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女子ラグビーの頂上決戦を制したのは、ニュージーランド(NZ)代表ブラックファーンズだった。優勝カップを掲げる選手たちの笑顔が清々しい。惜しくも敗れたイングランド代表レッドローゼズ、直前の3位決定戦で快勝したフランス代表もピッチ上にいた。間違いなく女子ラグビーの歴史に深く刻まれる瞬間を見逃すまいとするように、そして、次は自分たちが頂点に立つと誓うように、歓喜の表彰式をしっかりと見据えていた。
11月12日(土)、女子ラグビーの世界一決定戦「ラグビーワールドカップ2021」(コロナ禍で一年延期)のファイナルは、NZ最大の都市オークランドのイーデンパークで行われた。カードは前回大会(2017年)と同じ。連覇を目指す地元NZに対し、雪辱を期すイングランドはこの決勝をターゲットに強化をし、テストマッチ30連勝という世界記録を更新しながらここまでたどり着いた。
販売されたチケットは完売。42,579人の大観衆の前に両チームが登場する。イングランド代表キャプテンのサラ・ハンターは笑顔でエスコートキッズの手を引いた。両国の国歌斉唱では涙する選手もいたが、その多くが満員のスタジアムを楽しげ見渡していた。ブラックファーンズのハカ「コ・ウヒア・マイ」に、イングランドはフィールド幅いっぱいに広がって対峙した。午後7時30分(日本時間午後3時30分)、決戦は幕を開けた。
モールを武器にフィジカルで勝負するイングランドと、フィールドのどこからでもスピーディーにボールをつなぐNZ。好対照の両者が息詰まる攻防を繰り広げる。序盤はイングランドがペースを握った。前半3分、FBエリー・キルダンが先制トライ。12分には、モールを押し込んで2トライ目をあげる。CTBエミリー・スカラットがゴールを決めて、14-0とリード。アクシデントが起こったのは前半18分だった。
NZのトライゲッター、WTBポーシャ・ウッドマンが左タッチライン際を快走。イングランドWTBリディア・トンプソンが止めようとして頭部と頭部がぶつかる危険なコンタクトとなる。トンプソンはレッドカードを受け退場。同時にウッドマンは脳震とうで交代を余儀なくされた。イングランドは残り60分を14人で戦うことになり、NZは切り札を失った。
その後、イングランドは割り切ってモールを多用し、NZは自陣からも思い切ってボールをつないだ。26-19で迎えた後半の立ち上がり。NZはCTBステイシー・フルーラーがキックオフの切り返しで左タッチライン際を抜け出しトライをあげる。スコアは26-24。後半9分には、交代で入ったばかりのインパクトプレーヤー、PRクリスタル・マレーがトライし、29-26と逆転。しかし、イングランドもモールでトライを返し、29-31と再び逆転。今度は31分、NZのCTBテレサ・フィッツパトリックがディフェンス裏にキックすると、瞬時の加速でボールを追ったフルーラーがゴール前でキャッチしてタックルで倒されながらパスをつなぎ、WTBアイーシャ・レティイイガが逆転トライを決める。スコアは、34-31。足を痛めて退場するフルーラーを、満員の観客がスタンディングオベーションで送り出す。のちに語り継がれるだろう名シーンだった。
3点を追うイングランドは試合終了間際、NZゴール前でラインアウトのチャンスを得る。モールを組めば間違いなく逆転トライだ。試合時間終了のサイレンが鳴り、最後のワンプレーが始まる。NZは一か八かの勝負に出た。モールディフェンスに徹するのではなく、ボールを奪おうと背番号19番のジョアナ・ナンウーがジャンプ。これがイングランドのノックオンを誘う。しばしもみあった後、ノーサイドの笛が鳴る。劇的な幕切れで劣勢を予想されたNZが歴史的勝利をものにしたのだ。イーデンパークは歓喜に揺れた。
10月8日から始まった第9回の女子ラグビーワールドカップは、笑顔で始まり笑顔で終わった。誰もがラグビーを楽しんだ。プール戦は優勝候補のチームが順当に勝ち進んだが、プールAでは、ウェールズとスコットランドが18-15という死闘を繰り広げ、プールCではフィジーが南アフリカを終了間際の逆転で下すなど僅差勝負も多かった。女子日本代表も鍛え上げたディフェンスで健闘したが、トライを獲りきる決定力に乏しく、3連敗で目標のベスト8には届かなかった。しかし、事前に南アフリカ、アイルランドとテストマッチを組み、周到な準備で臨んでの敗退には価値がある。3年後の大会に向けて、さらにプレーの判断、スキルの精度を高め、フィジカル面の強化など急ぎたい。
大会トライ王は7トライのポーシャ・ウッドマン(NZ)。得点王は44点をあげたエミリー・スカラット(イングランド)が輝いた。満員の決勝戦はラグビー王国のニュージーランドで開催されたからこそだが、女子ラグビーの世界的な広がりに与えた影響は計り知れない。競技人口も増えるだろう。そして、RWC2021はラグビーを性別で語ることの無意味さを教えてくれた。決勝戦を見て女性なのに凄いと思った人は少なかっただろう。ボールを持って自由に走り、ぶつかりあい、笑顔を見せながらフィールドを駆け回る姿に心を奪われたはずだ。ラグビーという競技の面白さが、そこに詰まっていた。ラグビーの魅力を改めて教えてくれた選手たちに感謝したい。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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