい。自分たちのモールで京都成章からトライを取りたい」と語気を強めた。

慣れない環境の中でも選抜大会に向けて強化を進めてきた

「地震の影響で練習時間が短いことは言い訳にできない」と話すコンタクトに強みを見せるCTB(センター)上野主将は、「個人としてはキャプテンですし、日本航空石川のある輪島に勇気、笑顔を与えるようなプレーがしたい。自分が一番、思い入れが強いと思うので、しっかり身体を張りたい」とまっすぐ前を向いた。

上野主将をはじめとしたリーダー陣は「AS ONE」というチームのスローガンに、「AS ONE WAJIMA」と輪島の文字を加えた。日本航空石川フィフティーンは地元・輪島のために、そしてラグビーの輪、つながりに感謝しつつ熊谷のピッチに立つ。

文/写真:斉藤健仁

斉藤健仁

斉藤 健仁

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント

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