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帝京大学
早稲田大学の大田尾竜彦監督は、ゲームプランの大枠についてこう語った。
「前半はとにかく粘ろうと。キックを使ってエリアのマネジメントをきちっとしながら、攻めるタイミングがあれば、準備したプランで攻めていく」
2023年1月8日(日)。東京・国立競技場で開催された第59回全国ラグビー選手権大会のファイナル。
2大会連続11度目の優勝を狙った帝京大学は、開始早々に先制パンチを見舞った。
3大会ぶり17度目の優勝を狙う早稲田だが、開始2分で7点を失う展開に。
しかし慌てずゲームプランを遂行し、狙い通りにスコアしてみせた。
「前半2本のトライは、相手を分析して準備していたプレーでした」(大田尾監督)
前半12分に守備網の切れ目に、WTB槇瑛人が死角から走り込んでチーム初トライ。
さらに前半17分には右ラインアウトから一気に左隅までボールを運ぶサインプレーで、WTB松下怜央が勝ち越しトライを決めた。
高本幹也(帝京大学)
しかし帝京も慌てず、すぐ反撃に転じた。
「スコアされたシーンはペナルティから自陣に入られ、そこからセットピースのアタックで取られました。規律を見直して、敵陣で戦うために絶対にノーペナルティでいこう、と話しました」(帝京・CTB松山千大主将)
敵陣に入ればスコアする自信があった。前半22分、帝京はパワーランナーを当てながら15次攻撃。狙い通りに2トライ目を奪った。
これでスコアは帝京リードの14-12。前半20分過ぎまでは、交互に強みを発揮する接戦模様だった。
様相を一変させたのは、帝京の破壊的スクラムだ。
元日本代表プロップである帝京の相馬朋和監督は、就任1年目からスクラムの強化に重きを置いてきた。
「まず一人の強い個であること(がスクラムで重要)、そしてどうすれば自分たちが勝って負けるのか、ということを伝えながら、そのために大事なことを毎日繰り返して1年間伝えてきました。(決勝戦のスクラムは)素晴らしかったと思います」(帝京・相馬監督)
帝京の3トライ目(前半27分)はスクラムでペナルティが端緒。敵陣右に侵入し、ラインアウトからの展開でフラットに走り込んだNO8延原秀飛が独走トライを決めた。
帝京は前半31分にも早稲田スクラムをまっすぐ押し切った。早稲田にスクラム・コラプシングの笛。スクラムの優劣はその後も変わらず、帝京の揺るがぬ足場となった。
前半最後のトライも帝京。ハイパントからのこぼれ球を拾った帝京が、電撃的なカウンター。
前日花園を制した東福岡高出身で、弟・とわとの“兄弟V”を狙ったWTB高本とむがフィニッシュ。前半4本目を奪い、28-12で後半へ入った。
前半のペナルティは両軍合計5回(帝京3回、早稲田2回)。規律ある好ゲームは、後半最初に早稲田がPG成功。
早稲田がじわりと13点差(15-28)に詰めたが、始まったのは、帝京怒濤の6連続トライだった。
「序盤は粘れていました」と早稲田の相良昌彦主将は言った。「ただ接点で相手は2枚くらいだったと思いますが、自分たちは3枚、4枚をかけていた。互角にやれているように見えて、結局は互角ではなかったのかなと」
「人数をかけても、粘っていても、ボールを取れる気がしない。ボールキープ力が上から見ていてかなり違うな、と思って見ていました」(早稲田・大田尾監督)
帝京の相馬朋和監督が「我々であるためにすごく重要な要素」と語るコンタクト、フィジカリティで、真紅のジャージーが勝っていく。確実にゲインを切っていく。
後半6分にペナルティから敵陣右に入ると、スクラムでも奮闘するPR上杉太郎がフラットに走り込んで後半1本目。
後半11分には自陣のスクラムプッシュから、アドバンテージをもらった上でSO高本がショートパントを再獲得。大舞台で勝負強さを発揮するSO高本が独走トライで後半2本目。
反撃したい早稲田だが、後半15分にラインアウトでこの日初めてのノットストレート。
