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「ポケット・ロケット」チェスリン・コルビが加入!東京サンゴリアス田中澄憲監督インタビュー「来季はワクワクするラグビーでリーグワン初優勝を狙います」
村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一
クボタスピアーズ船橋・東京ベイの初優勝で幕を閉じたジャパンラグビー リーグワン2022-2023シーズン。プレーオフトーナメントの激闘は記憶に新しい。東京サントリーサンゴリアス(東京SG)の準決勝、3位決定戦に惜敗して4位となったが、最後まで戦い抜くスピリットを見せた。指揮を執った田中澄憲監督は忘れられない「悔しさ」を感じたことが今季の収穫だと話した。田中監督はサンゴリアスの現役時代、3位決定戦を戦った横浜キヤノンイーグルスの沢木敬介監督と同期でハーフ団を組んでいた。引退後はサンゴリアスのチームスタッフとして、エディー・ジョーンズ氏の薫陶を受け、母校・明治大学ラグビー部の監督としてチームを学生日本一に導いている。サンゴリアスを率いて一年目のシーズンの結果は4位。巻き返しを期す来季に向けて話を訊いた。
――まずは記憶に新しいプレーオフ準決勝から振り返ってください。
「サンゴリアスらしく、選手たちがベストのパフォーマンスを出してくれました。それだけに負けたことが、余計に悔しい試合になりました」
――前半5分でレッドカードが出ましたから、75分間は14人での戦いでしたね。
「85分まであったので、実際には80分間14人でしたね。14人であることを忘れてしまうくらい、選手たちが動き回っていた。コミュニケーションも素晴らしく、14人がばらばらにならずに戦っていました。冗談で、サンゴリアスは14人のほうが強いんじゃないかと話していたほどです(笑)」
――14人での戦いも準備していたのですね。
「横浜Eの一戦目(2023年1月7日)の前半18分でレッドカードが出て、14人の戦いは経験していました。やるべきことが分かっていたと思います。アタックはショートサイドを使って、ディフェンスのときにオーバーコミットしない(人数をかけ過ぎない)ことを心掛けました。前半は少しオーバーコミットしている面もありましたが、ラインブレイクされてもみんな必死でバッキングアップのディフェンスをしていましたね」
――映像判定(TMO)でトライが認められませんでした。
「TMOがあそこまでフォーカスされる試合はなかったですね。僕はTMO自体は良いことだと思っていますが、運営の仕方は改善する必要があると思いました。最後のトライのシーンはTMOのカメラの前に別のカメラが入っていた。そのあたりの細かいところも運営がもっとプロフェッショナルになるべきだと思いました。ただ、試合後にFWの青木佑輔コーチとは、デッドボールラインまで押すくらい、強くならないとダメだという話をしました。もっとクリアにトライできるように強くならなくてはいけないということです」
――怒りをどこにぶつけて良いか分からなかったのではないですか。
「怒りという感覚はないですね。ラグビーに関わる人たちは、レフリーをリスペクトしているし、僕も子どものころからそう教えられてきました。ラグビー界はそうあるべきだと思います。だからこそ、レフリーもしっかり判断することが大事だということです」
――3位決定戦も素晴らしい試合でした。
「金曜日に試合が組まれていたので、我々は準備に4日間しかなく難しい試合でした。準決勝の大半の時間を14人で戦ったことで身体にダメージもありました。身体とメンタルの両方がフレッシュな選手を起用しました」
――横浜Eの沢木敬介監督とは、サンゴリアス時代にハーフ団を組んだ仲ですよね。特別な感情になりますか。
「リーグ戦で2回戦って今季3度目でしたから飽きましたよ。またかよって(笑)」
――選手のモチベーションをどのように上げましたか。
「ストロング・フィニッシュしよう、ということです。準決勝のあと、負けたけど感動しましたというファンの声を聞きました。それが真逆のラグビーをしてしまってはいけない。準決勝の価値を落とさないように良いパフォーマンスをしなくてはいけないと思っていました」
――3位と4位で賞金の額が違うことは影響しましたか。
「それは、現場サイドはまったく影響ないです。運営サイドはあったと思いますけど(笑)」
――サンゴリアスは初めて横浜Eに負けました。その相手が沢木さんだった。これはどう感じましたか。
「敬介とは同期だし、年に何度かは飲みます。彼は早く結果を出すチームを作る指導者だと思いますし、さすがだなと思います」
――シーズン全体を振り返って、勝ちきれなかった要因はなんだと感じていますか。
「ひとことで言うと、ペナルティーが多かったです。トップ4のチームで一番多いと思います。シーズン中もそこは気をつけていたのですが、プレッシャーのかかるゲームでは、それが出てしまいました。反則は勝敗にも影響しますからね」
――原因はスキルの面ですか。
「スキルの面もあると思います。オフサイドに関しては、シーズン途中から改善してすごく減りました。それよりも、スクラム、ラインアウトでのペナルティーが多かったです。スクラムは強化していたので、逆に相手の反則を誘うこともできました。このあたりのマネージメントは課題ですね」
――ショーン・マクマーンと、サム・ケレビという大駒がシーズンの大半不在という戦いでした。カテゴリーC(海外代表経験者)がいない中で戦うことも多かったですね。
「カテゴリーBとCで4人の枠があるのに、3人で戦うこともありました。ケレビの準決勝のパフォーマンスを見ると、やっぱりすごかったですね(笑)。チームの核になる選手がシーズンの大半いなかったのはチーム力に影響したとは思います。ただ、それによって若い芽が出てきました。とくにFW第三列は、箸本龍雅、山本凱、下川甲嗣が成長し、刺激を受けた中堅の飯野晃司も伸びました」
――マクマーン、ケレビの代役を補強しなかったですね。
