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2024年夏、パリで開催される夏季オリンピックが1年後に迫った。7人制ラグビー(セブンズ)の男女日本代表の選手達にとって、オリンピック出場は最大の目標だ。オリンピックのセブンズは男女ともそれぞれ12チームずつが参加する。11月18日、19日、大阪市(長居)にある「ヨドコウ桜スタジアム」では、そのアジア予選が開催される。優勝すればアジア代表として「第39回夏季オリンピック競技大会 パリ2024」7人制ラグビー競技への出場権を獲得。2、3位は世界最終予選(敗者復活戦)へまわることとなるが、アジアの大会で常に優勝を争う日本代表にとっては、ホームで出場権を獲得する絶好のチャンスだ。本欄で紹介するのは、この一年、男子セブンズ日本代表のキャプテンとしてチームを引っ張る林大成、31歳。東海大大阪仰星高校、東海大学、キヤノンイーグルスでプレー後、2018年4月からはセブンズ専任選手として活動している。代表活動以外は家を持たずに全国を飛び回る、さすらいのラガーマンだ。彼はどんな思いでアジア予選に臨むのだろう。
――アジア予選を直前に控えた心境を聞かせてください(取材は、11月10日)。
「まだ、心境は穏やかです。チームとしてのトレーニングでは対戦チームの傾向と対策を中心にコツコツ積み重ねています。チームとして取り組んできたディフェンス、アタックには変わりなく、バランスよく強化しています」
――現在の日本代表の強みとは何ですか。
「一番の強みはディフェンスです。プレッシャーをかけてボールを奪い返すところですね。サイモン・エイモーヘッドコーチ(2022年9月就任)のもとで、組織的に機能するまで順序立てて練習してきました。最初はプレッシャーをかけるのみ。次にプレッシャーをかけたあと、どういうふうに相手を追い込んでいくかなど徐々に作り上げてきました」
――アジア競技大会で3位、アジアラグビーセブンズシリーズのタイ大会で2位になるなど、直近のアジアでの試合では優勝できなかったですね。
「8月にアジアシリーズが始まってから、ホンコン・チャイナ(旧・香港)とは2勝2敗なのですが、シンビン(2分間の一時退場)で1人少ない間に点をとられることもありました。シンビンは不運な面もあって、たとえば、倒れた選手の足がたまたま走っている選手にかかってしまうようなこともありました。それは自分たちではコントロールできないので、シンビンが出たときの対策も考えています。前に出るディフェンスをし続けるのはタフなことなので、少し緩くなったりしたときもありました。もう一度自分たちのディフェンスを見直しているところです」
――キャプテンとしてチームをまとめるために心掛けていることはありますか。
「この一年、キャプテンをしていますが、僕がすべてを担当しているわけではありません。それぞれにリーダーがいて引っ張ってくれています。気を付けていることがあるとすれば、僕自身が良い精神状態でいることです。そうすれば、今何をするべきか、自然と良い発信ができるので、良いメンタルでいることが一番大事だと思っています」
――リーダーはどのように役割分担をしているのですか。
「キックオフが丸尾崇真、アタックが野口宜裕、松本純弥、ディフェンスは福士萌起、ケレビ ジョシュア、ラインアウトが奥平湧、津岡翔太郎、スクラムが石田吉平ですね」
――かなり細分化されているのですね。最近成長著しく、頼もしく感じる選手は誰ですか。
「松本純弥がいいですね。アタックのリーダーですが、リンクプレーヤーにもなれるし、チャンスを作ってボールを提供することもできるし、自分自身がラインブレイクすることもできる。フッカー(HO)としてプレーすることが多いのですが、ジェネラル・アタックの中心として機能しています」
――セブンズの選手にとっては、やはりオリンピックが一番の目標なのですか。
「ほとんどの選手がそうでしょうね。きっかけは人それぞれだと思いますが、パリ出場に懸けている選手が多いと思います」
――林選手はなぜセブンズに特化した選手になろうと思ったのですか。
「きっかけは東京オリンピック(2021)でした。僕自身、高校、大学とプレーしてきて、高校3年生の花園の全国大会、大学4年生での大学選手権は負けたら終わりの緊張感がありました。トップリーグではそこまでの緊張感、高揚感が味わえなかったのです。そういう舞台がほしいと思って、セブンズと15人制を両方やっていくよりも、セブンズに特化して東京オリンピックを目指したほうが高揚感を感じられると思いました」
――セブンズという競技は好きでしたか。
「僕はプレースタイルも身体能力的にもセブンズ向きではなかったと思います。でも、セブンズに特化し、プレー時間を増やしていけば、その舞台に行けると思ったので切り替えました。日本ではセブンズを経験する機会が少なく、15人制の良いプレーヤーがセブンズをしてもすぐにはフィットできません。身体能力の高くない自分が生き残り、キャプテンをし、SOを務めているのは、誰よりもセブンズに時間を割いてきた経験値だと思います」
