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福岡堅樹さん
日本ラグビー最高峰のリーグワンが、いよいよ大詰めを迎える。優勝決定戦となるプレーオフトーナメントを前に元日本代表WTB福岡堅樹さんにお話をうかがった。福岡さんは、パナソニックワイルドナイツのWTBとして昨年のトップリーグ優勝に貢献。試合を決めるトライを何度も決めて、シーズンMVPに輝いた。現在は順天堂大学医学部で医師になる夢に向かって学び、そのかたわら埼玉パナソニックワイルドナイツのアンバサダーも務めている。トップリーグから形を変えてスタートしたリーグワン、現在のワイルドナイツは福岡さんの目にどのように映っているのか。一歩引いた立場でのラグビーの楽しみ方、プレーオフの見どころなど語っていただいた。
――最近のラグビーとの関わりを教えてください。
プレーはしていませんが、ワイルドナイツにはアンバサダーとして関わっていますので、熊谷ラグビー場での試合については現地で応援するようにしています。コロナ禍で直接選手と接することはできないのですが、カフェでコーヒーを買ったりクラブハウスを見学したり、僕がいたころにはなかった設備も見学して楽しんでいます。
――トレーニングはしていないのですね。
まったく走っていません。ラグビーから離れてみて、「運動」が日常から離れているのだということを実感しました。意図的に時間を作らないとなかなか運動しないものなのですね。今は家でバイクを漕ぎ、ダンベルで筋トレをして、太らないようにしています。筋肉は細くなったし、小さくなってきました(笑)。
――順天堂大学での勉強のほうはどんな段階ですか。
一年生は無事に終わりました。この一年は基礎的な教養を身に着け、二年生では解剖実習も始まるので、基礎医学の勉強も始まっています。
――トップリーグからリーグワンになりました。アンバサダーとして現場で感じる変化はありますか。
スタジアムに行って感じるのは、ホストゲームをチームとしていかに盛り上げるかという工夫をしていることです。ワイルドナイツを中心に見ていますが、熊谷ラグビー場ではDJ・KOOさんが盛り上げてくれますし、入場のときに炎があがるなどエンターテインメント性も高くなっていて、楽しい空間になっていますね。熊谷ラグビー場は駅から距離があるので、そこも街の人々と一体となって盛り上げている。地域密着が進んでいると感じます。
――ワイルドナイツの本拠地が熊谷になり、クラブハウス、練習場がラグビー場に隣接する環境になりましたね。
羨ましいです。普段から試合に近い環境でトレーニングできるというのは、試合のイメージを持ちやすいと思いますし、実際の試合の時に日常と同じようにやって来て試合会場に行けるというのは本当に羨ましいです。
トップリーグ2021 プレーオフ準決勝
――リーグワンを見ていて、印象に残るシーン、試合などありますか。
個人的なプレーで言うと、バックスリー(WTB、FB)でプレーしていた僕としては、現役時代に対戦しなくて良かったと思う選手がいます。イズラエル・フォラウ選手(シャイニングアークス東京ベイ浦安)です。あのハイボールキャッチは、どうやれば競り勝てるのだろうと考えてしまいます。ディフェンス側としては脅威ですよ。ハイパントのボールに対しては、ディフェンス側は向かってくるボールにジャンプできるのでキャッチしやすいのですが、攻撃側の選手は進行方向に飛んで行くボールをジャンプしてキャッチするのは難しいんです。それを見事にキャッチしていて、脅威だと感じました。
――福岡さん引退後のワイルドナイツに加入した、WTBマリカ・コロインベテ選手をどう思いますか。
余裕で上回られています(笑)。すべてにおいてスペシャルなプレーを見せてくれていますね。能力が高いのに真摯な姿勢でプレーしている。常に全力を尽くす姿勢も若い選手に良い影響を与えていると思います。
――海外出身のプレーヤーで、フォラウ、コロインベテ以外で印象的な選手はいますか。
トヨタヴェルブリッツのピーターステフ・デュトイ選手は身長2mというサイズで常にボールのところにいるし、あの運動量を維持しているのは世界最優秀選手(2019年)に選ばれるだけの選手だと感じます。
――一緒にプレーしていた竹山晃暉選手も活躍していますね。
