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4回目のラグビーワールドカップ(RWC)2023で、プールステージ全4試合に先発した。
日本代表FL/NO8リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)。
ニュージーランド出身で札幌山の手高-東海大-東芝と歩み、RWC2015、2019で2大会連続で日本代表主将。4大会目のRWC2023で、キャップ数は日本代表歴代2位の「84」となった。
10月7日に35歳の誕生日を迎えた鉄人バックローは、23年大会をどう振り返り、リーグワン2023-24シーズンへどう臨むのか。
インタビュアーはJ SPORTS「ラグビーわんだほー!」MCの浅野杏奈。ラグビー日本代表応援サポーター2023も務めた22歳だ。
浅野がまず「4回目のRWCで全試合先発」という偉業について触れると、リーチは喜びと責任の両方を語った。
「すごいフランカーがいる中、ポジションを勝ち取って先発で(4試合)出られたことはすごく嬉しい。しかしプール最終戦で負けてしまったことは責任を感じています。もっと強くならなければならないと思います」
2019年大会までの2大会は主将だったが、今大会の主将は同じバックローの姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)。リーダー経験者として、姫野主将とどう関わっていたのか。
「今回のRWCで、姫野選手自身も成長したと思います。僕のサポートの仕方は、自分のプレーに集中すること。それをやれば彼のためになると思って、あまり多くのことを喋らず、自分のプレーに集中しました」
「(キャプテンとそれ以外は)かなり違って、キャプテンは違うところで気を付けなければならないし、バランスを取るのがすごく大変。試合では、流れを読んで、どう判断して、どんな声掛けをするかを深めて考えなければなりません」
「今回はキャプテンではなかったので、すごく楽でしたね(笑)。姫野選手を見ていると苦労している部分もたくさんあったので、裏では少し整えたりしていました」
インタビュアーの浅野は小学校時代にラグビーのプレー経験がある。ポジションはスクラムを組むフッカーだ。
“元フッカー”らしく、浅野はプール全4試合で「最もきつかったスクラム」について訊ねた。リーチは第2戦のイングランド戦(34-12)を挙げた。
「前回(2022年)イングランドとやった時は押されていました。今回もスクラムを組んですごく重く感じましたが、準備していたことは出せたかなと思います。押し返したりもできました。すごく良かったです」
第3戦の相手はサモア代表。大会前、リーチはサモア代表について「過去10年でベストメンバー」と話していたが、身体を当てた印象はどうだったのか。
「サモアは過去10年の中でもベストメンバーだったと思います。違う代表からメンバーが集まってきて、一番強いサモア代表だと思って準備をしました」
「サモアの強みは、フィジカルでどこからでもトライを取れること。ナチュラルで身体能力も高い。その相手に勝ったことは大きいです」
28-22で大会2勝目を挙げた。後半7分にはサモアのWTBベン・ラムが退場となり14人に。しかしそんなサモアに終盤に2トライを奪われた。
「(逆にサモアが14人なり)そこからサモアはよくわからない強さが出てきましたね(笑)。ココという時にフォワードがどんどん前に出てきて、止めるのも大変でした」
そしてプール最終戦のアルゼンチン戦。リーチは自然と笑みが溢れてきたという。ここで勝ったら日本代表は本物だと、ワクワクしていた。
「グラウンドに立った時はすごく楽しかったですね。ここで勝ったら次に行ける、というプレッシャーが楽しかったです。自然と笑顔が出ました。ここで勝ったら本物だなと思ってプレーしていました」
負けたら終わりの大一番で、緊張で固まるどころか、自然に笑みが溢れる精神状態だったという。4大会連続出場の経験ゆえ、なのだろうか。
「それもあると思います。プレッシャーが掛かるとマイナスになる事もあります。楽しむまでには時間が掛かると思います」
リーチはアルゼンチン戦後「相手が強かった」という言葉を残している。その言葉の意味について浅野は訊ねた。
「60分過ぎからのフィジカリティ、スクラム、キックのキャッチ、ラインアウトのプレッシャーの掛け方は、相手が良かったですね。そこで試合が崩れて自分たちにプレッシャーがかかりました」
日本代表は2大会連続の決勝トーナメント進出を逃したが、リーチは日本について「これから一番成長していく国」だとポジティブに捉えている。
では具体的に、日本代表が次のステージへ進むために何が必要なのか。リーチはまず選手個人で出来ることとして“海外挑戦”を挙げた。
「2015年から2019年まで、選手はスーパーラグビーで闘って強くなっていました。(2019年以降は)姫野がニュージーランド(スーパーラグビーのハイランダーズ)に行き、松島(幸太朗)はフランス(TOP14のクレルモン)に行きました」