再開のスクラムでは、またもペナルティを奪われる痛恨の展開。反撃できず自陣に後退していった。
ラスト20分間で、帝京のリードはすでに32点(47-15)。
そして真紅の軍団は、ここからさらに26得点を上乗せする。
勝利は濃厚だ。しかし勝利という結果にフォーカスをしていなかった。その心構えが、決勝での最多得点という圧巻の結果を生んだ。
「点差は気にしていませんでした。結果に走ってしまうと一つひとつのプレーがおろそかになるので、プロセスを大事にして戦いました。それがこういう結果になったと思います」(帝京・CTB松山主将)
後半24分には順目に強いランナー(FL青木、HO江良颯)を当てて、最後は途中出場のLOダアンジャロ・アスイが4本目。
さらに後半30分にWTB小村真也が5本目、同35分にはFL青木が6本目。
早稲田もWTB槇のインターセプトで3トライ目を返したが、ビハインドは46点(20-66)。最後はSO高本の冷静なキックパスから途中出場の戒田慶都が、11トライ目を沈めた。
スコアは73-20。帝京の73得点は、2020年度の天理大学(55-28)早稲田を超えて決勝で最多。53点差は、2014年度の帝京(50-7)筑波大学の43点差を更新する快挙となった。
シーズンで着実に成長し、決勝の舞台に辿り着いた早稲田。
就任2年目の大田尾監督は「今日は大差がついてしまいましたが、ここまで歩んできた道のりは素晴らしいもの」と話した。
「ただ、こういう展開になってしまったこと、勝たせてあげられなかったことに、責任を痛感しています」
早稲田実業時代は79大会ぶりの花園出場にもスキッパーとして貢献した相良主将。学生ラストゲームを、落ち着いた口調で振り返った。
「悔いが残らないように1年間やってきて、今週一週間良い準備ができました。しかし、ラグビーは、接点とセットプレーの部分で負けたら勝てない、ということを改めて感じました」
そして、この得点差をどう埋めるか、について問われた大田尾監督は、決勝戦の直後ながらこう答えた。
「僕が2年やっているベースでいうと、攻撃にかなり練習の比重を置いています。これをベースと捉えて、(たとえば)極端に練習時間をアタックかディフェンスに振る、このベースを信じて中盤のアタックは手を加えずに組み立てる、といった極端な何かを仕掛けないといけないかなと思います」
「今日多くの失点をして選手はショックだと思いますが、これでも何か得られるものを探して、残してくれたもの、手に入れたもの、ということにフォーカスを当ててやっていくしかないかなと思います」
そして名将・岩出雅之前監督の後任である帝京の相馬監督は「学生たちが素晴らしいパフォーマンスをみせて、優勝という形を終えることができ、本当に幸せだなと思っています」と話した。
なぜ、ここまで強いのか。
そう問われると、相馬監督は答えた。
「何かひとつではないと思います。岩出先生がつくった文化が一番重要な要素。そこにキャプテンを代表とするような、努力の素晴らしさを知っている学生が厳しい練習に耐え、勉強にも励む。その繰り返しを献身的なスタッフが指導、サポートしている。それがこのチームの強さだと思います」
2009年度から前人未踏の大学9連覇を達成した帝京。
2018年度に連覇は途絶え、明治大学(2018年度)、早稲田大学(2019年度)、天理大学(2020年度)が王者となり、そして2022年度は帝京が連覇を達成した。
ここから真紅ジャージーの連覇がふたたび始まるのか。
各大学が絶対王者との差を見つめ、答えを模索する時代がふたたびやってくるのか。
各大学のこれから、そして帝京の来シーズンが今から楽しみだ。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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