トライをすることに関しては、これまで通りで何も心配していませんでした。加えて、ディフェンス面で成長していると感じます。気が付いたことは、LINEでアドバイスしているのですが、頭を使ったディフェンスをするようになっていますね。さわやかでイケメンだし、日本代表でも活躍する選手になってほしいです。
――他の選手で良くなっている選手はいますか。
若手の成長は感じます。福井翔太も昨年日本代表に選出されたこともあって自信をつけていますし、ジャッカルのスキルも上がっている。リーグワンという高いレベルの戦いの中で、フィジカルでも負けない強さを見せていますね。
――クボタスピアーズ船橋・東京ベイで今季デビューした根塚洸雅選手がWTBとして才能を発揮しています。
父から「面白い選手が出てきたから、見てみて」と言われて、根塚選手を見るようになりました。攻撃面で思い切りのいいプレーをするし、良いものを持っていると感じます。いまはアタックが目立っていますが、総合的に優れた選手になってほしいですね。
――4位までがプレーオフトーナメントに進出します。ワイルドナイツのほか、東京サントリーサンゴリアス、クボタスピアーズ船橋・東京ベイが実力を発揮しています。
順当に実力あるチームが上位に来ていると思います。サンゴリアスは攻撃のバリエーションが多いですね。若い選手もそれぞれ自分の色を発揮しています。アタックに関しては、ナンバーワンでしょう。スピアーズは、FWの推進力があり、それをうまく生かすSO、CTBがいる。BKでトライを取り切る力も上がっています。何かひとつ自分たちが自信を持つ武器を持っているチームというのは、対戦相手として勝つのが難しいと思います。
トップリーグ2021 プレーオフ決勝
――まもなくプレーオフが始まります。現役時代、レギュラーシーズンとプレーオフで準備の違いなどありましたか。
僕は同じでした。どの試合でも目の前の試合に100%で臨むことに変わりはありません。ただし、肉体の疲労との付き合い方は考えていました。レギュラーシーズンを戦ったあとなので、プレーオフをコンディション良く戦うために、自分の疲労度を考えながら、練習によっては様子を見たり、外から見させてもらったり、チームのトレーナーとも相談して自分の体との付き合い方を考えていました。疲労がたまった状態で練習からすべてを100%でやっていると、筋肉系の怪我のリスクも上がります。練習メニューのコントロールは考える必要があると思っていました。
――去年のトップリーグに比べて試合数も多いですから、余計に気をつけないといけませんね。
そういう意味では選手層の厚さもチームの総合力として必要ですし、同じ選手で戦っていると怪我があったとき、チーム力が落ちてしまうということにもなります。チームとしてシーズンを戦い抜くことが大事ですね。
トップリーグ2021 プレーオフ準決勝
――去年のプレーオフのご自身の思い出を聞かせてください。セミファイナルのトヨタ自動車ヴェルブリッツとの試合では、3トライしていますね。
トライは取っていますが、個人的にはあまりよい出来ではなかったです。キックオフ直後にトライができて、ワイルドナイツとしては珍しい展開でした。だから、ちょっとチームとしてフワっとしてしまって、自分自身のプレーもそうなったので反省点のほうが多かったです。
――決勝戦はサンゴリアスと大接戦でした。
こちらも珍しく先行逃げ切りの展開でしたね。決勝に関しては結果がすべてですから、本当に勝てて良かったです。前半30分のトライは松田力也とのアイコンタクトでパスが来るのが分かったので、出足の速さでギリギリ振り切ってトライまで持って行けたと思っています。
――最後のシーズンに、優勝とMVPを獲得できたことについては、改めてどんな思いですか。
チームに感謝ですよ。WTBがMVPに選ばれるというのは、トライをとったからだし、そのトライはチームが良い状況でボールを運んでくれたからです。最高の花道を作って送り出してくれたなと思います。感謝しかないです。
――まもなく一年経ちますね。
リーグワンを見ていて、自分はこのレベルではもうプレーできないと感じています。ワイルドナイツのレベルも間違いなく上がりました。僕の代わりにコロインベテ選手が入っただけで上がっていますし、それをうまくチームの中で機能させていますよね。選手層も厚くなっていますし盤石ですよ。強いて言えば、試合の立ち上がりに出来が悪いことがあるくらいでしょう。
