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山田響(慶應義塾大学)
2022年度の大学ラグビー王者決定戦「第59回全国大学ラグビー選手権大会」。
この日の流経大のフォーカスは前半40分間だったという。
選手権出場を逃した昨季から仲間とチームを立て直し、2季ぶりの選手権出場を掴んだCTB土居大吾キャプテンが語った。
「選手権までの準備期間で『自分たちの課題は前半にある』という話をしました」
「今シーズンは後半に盛り返すゲームが多かったのですが、選手権は後半に毎回逆転できるほど甘くない、と。前半から自分からラグビーをしようと話していました」(流経大・CTB土居キャプテン)
勝つために出来ることは全てやる――。そんな覚悟で私生活にも目を向けてきた流経大は、前半がキーになると考え、前半からFW・BK一体の「ダイナミックラグビー」を表現しようとした。
ところが序盤から主導権を握ったのは、試合巧者の慶大だった。
「最初に先制できたことでゲームを進めやすくなりました」(慶大・栗原徹監督)
先制点は前半2分。
慶大は敵陣左のラインアウトから2フェーズ目で右隅にボールを運び、裏のスペースへボールを蹴り込んだ。2人のチェイサーも走らせ、そのうち1人のWTB佐々木隼が押さえた。
さらに流経大は前半8分に連続失点。
前半にフォーカスしていた流経大だが、逆に開始10分までに14失点(2トライ2ゴール)する展開に。リーグ戦では獲られても獲り返してきたが、この日は終始、ボールのセキュリティに苦しんだ。
前半10分には自軍投入ラインアウトを4度目で初成功させ、LOアピサロメ・ボギドラウが突進。
しかしトライを獲り急いでしまい、ラックで反則。3分後にも11フェーズを重ねたものの、9番からのダイレクトプレーでノックオン。
筆者のカウントでは前半の流経大の敵陣アタック回数は8回。しかしノックオンや反則、慶大のボールをもぎ取るプレーなどに遭い、全て得点に繋がらなかった。この日流経大のハンドリングエラーは11回(慶大は5回)に上った。
「経験なのか分かりませんが、慶應大学さんには一人ひとりの焦りがなく、チャンスでスコアまで持っていくことができていました」(流経大CTB土居キャプテン)
さらに慶大はペナルティゴールで3点を追加し、リードを17点に広げていた前半33分。
流経大が不要なラックでの反則から自陣に下がると、最後はFB山田が広いスペースを個人技で攻略して3トライ目。24-0で試合を折り返した。
リーグ戦では後半に強かった流経大。
後半開始早々から反撃の狼煙を上げたかったが、序盤に慶大PR鈴木悠太の強烈タックルを受けてターンオーバー。続くチャンスでも慶大FB山田にボールを引き抜かれてボールロスト。
アイザイア・マプスア(慶應義塾大学)
逆に慶大は後半最初のアタックでLOアイザイア・マプスアが豪快な突進からインゴールを奪った。
慶大のFL今野勇久キャプテンは試合後「ペナルティやチャンスでしっかり取り切ることができた」と話した。
「対抗戦ではペナルティやチャンスをもらっても取りきれない、という場面が多かったです。しかし今日は試合の初めからチャンスの場面で取り切れた。そこは大きかったと思います」(慶大FL今野キャプテン)
慶大はチャンスにおいても規律をもってプレーを遂行。高確率でスコアに繋げた。
しかし後半7分、流経大がこの日チーム初得点。
アピサロメ・ボギドラウ(流通経済大学)
きっかけは敵陣でのキックチャージ。ここから連続攻撃を仕掛けると、エリア右でLOアピサロメ・ボギドラウがピック&ゴー。
オフロードパスを受けたSH武井陽昌が右隅から走り込み、最初のスコア。ゴールは決まらず26点差(5-31)。さあ反転攻勢へ――。
ラグビー 全国大学選手権 22/23 3回戦
【ハイライト動画】流通経済大学 vs. 慶應義塾大学
しかし大勢は変わらなかった。
慶大は後半13分にはスクラムのペナルティから敵陣に入り、この試合初めてモールでトライ奪取(38-5)。対照的に流経大は直後の敵陣モールでノックオンに終わった。
慶大は終盤においてもスクラムでPK奪取。敵陣左のコーナーへ入ると、精度の高いラインアウトからモールで2本目。SO中楠はプレースキック7本を全成功(100%)。15点を叩き出し、大差決着に貢献した。
最終スコアは45-5。流経大はボールセキュリティーに加え、ラインアウト成功率が63.1%(19本中12本成功、慶大は成功率85.7%)。セットプレーの攻防でも苦しんだ。
流経大の内山達二監督は「最初から最後まで噛み合わなかったゲームでした」と話した。「慶應大学さんのプレッシャーもあって、自分たちの力を出しきれないまま終わってしまったゲームだったなと思います」
CTB土居キャプテンは言葉を絞り出した。
「終始自分たちのラグビーができませんでした。悔しい、不甲斐ないという言葉に尽きます。支えてくれた仲間、スタッフ、家族に対して、最後こういう形で終わって、悔しさが残ります」
準々決勝進出を掴んだ慶大の栗原監督は「試合の点差(40点)ほどのものはまったく感じておらず、選手たちが規律を高くプレーしてくれたことで勝ち切れたかなと思っています」と勝因を語った。
「対抗戦から選手権に向けて、大きく改善されたところは規律の面。ペナルティの数です。ブレイクダウンでは非常に少なくなりました。オフサイドがほぼなかったのでは」
「今野キャプテンを中心に規律をしっかり守ろうということは、一週間しっかりやってきましたし、そこは成果として出たかなと思っています」
勝利した慶大は準々決勝へ進む。2週間後の12月25日(日)クリスマス、大阪・ヨドコウ桜スタジアムに乗り込み、関西王者と相まみえる。
「これで敗退してしまう流通経済大学さんの思いもしっかり背負って、大阪で京都産業大学さんにしっかりチャレンジできるように準備していきたいと思います」(慶大・栗原監督)
点差ほどの差はない、という相手に40点差で勝つ慶大の巧者ぶりは、関西王者にとっても脅威だろう。
はっきりと上昇ムードに転じた慶大と、関西王者との大一番。果たしてどんな結末が待っているのか。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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