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自力で初の選抜出場を決めた修猷館
3月25日(金)から31日(木)まで、埼玉・熊谷ラグビー場を中心に、春の高校王者を決める第23回全国高校選抜ラグビー大会が行われる。今回は注目校の1つ、14大会ぶり2度目、そして自力では初の出場を決めた修猷館(しゅうゆうかん)高校を紹介する。
福岡県立修猷館高校といえば福岡藩校の流れを組み、東京大学、京都大学、九州大学への合格者も多い県内屈指の進学校である。3月に卒業したラグビー部員も九州大学に2人、筑波大学医学部に1人、高校日本代表候補に選ばれたWTB(ウィング)/FB(フルバック)福島秀法選手など早稲田大学に3人が現役合格し、昨年3月に卒業した先輩も一浪の末に京都大学や慶應義塾大学に合格したという。
ラグビー部は1925年創部の歴史を持ち、「花園」こと全国高校ラグビー大会には8度出場し、1951年度大会はベスト4も経験している古豪として知られている。
一昨季、福岡県から2校出場できた100回大会の記念大会でも、福岡予選では決勝に進出。昨季の同予選でも決勝に進出し、東福岡に敗れたが、近年、レベルの高い福岡で上位に進出。今季の新人戦も、準決勝で東海大福岡を下して九州大会に進出した。
そして迎えた九州大会では、1回戦で鹿児島工業(鹿児島)に21-7で勝利し、2回戦で花園常連の高鍋(宮崎)と激突。前半こそ、7-14と劣勢だったが、後半は伝統であるチーム一丸となった守備で相手を零封し、21-14で勝利。ベスト4に進出し、自力では初の選抜大会出場を決めた(2008年は大会推薦の「チャレンジ枠」で初出場)。
キックによるゲームメイクでチームを引っ張るSO島田主将
公立校のため部員は2年生12人、1年生14人の26人(その他に2年生の女子部員1人、マネージャー4人)と強豪校と比べて決して多くなく、部員の1/3はラグビー未経験で高校から始めた選手だ。毎週6日の練習をしているが朝練習はなく、1回の練習は2時間半ほどと集中して行っている。
それでは、なぜ修猷館ラグビー部は近年、強豪ひしめく福岡で上位に進出し、今大会で、全国大会に出場することができたのか。
第44回木元杯全九州高等学校新人ラグビーフットボール大会 2回戦
【ハイライト】修猷館 vs. 高鍋
コーチとして1年間、監督として7年間指揮し、自身も同校のOBで筑波大学ラグビー部出身の眞鍋健治監督は、「一番大きかったのはメンタルの部分です。昨秋11月の花園予選決勝でヒガシ(東福岡)と対戦し、負けたとはいえ、決勝までの1週間のチャレンジが楽しかった。九州大会の高鍋戦では全国に対する執着心、もう一度、(選抜で)楽しいラグビーがしたいという気持ちが入っていた」と分析する。
自身もOBの眞鍋監督
もう1つは、眞鍋監督曰く「上手な選手が多くなく、全員で相手が嫌なことをする守備を伝統するチームですが、今年度はうまくいかないときでも、キックが蹴れる、ボールの落としどころがわかっている選手が多く、エリアマネジメントがうまい」。つまり、セットプレーやディフェンスでプレッシャーを受けても、相手陣でプレータイムが長かったことが勝利につながったというわけだ。
また、環境面、ラグビー面での向上も見られる。まず環境面では2020年8月に県と同校のOB会の共同事業により、ラグビー部、サッカー部など運動部が使用する校庭が人工芝となり、照明も設置された。「砂場のようなグラウンドから人工芝となって弱くなるといわれましたが、練習の質、効率が上がりました」。
決定力が期待されているWTB嶋田竹虎
ラグビー面では眞鍋監督の高校の同期で、九州電力キューデンヴォルテクスで活躍した元日本代表FL(フランカー)/NO8(ナンバーエイト)川嵜拓生氏も仕事をしながらコーチをしていることが大きいという。川嵜コーチの提言により、毎日1時間くらいウェイトトレーニングをしてからグラウンド練習をする日々だ。
「最初はしんどそうでしたが、最近はウェイトトレーニングの後、短期集中で、グラウンドで練習することに慣れてきました。また、新しい戦術などを川嵜コーチが考えてくれるので、今までのラグビーをベースに私がどう落とし込むか考えてやっています」(眞鍋監督)。
気になる勉強とラグビーの両立に関しては、チームとして現役合格を強く意識することはないという。眞鍋監督は「選手によっては3年間で、文武両道を貫いて結果を出す人もいれば、ラグビーに集中して、その後(浪人して)勉強するのも認めています。慶應義塾大学のCTB(センター)鬼木崇(3年)は2浪ですし、そういった生き方も紹介してリスペクトしています」と個々の生徒の自主性に任せている。
SO島田主将(右)とLO原田副将
例えばキャプテンSO(スタンドオフ)島田隼成(2年)は高校卒業後、「ラグビーで上を目指したい」とニュージーランドの大学へ進学を希望しており、副将LO(ロック)原田恒耀(2年)は「早稲田大学でラグビーを続けたい」と話す。ケガの影響で今大会の出場は難しいが、未経験者ながらSH(スクラムハーフ)のレギュラーとなった佐藤琉海(2年)は、成績は学年トップクラスで、国公立の難関大学を目指しているという。
すでに選抜大会の1~2回戦の組み合わせは決まっており、3月25日の1回戦は69回と花園最多出場の秋田工業(秋田)と対戦し、勝利すれば2回戦では桐蔭学園(神奈川)と松山聖陵(愛媛)の勝者と対戦する。
今年度のチーム目標は秋の花園予選で「ヒガシを倒すこと」を掲げているが、島田主将は「個人として初めての全国大会出場にワクワクしています。キックで周りの選手を活かしながら、チームがより良い方向にいくようにゲームメイクしたい。1回戦で自分たちのラグビーをして勝利し、その先を経験したい」と語気を強めた。
秋田工業戦ではFWの奮闘が鍵を握る
FW(フォワード)の中心選手の1人、副将のLO原田は「川嵜コーチからは基本的なことから、いろいろなことを教わっています。(1回戦で対戦する)秋田工業はFWが強いと思いますが、FW全員で真っ向勝負したい。そして全国レベルの相手と戦うのは自分の人生の中でも貴重な経験、糧になると思うので、今後の人生につなげたい」と話す。
自身も初の全国大会の指揮となる眞鍋監督も、「公立高校は部員が少ないのでポジション争いはなく、部員全員を戦力にしないと勝てない。全員がチームの勝利に必要です。高鍋戦の後半がそうだったように、15人が1つになって、ディフェンスで身体を張ったときは強いチームに変身できる」と意気込んでいる。
コロナ禍の影響でなかなか練習時間が取れない中でも、チーム一丸、選抜に向けて準備を進めてきた。1回戦の秋田工業は偶然にも1951年度の花園の準決勝で敗れた相手であり、OBも勝利を期待している。修猷館が伝統の泥臭いディフェンスとエリアマネジメントを武器に2度目の選抜に挑む。
文:斉藤健仁/写真提供:修猷館高校ラグビー部
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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