――ワイルドナイツは相手に対応して戦うスタイルで、先手必勝のタイプではないですからね。
そうなんです。エネルギーをセーブしながらうまく戦って、後半の勝負どころでいかに突き放すかという展開が多いですね。僕らのころは特に意識してそういう練習をしていたわけではありません。ただ、カウンターアタックのリアクションの早さについては普段の練習から意識していました。練習内容はオーソドックスですよ。
――オーソドックスな練習で、なぜあんなに強いんですか。
個々の選手のラグビーの理解度が高く、選手同士がしっかり話し合って適応するという、よい文化があると思います。
――観戦のとき、どんなところに注目していますか。
やはり、WTBの目線で見てしまいますね。WTBがどういう形で攻撃に参加しているのか、ディフェンスでタックルするだけではなく、WTBの動きひとつで攻撃の芽をつめているかどうか。そこは重きを置いてみています。
――これからはラグビーの面白さを多くの人に伝える立場になると思いますが、どう伝えたいですか。
難しいですけど、ラグビーは各自がいろいろな楽しさを見つけられるスポーツだと思います。個性的な選手が多いし、ポジションでも役割が違うし、それぞれの魅力があるので、誰か一人お気に入りの選手を見つけて、その選手のプレーを追いかけるのも楽しみ方のひとつだと思います。
トップリーグ2021 プレーオフ準決勝
――福岡さん自身はプレーしていて何が面白かったですか。
タックルしてくる相手を触らせずに抜く快感ですね。これは最高です。その爽快感は見ていても感じられると思うし、そこも楽しんでほしいですね。
――リーグワンの観客が少なめですが、さらに盛り上げるには何が必要だと思いますか。
コロナ禍ということもあって、お客さんを増やすのは難しいのですが、選手にできることは、もう一度見たいと思えるような試合をすることだし、運営側は試合以外でも楽しめる環境をいかに作るかでしょう。多くのチームが、スタジアムに来て、試合が始まるまでに楽しめることを提供していますよね。そういう地道な努力をやっていくしかないです。人気を高めるうえでは日本代表の活躍も大事だと思います。2023年のラグビーワールドカップも大事ですね。日本の人々は日本代表が世界で活躍すると一体となって応援してくれますから。
【リーグワン初代王者をかけたプレーオフへ】
TL最後のMVP・福岡堅樹 SPインタビュー!
――ファンの皆さんにプレーオフをどんなふうに楽しんでほしいですか。
プレーオフの対戦カードは、レギュラーシーズンの中で少なくとも一度結果が出ている戦いです。負けたチームがどんな戦略、戦術で臨むのか。それもひとつの楽しみです。スペシャルなプレーを用意していることもあるので、前情報から予測して楽しむのも面白いと思います。リーグワンの初代王者を目指す戦いですから、そこに賭ける強い思いも楽しんでもらいたいですね。
福岡さんは、レベルアップを続ける日本ラグビーを心から楽しんでいるようだ。「もう一度、プレーしたいと思いませんか?」と問いかけてみた。すると、こんな答えが返ってきた。「やりたい気持ちも少しはあります。でも、もしやるのならしっかり準備してプレーしたいし、その準備がどれだけ大変かがよくわかっているので、僕は見て楽しむ方にまわろうかな、というのが正直な気持ちです」。体に染みついたプレーのイメージがあるので、「そうではない自分は耐えられない」という感覚も面白い。どんなプレーオフトーナメントになるのか。果たして、結末は。福岡さんのコメントを参考にして、大いに楽しみたい。
福岡堅樹さん
■福岡堅樹(ふくおか・けんき)
・生年月日:1995年9月13日
・出身地:福岡県
・ラグビー経歴:玄海ジュニアラグビークラブ→福岡高校→筑波大学→パナソニックワイルドナイツ。ジャパンラグビートップリーグ2021MVP受賞。日本代表キャップ38キャップ(ラグビーワールドカップ2015、2019出場)。7人制日本代表(リオデジャネイロオリンピック出場)
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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