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竹山晃暉選手
コロナ禍で開催された第100回全国高校ラグビー大会は桐蔭学園の連覇で幕を閉じた。果たして101回目の大会を制するのはどの高校なのか。全国各地で予選が行われ、次々に出場チームが決まる。日本一を目指す高校生たちの冬はこれからが本番だ。今回お話を伺ったのは、埼玉パナソニック ワイルドナイツの竹山晃暉選手。奈良県の御所実業で2度「花園」に出場し、第94回大会では準決勝で劇的な決勝トライをあげている。高校ラグビーの魅力、花園の思い出、そして、花園終了後に開幕するリーグワンへの抱負も語ってもらった。
――高校のラグビー部時代はどんな生活だったのですか。
「高校1年生のときは寮生活でした。寮とは言っても竹田寛行監督のご自宅です。高校に入学した頃の僕の体重は70kgに届かないくらいで、竹田先生から、『試合に出たかったら75kg以上になれ』と言われて、先生の家に住むことになりました。朝と夜はご自宅でたっぷり食べさせてもらって、昼は先生の奥さんがお弁当を作ってくれました」
――そのとき、先生の自宅には何人くらいのラグビー部員がいたのですか。
「12人です。二段ベッド6セットで寝ていました(笑)。先生はグラウンドでは厳しいですが、家に帰るとお父さんみたいでした。僕も心を開くことができて、彼女ができた話もしましたし、先生にはなんでも話しましたね。体重はすぐに増えたので、2年生からは自宅から通学することになりました」
――ラグビー一色の生活だったのでしょうね。
「僕は農業科だったので、ラグビーと農業です。農作物を育て、米を作ったりしていました。僕は奈良県出身で家のまわりには田んぼがたくさんあって、幼いころから田んぼに入って遊んでいたので抵抗はなかったです」
――御所実業の練習環境はどうでしたか。
「僕が高校生の頃は、グラウンドはまだ土で(現在は人工芝)、冬の朝はカチカチに凍結し、お昼ごろにはどろどろになりました。ウェートトレーニングの器具を置く場所もなかったですね。でも、竹田先生はラグビーを人間育成と場と考えられていたので、ラグビーによって人として成長できるということを学ぶことができました」
――同期で今も第一線で活躍しているのは誰ですか。
「花園近鉄ライナーズの菅原貴人、NECグリーンロケッツ東葛の吉川浩貴、リコーブラックラムズ東京の湯川純平たちです」
竹山晃暉選手
――高校1年生で花園に出場していますね。どんな気持ちでしたか。
「最高でした。芝生、環境、観客、対戦チーム、そのすべてが高校生の夢、目標の場だと感じました。僕が初めて花園第1グラウンドの芝生を踏んだのは奈良県中学選抜の全国ジュニア大会のときです。決勝戦で福岡県選抜に逆転勝ちして全国優勝したのですが、1年経って花園に帰ってきたら、スタジアムがすごく大きく見えました。それだけ自分が花園に行きたい、優勝したいという気持ちが強かったからだと思います。花園が自分にとってすごく大きな存在になっていることに気付いたのが1年生のときでした」
――2年生は奈良県予選で天理に敗れて出場を逃しましたね。
「花園で優勝することも大きな目標ですが、奈良県では花園に行くことが難しい。天理という素晴らしいチームがいるからです。いまワイルドナイツで一緒にプレーしている島根一磨(天理高校→天理大学)とは、小学校の頃から中学、高校、大学までライバルでした。お互いの存在があるからこそ、大きく成長できるという意味では御所実業と天理はいい関係だと思います。それに、選手同士は仲が良いんですよ。僕らの頃は両チームともほとんど奈良県民でもありましたから」
――負けたときは、花園で天理を応援するのですか。
「もちろんです。仲のいい友達や、先輩もいます。負けたことは悔しいけど、純白のジャージーが花園でプレーしているのを応援していました」
――高校3年生では花園に戻ってきましたね。
「あのとき、ラグビーがさらに好きになりました。1年生のときは緊張していましたが、3年生では余裕があって、自分のプレーで人に影響を与えることができるという魅力に気づくことができました。また、勝ち続けることによって自信がつき、自分たちがやってきたことを忠実にやれば試合に勝てるのだということが分かってきました。短い期間だけれどチームの成長を感じることができましたね」
竹山晃暉選手インタビュー
――強いて印象に残った試合をあげるとどれですか。
「準決勝の慶應義塾戦ですね。最後まであきらめなかったし、最後まで冷静に戦うことができました。最後に僕がトライをしたシーンは、いま話していても鳥肌が立ちます。雪が舞うなかでの攻防はとても良い雰囲気だったし、一日一日の積み重ねが、最後のワンプレーでの逆転につながったのだと思います。少し大人になった今になって思うことですが」
――観戦する人たちに花園の魅力を語ってもらえますか。
「花園に出てくるチームには、それぞれの色があります。ジャージーの色だけではなく、プレースタイルや一年間積み重ねてきたものもそれぞれ違います。優勝が目標のチームもあれば、ベスト8もある。さまざまなチームが、純粋に目を輝からせながら、それぞれの思いを持ってプレーします。そのプレーぶりを見ていると純粋に応援したくなると思います」
――花園でプレーしたことで起きた印象的なエピソードはありますか。
「僕はTwitterをやっているのですが、試合ごとにフォローする人がどんどん増えました。当時はフォロワーが少なかったので、通知をオンにしていたら、次々にTwitterマークが出てきて止まりませんでした。選手としてあんなにスポットライトを浴びたのは初めてのことで、その時に人を魅了することの大切さを思ったし、はじめてラグビー選手としての価値を見いだせたのだと思います」