「サンゴリアスには日本人の良い選手がたくさんいます。外国人選手に頼るのではなく、日本人選手を育て、よい影響を与えてくれる外国人選手がいて、お互いに刺激し合いながら強いチームを作って行くのがサンゴリアスです。それで勝っていくことによって日本ラグビーをリードできる。サンゴリアスにはそういう空気があります」
――CTB中野将伍が成長し、シーズン終盤にはPR細木康太郎も出てきて、他の若い選手も成長していますね。
「将伍に関しては、去年は本来のポジションではないWTBでプレーすることが多かった。今季はずっとCTBで出ましたから自信がついたと思います。細木はもともと能力が高い選手ですが、成長するにはゲームでの経験がなにより大事です。準決勝の前に垣永にアクシデントがあったとき、細木で行こう!という信頼をトレーニングで積み重ねていました。チーム全体か競争しながら成長したシーズンでした」
――今季はシーズン後にチームを勇退する選手が多かったですね(5月31日付け発表で13名)。
「プロの選手たちが増えましたよね。サンゴリアスはプロ選手が少なかったのですが、今は半分を超えています。移籍することに対してポジティブに考える選手が増えました。リーグワンの活性化という意味では良いことですが、リーグワンとしてルール整備をしないと、育成したところで選手が出ていくという現象が起こるので、そこは考えたほうがいいと思いますね」
――勇退選手に主力級が多くて驚きました。
「本人の希望もあるし、引退、契約満了の選手もいます。事情はいろいろです。リーグワンは世界的な有名選手もたくさん来ているし、魅力的なリーグになってきていると思います。今後、いろいろな面で整備されていけば、世界トップのリーグと肩を並べるような存在になっていくと思います」
――日本代表経験者では中村駿太も抜けますね。
「堀越康介、中村駿太のHOは、ワイルドナイツの坂手淳史、堀江翔太と並ぶHOコンビだと思いますし、ここも1人になりますから、育成+補強で埋めていきたいですね」
――SOもクルーデン、田村煕が抜けました。
「SOは高本幹也(帝京大卒、今季加入)もいて、素晴らしいアタックセンスを持っているのですが、ディフェンスのフィジカル面が課題です。本人も分かっていますので、食事、トレーニングを工夫して頑張っています」
――ショーン・マクマーンは来季もプレーするのですか。
「はい、プレーする予定です。あとは、カテゴリーA、Bの選手を育て、抜けた外国人選手のあたりを補強していくということです」
2023-24シーズンより、東京サントリーサンゴリアスへ加入するチェスリン・コルビ選手
――カテゴリーCのアーロン・クルーデン、サム・ケレビが抜けましたね。
「カテゴリーCについては、チェスリン・コルビ(南アフリア代表WTB)を獲得することができました。もう一人も契約予定です」
――来季のチーム作りについて訊かせてください。
「方向性は間違っていないので、精度を高めることですね。僕らはボールを持って攻めるチームなので、ポゼッション(ボール保持率)が多くなる。ボールをキープするためにブレイクダウンの精度は大事です。その前のボールキャリアーの強さ、スキルも求められます。今季は、ボールキャリアーがボールを奪われたり、しっかりボールを置けずに転がって相手に取られたりすることが多かった。また、今季は戦略的にキックを使ってチェイスするような攻撃もしていました。ここの意識が高くなったので、どういう種類のキックをいつどこで使うのか、このあたりの理解も向上させたいですね」
――なぜキックの割合を増やしたのですか。
「キックを使ってアンストラクチャーにひきずり込むことができますよね。ボール保持率に関しては、ストラクチャーとアンストラクチャーの割合が半々くらいなのに、今季のトラはストラクチャーからが多かった。モールを強化したという要因はありますが、アンストラクチャーからのトライは少なかったのです。相手側の立場に立て見ても、サンゴリアスにボールを動かされるのは嫌だと思います。自分たちからアンストラクチャーを作るということも戦術的には必要だと思っています」
――来季の始動はいつからになりますか。
「8月1日から若い選手がスタートして、中旬から正式にスタートします。去年より早めの始動ですね。去年と違うところは、日本代表の活動が終ってから日本代表選手も参加して合宿をすることです。昨年は日本代表の活動終了後、3週間くらいで開幕でした。アタックのストラクチャーを変えていたのですが、日本代表組がフィットするのに時間がかかりました。チーム戦術の理解をみんなでやることにします」
――なるほど、昨年の日本代表活動は11月下旬までありましたが、ラグビーワールドカップは10月中に終わりますから、去年より準備の時間はありますね。来季の目標はリーグワン初制覇ですね。
「目標を聞かれると、それしかないですね。来季は今季よりも良いスタートが切れるとは思います。日本代表組も一緒にスタートできますので」
――どんなプレーを見せてくれますか。
「面白いラグビーを見せたいですね。相手がキックを蹴り込んでくると、サンゴリアスのカウンターアタックで、わくわくするような。そんなラグビーができたら面白いと思っています」
来季も「アグレッシブアタッキング・ラグビー」のスタイルは変わらない。4位ではあったが、サンゴリアスのけっしてあきらめない戦いぶりは、サポーターの心に響いた。さらにサンゴリアスが好きになって、応援しようと心に決めた人は多かっただろう。6月8日、チェスリン・コルビ加入の公式発表があった。「サントリーは素晴らしい歴史を持っているチームです。ファンの皆さんが楽しめるようなパフォーマンスをお見せしたいと思っています」。171cm、74kgという小さなサイズながら、タックラーを腰砕けにしてしまうようなステップが持ち味。彼の個人技がサンゴリアスの攻撃的ラグビーの中でどのように輝くのか楽しみだ。3シーズン目のリーグワン開幕が待ち遠しい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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