「そういう選手をどんどん増やしていかなければいけないと思います。2019年大会の前はサンウルブズ(2020年解散のスーパーラグビー日本チーム)があって、多くの選手が育ちました。海外に挑戦する選手をどんどん増やしたいですね」
チームとしては、リーチは日本代表に「勝ち切る力」が必要と答えた。勝ち切る力とは一体何か。リーチ自身もその言語化には苦心している様子だった。
「(『勝ち切る力』がうまく表現できず)もどかしいですね。フィジカルといえばフィジカルになるかもしれませんが。それよりも『この場所でどういう選択肢があり、何を選択するか』『試合中の一つひとつの判断』の部分ですかね。(勝ち切るために)その能力をチームとして磨いていきたいです」
「その判断力を磨くためには、やはり試合数をどんどん増やす必要があると思います。李承信選手も今回、代表としての経験は少なかった。彼(李)のような選手をどんどん試合に出して、勝った試合、負けた試合も経験させた方がチーム力は上がると思います」
もう一つ、リーチにはRWC2023の決勝戦「南アフリカ×ニュージーランド」を観て、あらためて感じ入った事があった。
“特別な想い”の大切さだ。
「特別な思いを作っていくことが大事だと思いますね。パワーもフィットネスもスキルも大事ですが、その元々のパワーをどこから作っていくのか」
「今回の決勝戦を見ていると、南アフリカとニュージーランド、どちらも本当に国を背負っている感じがする。『ココ』という時に特別な思いがあると有利になると思います」
リーチ自身のパフォーマンスについて「進化すると思います。今回の大会で感じたこともありました」と意気込む。
今後も日本代表入りを目指し、まずはリーグワンの2023-24シーズンに臨むつもりだ。
「まずは自分のプレーを磨きながら、今シーズン(日本代表に)選ばれる資格を作りたい。常に日本代表を目指しています。選ばれる、選ばれないは自分の実力次第、監督次第。まずは選ばれるように頑張りたいと思います」
そしてアルゼンチン戦後には「将来は日本代表監督になりたい」という言葉もあった。
あらためてその想いを浅野が訊ねると、「なりたいなと思います」と明確に答えた。
「日本はどんどん成長するし、可能性がすごくあるチームだと思います。もう1回日本でワールドカップを開催して、世界中のラグビーファンを集めてやりたいと思いますし、その時に力になれるように頑張りたい。そこで監督として出るのか、選手として出るのか分かりませんが(笑)。それまでにいろんな経験をしたいですね」
まずは目の前のリーグワンだ。所属のブレイブルーパスには今季多数の選手が加入するが、注目はやはり、RWC2023準優勝のニュージーランド代表から加入する2人だろう。
「2人ともバリバリ現役の選手です。10番のリッチー・モウンガは世界トップの10番。ただ大事なことは彼らに任せるのではなく、チームにコミットしてもらって、そこで自分の能力を発揮するために仕事をしてくれたらと思います」
インタビュアーの浅野がふと「2人を連れていきたい府中(チームの拠点)のお店は?」と訊ねた。リーチはリラックスした様子で「いっぱいあります」と笑った。
「日本にはローカルな居酒屋、スナックもありますし、フルコースで紹介したいですね。日本に来る外国人は、まず渋谷などゴージャスなところに行ってしまいがちですが、ローカルをどうやって楽しむかを紹介したい。府中は本当に良い街。ローカルの人とコミットして府中の街を楽しんでもらいたいです」
ブレイブルーパスの注目点について訊ねると、若手選手の名が次々に出てきた。
「良い若手選手がいっぱいいます。フロントローの小鍜治悠太、木村星南、原田衛。この3人はすごく期待しています。ロックは伊藤鐘平。もちろん(日本代表の)ワーナー・ディアンズもいます」
浅野は「他チームから一人選手を加えるなら」という“IF”の質問もした。
「難しいですね。たくさんいますが、やっぱりクワッガ・スミス(静岡ブルーレヴズ)が欲しいな(笑)」
「使い方がたくさんありますよね。フランカーもできるし、ウィング、フルバックでも使える。試合をすると大変です。強いし、ボールも取れるし、足も速くてタフです」
インタビューの最後はブレイブルーパスの展望。リーチは「優勝できる条件は全て揃っている。あとは選手次第」と語った。
「どれだけハードワークをして、どれくらい一貫性を持ってプレーできるか。スターも揃っているので、あとは『勝ち切る』ところ。それがポイントだと思います。ベテランとして頑張ります」
このインタビュー後、ブレイブルーパスは今季の主将を発表。これまで4季にわたりFL/NO8徳永祥尭、SH小川高廣が共同主将を務めてきたが、今季はリーチだ。
2013年以来10年ぶりの主将復帰。名門東芝の王座復活へ、成長を止めないリーチが、強力な牽引車となる。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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