――それだけ花園が特別な場所だということでもありますね。
「そうですね。僕が初めて花園に行ったのは小学6年生の頃でした。御所実業(当時は御所実業)が初めて準優勝したときです。その翌日、僕は熱を出しました。それくらい気持ちが高揚したということです(笑)」
――今年の御所実業はどうですか。
「今年のメンバーには1、2年生から花園で活躍した選手がいるので、そういう選手がいかにリーダーとして引っ張っていけるのかは見どころですね」
――高校生たちに激励のメッセージをお願いします。
「一日一日の積み重ねが大事です。自分たちがどこを目指して、どうなりたいのかという目標を明確に持つことで、チャレンジできる幅が変わってきます。目標を追求してプレーすることが大舞台で自信となり、ラグビー自体を楽しむことにもつながります。花園という特別な場所を自分にとっての特別なものにできるかどうかは自分次第だと思います」
竹山晃暉選手
――年が明けて、2022年1月7日からはジャパンラグビーリーグワンが開幕しますね。埼玉パナソニックワイルドナイツの準備状況はいかがですか。
「立派なクラブハウスができて、幸せな環境でラグビーができています。現在(取材は10月下旬)は、チームの基盤を作っている段階です。日本代表、海外代表も含めて10数名の選手が抜けていますので難しい部分もあるのですが、どの選手も自分の役割をしっかりと果たすのがワイルドナイツの魅力の一つです。公式戦が始まると、『ワイルド』と『ナイツ』の2チームに分かれます。ワイルドは試合に出るメンバーで、ナイツはメンバー外のチーム。ナイツは対戦相手のコピーをして、ワイルドの練習相手をします。これが昨季のトップリーグで優勝できた大きな要因だと感じています」
――具体的にはどういうことですか。
「僕は昨季、第7節まではワイルドでプレーしていました。そこで足首の怪我をしてしまって、ドクターからは今季はもうプレーできないと言われました。でも、あきらめる気にまったくならず、懸命にリハビリをしました。そういう空気がチーム内にあったということです。大人になると、高校生のときよりも、試合に出られないもどかしさ、悔しさが強くなります。そういう感覚の中で、ナイツの選手たちはチームのために何ができるかを考えて取り組んでいました。それがチームの強みなのです。僕も優勝を決めるフィールドに立ちたいという信念を持ってリハビリをしました。その結果、決勝の前の週に復帰することができました。しかし、決勝戦のメンバー発表時に僕の名前はありませんでした」
――それは悔しかったでしょうね。
「そのとき、ロビーさん(ディーンズヘッドコーチ)がそっと寄ってきて、『君があきらめずにリハビリに取り組んでくれたことはチームの強みになる。メンバーからは外れたけど、チームのためにありがとう』と言ってくださいました。それからナイツに入って、相手のコピーをしました。ワイルドとナイツの両方を経験できたことは僕にとって大きかったです。試合に出ることの責任も感じましたし、出られない選手の気持ちも胸に抱いて戦わないといけないと思いました」
――昨季のチームから同じポジションの福岡堅樹さんが抜けましたね。
「堅樹さんは僕にとって大きな存在でした。でも、プレーヤーとしてのキャラクターは異なる部分があるし、ファンの皆さんがパナソニックの試合を見たとき、堅樹さんが抜けて寂しいなと思われないように、WTBとして皆さんを魅了するプレーヤーになりたいと思っています」
――ご自身の特徴はどんなところですか。
「(トライの)嗅覚だと思います。堅樹さんはトライに持っていく力がありましたが、僕はトライが生まれるシーンを予測してポジショニングすることで勝負したい。そして、ボールのタッチ回数をどんどん増やしたいと思っています」
――リーグワンの開幕戦では、国立競技場でクボタスピアーズ船橋・東京ベイと対戦することになりますね。
「楽しみです。クボタはいいチームなので、いい準備をしてチームとしてひとつになって戦いたいですね。もちろん、優勝が目標ですが、そのためには『昨シーズンと一緒ではだめだ』とロビーさんから言われています。成長したシーズンを送るために各選手が準備しているところです」
――個人的な目標はありますか。
「昨シーズンは新人賞のタイトルをいただきました。その賞に満足することなく成長したいと思います。何かの賞を狙うというよりは、相手チームの脅威となって、勝利に貢献できるプレーヤーになりたいと思っています」
――新シーズンに向けて何かテーマにしているような言葉はありますか。
「ロビーさんが今季のチームに合流された日にいただいた言葉があります。『さまざまなことにチャンレンジすることは大事だけれど、チャレンジすることが重荷になっていないか? もし、そうであれば、それを選択という言葉に変えなさい。それが晃暉にとってプラスになると思うから』。この言葉で頭がクリアになりました。強くなるために何をすべきか、そのつど選択していくということです。ロビーさんは選手を成長させてくれるコーチです。ベン・ガンターやディラン・ライリーも若いときに日本に来て成長し、日本代表入りを果たしました。彼らを良いモデルにして僕も代表入りを目指していきたいです」
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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