――林選手のセブンズ人生にとって、パリは集大成になるのでしょうか。
「僕は東京オリンピックの舞台には立てませんでした。そのときは次の大会を目指す理由が見つかりませんでした。自分は高揚感を求めていたのに、コロナ禍で数々の大会が無くなり、思うような感覚を味わうことができなかった。だからコロナ禍が明けて、ラグビーが再開されたとき、もう一度やってみてから決めようと思いました。そしてセブンズを続けるうち、プレーヤーとして成長し、ラグビーを通じて自分を知ることができた。自分が世界のトップ選手と戦う舞台にいることは幸せだと感じました。今の気持ちは、パリに向いています」
――アジア予選は求めていた高揚感があるのではないですか。
「感覚的に少し違います。高揚感、緊張感を求めるというのは、自分のエゴだったとも思うのです。高揚感を求めるから、セブンズが注目されてほしかったし、そのためには自分自身が注目されたほうが良いと思って活動してきました。でも、今はチームとしてオリンピック予選を勝ち抜くということが一番大きなことになりました。僕がすべきことは、あまり特別な感情は持たず、やるべきことを淡々と、大会を通じてやり抜くことだと思っています」
――今のセブンズ日本代表の特徴はありますか。
「セブンズは一年の3分の2くらい合宿していますからいつも仲が良い。特徴があるとすれば、今までのチームの中で一番若いです。23歳から26歳の層が多いですね。一方で海外出身の選手は少ないです。ケレビ ジョシュアと副島亀里ララボウティアナラしかいません。それもあって身体能力で海外のチームに勝つというのは難しく、チームとしての連携を大切に築いてきました」
――チームのスローガンはありますか。
「チームを表す言葉として、FAST&BRAVE(速く、勇敢に)があります。ラグビーのスタイルもそうだし、攻撃、防御すべてにおいてという意味です」
――個人的なことも聞かせてください。林選手は現在所属チームがありませんが、代表活動以外は個人で練習しているのですか。
「東京オリンピックの前は、プロモーションも兼ねていろんな人やチームと一緒に練習していました。でも、一年半前に足首の大きなケガをして、残りのラグビー人生を考えたときに落ち着いて練習できる環境があったほうが良いと思うようになり、個人的にトレーニングできるジムを作りました」
――そのジムは一般の人も使えるものですか。
「1年くらいは自分のリハビリやトレーニングのためだけに使っていましたが、最近はジム経営も始めました」
――ジム以外にもさまざまな活動をされていますね。
「らぐびーくえすと、という動画サイトを立ち上げました。国内ラグビーの情報格差をなくすための動画配信メディアです。そのほか、ラグビーウエアの販売などもしています」
――家を持たずに活動してきているそうですが、今もないのですか。
「家を持たずにいろんな場所で、さまざまな人と一緒にトレーニングするのは僕にとってとても良い経験でした。いまはジムを持ったので、トレーナーの家に荷物を置かせてもらって落ち着いていますが、自分の家は今もないですね」
――予選を突破すればパリのオリンピックに出場することになります。そこで引退するという考えはありますか。
「僕は決断するときに、その時々の感情を大切にしてきたので、決めていません。その場に立ったあとに、辞める、トップレベルで現役を続ける、次のオリンピックを目指す、どんな選択もできる自分でありたいと思っています」
――11月18日、19日の予選を多くの人に見てもらいたいですね。
「僕はセブンズに特化して7年目になります。YouTube、SNSなどの発信を続けてきたことで、僕のことを知ってくれている人も増えてきました。でも、実際にプレーしている試合を見てくれた人はすごく少ないのです。おそらく、自分のセブンズ人生で日本で行われる大きな国際大会はこれが最初で最後だと思います。僕が今追いかけているパリ・オリンピックの関門であり、大舞台なので、現地での声援は嬉しいですし、現地で観戦してもらいたいですね。セブンズの試合を見る機会は日本では少ないので、ぜひ多くの人に楽しんでいただきたいです」
林大成は大阪市立瑞光中学でラグビーを始めた。パリ・オリンピックを目指すセブンズ日本代表の中心選手として、はからずも地元で大きな舞台に立つことになった。15人制がメインになっている国内ラグビーのなかで、7年にわたってセブンズに特化し、世界を舞台に戦ってきた林へのご褒美のようにも感じる。林以外にも、オリンピック出場のためにセブンズにすべてを懸けてきた選手たちがいる。その晴れ舞台をぜひ多くのラグビーファンの皆さんに見守ってほしい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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